【司法書士】
遺言検索システムと遺贈の登記②


司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行

 時折,寒の戻りはあるものの,天候もようやく春めいて参りました。
 間もなく,3月も終わりですね。
 3月は年度末であることから,司法書士にとっては,3月中に登記の申請をしてほしい旨の依頼が重なり,バタバタと何かと落ち着かない時期ではあります。
 さて,今回は,遺言検索システムと遺贈の登記について,筆者の実務経験を交えながら,紹介して参ります。

1.「遺言検索システム」とは?
2.事件の依頼と受託
⑴ 安心の受託?
⑵ 公正証書遺言の実物がない~遺言検索システムの利用へ
⑶ 受遺者との面談~その1
⑷ 「遺言検索システム」の利用と公正証書遺言書の謄本の取得
(以上,前回①)
⑸ 今度は登記済権利証が所在不明
⑹ 受遺者との面談~その2
⑺ 登記の申請と完了
3.登記を終えて(以上,今回)


⑸ 今度は登記済権利証が所在不明

 上申書の受領時に併せて,固定資産評価証明書の取得のための委任状と遺贈を原因とする所有権移転登記を代理申請する旨の委任状,さらに印鑑証明書を受領していたことから,公正証書遺言の謄本の取得後は,早速,登記申請の準備へと取りかかりました。
 まず,戊土地の登録免許税を計算すべく,都税事務所に固定資産評価証明書の交付申請をしました。公正証書遺言の謄本が手に入ったおかげで,これを呈示することで,何らの問題もなく速やかに交付を受けることができました。
 取得した戊土地の固定資産評価証明書から登録免許税を算出し,当職の報酬と併せた登記費用の計算ができました。そこで,甲先生を通じ,登記費用を用意していただきたいこと,戊土地の登記済証を預かりたい旨を丙氏に連絡していただくことになりました。
 しかし,当初は存在すると聞いていた戊土地の登記済証が,丙氏が所持していないことが判明しました。丙氏は入院していたことから,丙氏の奥さんが自宅や銀行の貸金庫など心当たりをくまなく探したものの,結局発見することができなかったらしいのです。しかし,利害が対立する丁氏の相続人に,登記済証の所在確認をお願いすることも事実上困難でした。
 このような場合,事前通知制度を利用するのが,最も安価で済みます。そこで,筆者もそれの旨を甲先生と丙氏に説明し,事前通知制度を利用することをおすすめしました。
 ところが,丙氏は現在入院中であり,一時帰宅等もできないことから,登記所から本人限定受取郵便で送付される事前通知を丙氏が自宅(住所地)で受領することは困難でした。また,丙氏の病状では車椅子による移動もできないとのことでした。仮に,不在票をもらった上で,本人が本人確認書類を持参して,郵便局に赴いて,本人限定郵便を受領することも不可能でした。
 甲先生や丙氏と協議しましたが,上記のような事情があるため,結局のところ,事前通知制度を利用することはできないという結論に至ったのです。
 そこで,当職(司法書士)が丙氏と面談し,本人確認情報を作成し,遺贈による所有権移転登記の申請情報と併せてこれを提供することが,唯一の方法となりました(注1)
 前回,丙氏を訪問した際に,登記の申請のための本人確認・意思確認は済ませてはいましたが,本人確認情報の作成をするには,さらに詳しい本人確認が必要不可欠です。具体的には,法定の本人確認書類の呈示を受けなければなりません。前回訪問の時には通常の本人確認のため,後期高齢者医療保険証の呈示を受けていましたが,後期高齢者医療保険証のような写真のない本人確認書類(不動産登記規則72条2項2号。いわゆる「第2号書類」)で本人確認をするには,もう1点本人確認書類を呈示していただく必要があります(注2)。さらに,本人確認情報をより確かなものとするために,筆者は,法定の本人確認書類のほか,固定資産税の納税通知書と納付した事実のわかるものの呈示を求めるようにしています(注3)。そこで,甲先生を通じ,丙氏にこれを準備していただくように依頼しました。もっとも,甲先生が丙氏の会社の顧問税理士を長年務めていること,筆者も病院に赴き,病室の名札などを見て本人を確認していることなどから,本人に人違いがないことはほぼ間違いと思われます。しかし,筆者は丙氏と直接の面識がないため,「面識なし」との扱いになるので,面識がない場合の方法により本人確認をしたしだいです。

