【司法書士】
遺言検索システムと遺贈の登記①


司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行

 彼岸に入り,まもなく春分の日が参ります。「暑さ,寒さも彼岸まで。」との格言のように,寒さも彼岸で終わってほしいものです。この時期になりますと,いよいよ桜の花が咲くのが待ち遠しくなります。桜は,菊と並んで日本の国花とされており,日本人にとって特別な花です。春に葉をつけ,夏の暑さに耐え,秋には葉を散らし,冬の寒さにも耐え,1年をかけて開花をするための力を蓄え,春のほんの一瞬だけ開花し,潔く散っていくという桜の生きざまが,日本人の心情をとらえて離さないのでしょうか。
 さて,今回は,遺言検索システムと遺贈の登記について,筆者の実務経験を交えながら,紹介して参ります(申し遅れましたが,民事信託(家族信託)は前回にて終了させていただきました)。

1.「遺言検索システム」とは?

 日本公証人連合会では,平成元年以降,全国の公証役場で作成された公正証書遺言の遺言者の氏名,生年月日,公正証書を作成した公証人,作成年月日など(ただし,遺言の内容を除く。)のデータを一元的に管理・運用しています。そして,同連合会では,全国の各公証役場で,一定の要件を満たす者に,その求めに応じてこのデータを利用して公正証書遺言の検索を行うことができる仕組みを提供しています。この仕組みを「遺言検索システム」といいます。遺言検索システムの運用が開始された平成元年においては,わずか34件しか利用件数がありませんでしたが,近年では正証書遺言作成数の増加とあいまって,このシステムの利用件数も飛躍的に増加し,平成27年には6271件を数えるまでに至っています。
 遺言検索システムを利用すると,遺言者の名前と生年月日から,遺言公正証書を作成した公証役場とその時期の特定ができます。そして,原本を保管している公証役場に行って一定の手数料を納付すると,公正証書遺言の謄本の交付を受けることができます。遺言検索システムは,相続開始時において,公正証書遺言を紛失してしまった場合,または,公正証書遺言が作成されたかどうか不明である場合,あるいは,公正証書遺言を作成した事実はわかっているもののその公正証書遺言の所在が不明である場合などには,大変有用で便利なシステムであるといえます。
 しかしながら,このシステムを利用し,あるいは,公正証書遺言の謄本の交付請求ができる者は,相続人等の法律上の利害関係を有している者に限られています。また,システムの利用にあたっては,遺言者が死亡されたことを証明できる書類(除籍謄本等)と法律上の利害関係を有していることを証明できる書類(戸籍謄本)及び請求する者の身分を証明する書類等が必要になります。こうした点では,相続人であればともかく,受遺者にとっては,やや敷居が高いと感じる制度かもしれません。

2.事件の依頼と受託

⑴ 安心の受託?

 過日,日頃親しくお付き合いさせていただいている税理士の甲先生から,先生の顧問先の乙株式会社の代表取締役丙氏が兄である丁氏から戊土地の遺贈を受けたので,遺贈を登記原因とする土地の所有権移転登記をして欲しいとの依頼を受けました。甲先生の話では,受遺者の手元には,公正証書遺言があり,また,登記済証も揃っているとのお話しでした。
 遺贈の登記において,公正証書遺言と登記済証が揃っている場合は,司法書士としては安心して受託できる登記案件だといえます。公正証書遺言は,「相続させる」「遺贈する」等文言が明確に書かれていて,登記申請情報を作成するにあたって,登記原因に迷いが生じませんし,不動産の表示の正確なので,不動産の特定で悩むこともありません。また,必ず遺言執行者の定めがありますので,登記義務者として遺言者の相続人全員を相手にしなくても済みます。さらに,登記済証があれば,それを所持する人は本人である蓋然性が高く,事前通知や本人確認情報の作成などの登記済証がない場合の代替手段を考えなくても済みます。
 しかし,実際,甲先生を通じて,筆者に届いたのは,なぜか,「自筆証書遺言」でした。
 しかも,その内容は「丁は,丙又は丙の妻に戊土地を遺贈する」というものでした。
 このように,受遺者が選択的に定められている遺言書を目にしたのは,司法書士歴25年の筆者にとっても,初めてであり,その衝撃は大でありました。このような遺言書に基づいて登記の申請が受理されるとの文献や先例等は,筆者の知る限りではありませんでした。そこで,あらためて,調査を尽くしましたが,残念ながらこれらを発見することはできませんでした。また,登記所に相談するまでもなく,職業的な勘というもので,仮に家庭裁判所の検認を受けたとしても,このような自筆証書遺言に基づく遺贈を原因とする土地の所有権移転登記は受理されないものと思われました。
 そこで,甲先生に,その旨を告げると共に,遺言公正証書の存否についての再確認をお願いし,連絡を待つことにしました。