⑹ 受遺者との面談~その2

 お願いしてあった書類が揃ったとの連絡を受け,再度,病院に丙氏を訪ねました。
準備していただいたのは,介護保険被保険者証(第2号書類)だったので,この呈示を受け,スマートフォンで写真撮影をしました。さらに,固定資産税納税通知書とその領収書も拝見し,同じように写真撮影をしました。それから,丙氏に住所,氏名,生年月日,干支などを質問し,その回答を得ました。権利取得の経過は,前回の面談で丙氏本人から直接説明を受けていたので,筆者の方から前回の訪問時に伺ったことを申し上げ,事実関係等に誤りがないか,丙氏に確認していただきました。 事務所に戻ると,パソコンに向かい,これらに基づいて,本人確認情報を作成しました。
 丙氏は,登記義務者(遺言執行者)である共に,登記権利者(受遺者)でもあるので,丙氏につき本人確認情報を作成するのは,いささか奇異な感じがしますが,それ以外に方法がない以上,やむを得ません。
(注1)一般に「本人確認情報」は,資格者代理人(司法書士・弁護士)が登記義務者の本人確認を入念に行い,その本人を確認するに際して呈示を受けた法定の本人確認書類や本人確認の方法などを書面(PDFなどの電磁的記録)にして,所属司法書士会等の作成に係る職印証明書(PDFの場合,電子署名)と共に,登記所に提供するものです。本人確認情報を作成とその提供は,実質的には,資格者代理人が本人に人違いないことを保証するに等しいものですから,その作成費用は比較的高額になる傾向があります。なお,登記済証や登記識別情報を紛失した場合,顧客からこれらの再発行の要請がなされることが実務上少なくありません。
(注2)運転免許証のような写真付身分証明書であれば1点呈示を受ければ足ります(不動産登記規則72条2項1号。いわゆる「第1号書類」)。しかし,丙氏はすでに高齢のため,運転免許証は返納してしまったとのことでした。なお,その際に,運転経歴証明書の交付の申請をし,その交付を受けていれば,この身分証明書1点で足ります(運転経歴証明書は写真付き身分証明書です)。残念ながら,丙氏はその交付申請をしていなかったので,運転経歴証明書も持っていませんでした。
(注3)「固定資産税の納税通知書」を所持しているということは,登記簿上の所有者である蓋然性が高いはずなのです。「固定資産税の納税通知書」は,原則として登記簿上の所有者宛に発送されるからです。また,固定資産税納税通知書に基づき固定資産税を納税している人も同様です。利用もしない他人の不動産のために固定資産税だけを納めるという物好きはいないと考えられるからです。

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本人確認情報

 東京法務局○○出張所 御中
          平成○年○月○日
 当職は,本件登記申請の代理人として,以下のとおり,申請人が申請の権限を有する登記名義人であることを確認するために必要な情報を提供する。
東京都墨田区立川二丁目3番1号
 司法書士 齋 藤 隆 行
(登録番号 東京司法書士会 第2714号)

1 登記の目的   所有権移転
2 不 動 産   東京都○○区○町○丁目○番○の土地
3 登記済証を提供できない理由 紛失
4 申 請 人
  住   所  東京都○○区○○町○丁目○番○号
  氏   名 亡 丁
  住   所  東京都○○区○○町○丁目○番○号
  氏   名 上記遺言執行者 丙
  生年月日   昭和○年○月○日
5 面談の日時・場所・状況
  日   時   平成○年○月○日午後○時○分(天気 晴れ)
  場   所   ○○病院○○号室
  状   況
 申請人(登記義務者である上記遺言執行者。以下同じ。)が,付遺言公正証書(平成○年○月○日第○○号)に基づき,本件不動産につき,平成○年○月○日遺贈を登記原因として,所有権移転登記を申請するにあたり,申請人が申請の権限を有する登記名義人であることを確認し,あわせて登記申請の必要書類の事前確認等を行うため当職が面談した。
  同 席 者   丙氏の妻及び税理士甲氏
6 申請人との面識の有無  面識がない
7 面識がない場合における確認資料
  当職は,申請人の氏名を知らず,又は面識がないため,申請人から下記確認資料の提示を受け確認した。
  確認資料の特定事項及び有効期限
  □第一号書類  ■第二号書類  □第三号書類
   ■名称 後期高齢者医療保険証
   ■写し添付の有無 ■あり
   特定事項 ■「別添写しのとおり」
  □第一号書類  ■第二号書類  □第三号書類
   ■名称 介護保険被保険者証
   ■写し添付の有無 ■あり
   特定事項 ■「別添写しのとおり」
8 登記名義人であることを確認した理由
 上記の本人確認書類につき,以下のとおり確認した。
 後期高齢者医療被保険者証,介護保険被保険者証の呈示を受け,その外観・形状に異状がないことを視認した。本人に住所・氏名・年齢・干支等の申述を求めたところ,正確に回答した。
⑴ 規則に定める書類以外の書類確認
 本物件の権利取得に関連する書面ならびに本物件との関連性を確認できる下記の書類の提示を受け本人であることを確認した。
 ■固定資産税・都市計画税納税通知書
 ■固定資産税・都市計画税領収証書(領収印あり)
⑵ 面談時の聴取事項
 ■本物件の権利取得経過,その時期等について尋ねたところ,その経緯について正確な経緯を述べた。また,登記済証の所在については,登記義務者の自宅,取引金融機関の貸金庫などの心当たりをくまなく探し,調査を尽くしたが発見できず,紛失したということである。
 ■その他疑義を生ずる事情等は存在しなかった。
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⑺ 登記の申請と完了