⑵ 公正証書遺言の実物がない~遺言検索システムの利用へ

後日,『丙氏は現在入院中であり,病院で丙氏に事情を聞いたところ,丙氏によれば,「現在自分の手元に遺言公正証書はないが,兄(丁氏)が自分に戊土地を遺贈する旨の公正証書遺言をA公証役場で作成したことに間違いはない。」と言っている。』との甲先生から電話がありました。
 これはまさに「遺言検索システム」を利用するしかない,との思いが筆者の脳裏をかすめました。
 そこで,その旨とシステムの利用方法と必要書類をA公証役場に問い合わせておきますと甲先生に告げ,受話器を置きました。
ところが,「遺言検索システム」を利用するべく,早速,A公証役場に問い合わせをしたところ,受遺者がこのシステムを利用するには,極めてハードルが高いことが判明したのです。
 B公証人によると,まず,丁氏が死亡した旨の記載のある戸籍(除籍)謄本を取得することが大前提であって,それがない限り,相談にすら乗れないとの返事でした(このような返事をけんもほろろない返事というのでしょうか)。
 しかしながら,そこを粘り,具体的な必要書類のご教示を願いました。結果,丙氏は相続人ではないので(丁氏の相続人は配偶者と子),利害関係人か否かの判断のため,丙氏が受遺者であることが疎明できる資料及び丙氏の作成に係るもので,丙氏の実印を押印した上申書(印鑑証明書付),さらに受遺者丙氏は丁氏と親族であるので,丁氏との親族関係がわかる戸籍謄本等,司法書士が遺言検索システムを受遺者に代理して利用する場合には丙氏の実印を押印した委任状をそれぞれ用意せよ,との回答を引き出すことに成功しました。
 まず,丙氏が受遺者であることが疎明できる資料としては,文言にやや問題はあるにせよ,先に呈示を受けた自筆証書遺言がこれに該当すると思われました。また,丙氏は丁氏の直系あるいは同居の親族ではないので,丙氏自身が丁氏の死亡した旨の記載のある戸籍謄本を取ることは極めて難しいです。かといって,丁氏の相続人に戸籍謄本の取得をお願いすることも困難な状況でした。なぜなら,遺言公正証書が発見された場合,丁氏の相続人は戊土地を相続する権利がなくなるからです(丙氏とは利害が対立するのです)。
 また,現在入院中である丙氏が上申書を作成するのも困難と言わざるを得ません。
 このような状況では,いずれの作業をも,筆者が行うしかないとの判断に至りました。上申書の作成には,丙氏と面談して,事情を聴くしかありません。そこで,甲先生に,甲先生の立会のもとで丙氏と面談するための日時の調整をお願いしました。

⑶ 受遺者との面談~その1

 後日,病院で,甲先生の立会のもとで丙氏と面談がかないました。
 筆者が聴いた丙氏の説明は,おおよそ次の内容でした。
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① 兄(丁氏,以下同じ。)は,生前,別添,自筆証書遺言を作成して,私に交付してくれたが(筆者が最初に呈示を受けたもの),私の方から,あらためて兄に同内容の公正証書遺言を作成してほしいと頼んだ。
② その後,兄は,A公証役場に赴き,自筆証書遺言とほぼ同内容の遺言公正証書を作成した。そのことは,兄から電話をもらって知った。
③ 戊土地を兄名義にしたのは,兄が長男として家業を継ぐことを前提とした両親の意向であった。
④ しかし,兄は,結局,家業を継がず,次男である私が家業を継いだ。
⑤ 兄は,家業を継いだ私に遠慮して,戊土地を私に遺贈してくれたのだと思う。
⑥ 現在,戊土地の上には,私の自宅が建っている。
⑦ 戊土地の固定資産税は,今日まで長年にわたり私が負担してきた。
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そして,遺言検索システムの代理利用と遺贈による所有権移転の登記を受託するにあたって,後期高齢者医療保険証の呈示を受け,本人確認をしました(病院にはコピーがなかったので,呈示を受けた後期高齢者医療保険証はスマートフォンで写真撮影をしました)。
 また,登記申請の意思確認を行いました。丙氏は入院中でありましたが,意識・記憶は,はっきりしており,これらの確認も問題なくできました。また,戸籍謄本等の取得についても説明し,印鑑証明書と実印の用意もお願いし,面談を終えたのです。