 かくして,登記申請に必要な書面等が用意できたので,本人確認情報とその他の必要書面を提供して,戊土地につき,遺贈を原因とする所有権移転登記を申請しました。余談ですが,複雑で難しい登記を申請するときは,オンライン申請にせず,敢えて紙で申請することがあります(笑)。登記所から補正指示が出た場合の補正がし易いからです。しかし,今回は,紙申請だと,司法書士会館まで職印証明書を取りにいかなければならないので,オンライン申請にしました。

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登記申請書
登記の目的 所有権移転
原   因 平成○年○月○日遺贈
権 利 者 東京都○○区○○町○丁目○番○号
              丙
      登記識別情報通知希望の有無:登記所での交付を希望する
義 務 者 東京都○○区○○町○丁目○番○号
             亡丁
      登記識別情報の提供の有無:無し
      登記識別情報を提供できない理由:紛失(登記済証を紛失)
      東京都○○区○○町○丁目○番○号
       遺言執行者 丙
添付情報 登記原因証明情報(持参)(PDF)(注4)
        本人確認情報(電子署名付きPDF)
      印鑑証明書(持参)
      住所証明書(持参)
      代理権限証書(持参)(注5)
平成○年○月○日申請 東京法務局○○出張所(登記所コード:0106)
代 理 人 東京都墨田区立川二丁目3番1号
      司法書士 齋 藤 隆 行
      連絡先電話番号 00-0000-0000
課税価格  金1000万円
登録免許税 金20万円
その他の事項 登記所において登記識別情報通知書及び還付した原本の交付を希望します。
登記完了証の交付方法 登記所での交付を希望する
不動産の表示
 所 在 東京都○○区○○町○丁目
 地 番 ○番○
 地 目 宅地
 地 積 ○○・○○平方メートル

(注4)具体的には,公正証書遺言と遺言者の死亡を証する戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)を併せて提供します(PDF化して提供します)。
(注5)具体的には,登記権利者である丙氏からの委任状と登記義務者兼遺言執行者である丙氏からの委任状を提供します。
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 申請した登記も補正指示を受けることなく,あっけないほど,受理されました。登記完了後,登記所で,登記識別情報通知の交付を受け,戊土地の登記事項証明書を取得することができました。これらを丙氏にお渡ししました。丙氏も自宅がある土地がご自分の名義になったため,安心されているようでした。
ここに,「遺言検索システム」を利用して取得した遺言公正証書に基づく登記手続は無事終焉を迎えたのであります。

3.登記を終えて

 「遺言検索システム」が大変優れたシステムあり,多くの相続手続で利用されていることは疑いのない事実です。特に,相続人が遺言検索システムを利用するには,被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本等を用意すれば足りるので,システムの利用は比較的容易であると思われます。
 ところが,遺贈における受遺者がこれを利用するには,極めてハードルが高いと言わざるを得ません。たまたま今回は,受贈者が受遺者から遺贈を受けたこと,当時の状況や遺言作成に至る経緯等をはっきり記憶していたこと,不完全とはいえ自筆証書遺言が手元にあったこと等の事情が幸いし,公正証書遺言の存在が明らかとなり,その謄本の交付を受けて受遺者の希望どおり土地の名義を受遺者名義にするための遺贈を原因とする所有権移転登記をすることができました。
 しかし,例えば,遺贈を受けた者が親族以外の第三者であって,遺言作成当時の状況や遺言作成に至る経緯等を詳しく知らない場合などは,利用が困難である場合も少なくないものと思われます。先程申し上げましたように,遺言検索システムを利用するには,受遺者であることが疎明できる資料を用意し,公証役場に対し,自らが受遺者(利害関係人)である旨の説明をしなければならないからです。
 遺言も故人の法律的な最終の意思表示であり,個人情報保護が強く求められる現在にあっては,その内容をみだりに開示できないこというまでもありません。しかし,多少なりとも受遺者である可能性がある者については,せめて,遺言書の有無やその者が受遺者であるか否か程度の情報の開示を可能にすることはできないものだろうかと,すなわち,さらなる「遺言検索システム」の柔軟な運用を,今回の事件の受託を通じて感じました。法務局による自筆証書遺言の保管制度(遺言書保管法)が立法化,公布され,施行を待っている今日,特にその思いを強くしています。

 

 

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