⑷ 「遺言検索システム」の利用と公正証書遺言書の謄本の取得

 事務所に戻ると,本人から聴取した事実を早速上申書にまとめました。
 作成した上申書,遺言検索システムの代理利用と遺言書の謄本請求及びその受領のための委任状を丙氏の自宅宛に郵送し,実印を押印した上で,印鑑証明書と共に返送していただくことになりました。
 また,丙氏と丁氏に関連する戸籍謄本等を取得しました。
これに丙氏が受遺者であることの疎明資料として,先の自筆証書遺言の写しを用意しました。
 すべての書類が揃ったところで,予約した日時にA公証役場にこれらを持参しました。
 そして,持参した書類を提出して,満を持して,遺言検索を願い出ました。
 待つこと数分,遺言検索は,思いのほか,あっさりと結果が出ました。

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平成○年○月○日
丙殿
A公証役場
公証人B 印

遺言検索システム照会結果通知書

 あなたから照会のあった丁様に係る公正証書遺言の有無を調査した結果は次のとおりですので通知します。
日本公証人連合会で運営する遺言検索システムに登録されており,その内容は次のとおりです。
遺言作成日  平成○年○月○日
証書番号   平成○年第○号
遺言作成役場 A公証役場
所在地   東京都○○区○○町○丁目○番○号
電話番号  ○○-○○○○-○○○○
作成公証人 B
以上
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 丙氏からの聴取どおり,丁氏は,A公証役場で公正証書遺言を作成している事実が判明したのです。そこで,公正証書遺言の謄本の交付を申請し,所定の手数料を納付して,無事,この交付を受けることができました。
 その公正証書遺言には,次のとおり,丙氏に戊土地を遺贈する旨及び丙氏を遺言執行者として指定する旨の記載がありました。
 ここに至り,筆者もほっと胸をなで下ろしました。
 しかし,この後,もう1つクリアすべき問題が生じることになるのです。
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遺言公正証書
 本公証人は,遺言者丁の嘱託により,後記証人2名の立会いのもとに,遺言者の口述を筆記してこの証書を作成する。
 第1条 遺言者は,遺言者の所有する下記の土地を,遺言者の弟丙(昭和○年○月○日。 
   以下「丙」という)に遺贈する。
所 在 東京都○○区○○町○丁目
地 番 ○番○
地 目 宅地
地 積 ○○.○○㎡
第2条 丙が遺言者の死亡以前に死亡した場合は,第1条により丙に遺贈するとした土地は丙の妻庚(昭和○年○月○日。以下,「庚」という)に遺贈する。
第3条 遺言者は,この遺言の遺言執行者として,丙を指定する。
2 丙が遺言者の死亡以前に死亡した場合は,遺言者は,この遺言の遺言執行者として,庚を指定する。
3 遺言執行者は,この遺言に基づく不動産に関する登記手続その他この遺言を執行するのに必要な一切の権限を有する。
4 遺言執行者は,この遺言の執行に関し,第三者にその任務を行わせることができる。
以上
本旨外要件
住所 東京都○○区○○町○丁目○番○号
職業 無職
遺言者 丁
生年月日 昭和○年○月○日
上記は,印鑑登録証明書の提出により,人違いでないことを証明させた。
住所 東京都○○区○○町○丁目○番○号
職業 会社員
証人 X
生年月日 昭和○年○月○日
住所
職業
職業 会社員
証人 Y
生年月日 昭和○年○月○日
以上を遺言者及び証人に読み聞かせたところ,各自その筆記の正確なことを承認し,次に署名押印する。
遺言者 丁 印
証 人 X 印
証 人 Y 印
この証書は,平成○年○月○日本公証人役場において,民法第969条第1号ないし第4号に定める方式に従って作成し,同条第5号に基づき,本公証人次に署名押印する。
東京都○○区○○町○丁目○番○号
○○法務局所属
公証人 B 印

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