【司法書士】
民法(債権法ほか)の改正について①


司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行

 東京の桜も満開の時期を過ぎ,いよいよ新年度に入りました。
 司法書士試験まで,あと3か月です。これからは,これまでの学習の成果を確実なものにするため,復習を中心とした学習方法に徹してください。決して,新しい教材・テーマなどに手を出してはいけません。あやふやな10の知識より,確実な1の知識をコツコツと積み重ねていくのがよいと思います。
 さて,今回からは,民法(債権法ほか)の改正について,話を進めて参ります。

1 改正の経緯とその概要

  民法のうち債権関係の規定(契約等)は,明治29年(1896年)に民法が制定された後,約120年間ほとんど改正がされていませんでした。しかし,この間に,取引の複雑高度化,高齢化,情報化社会の進展等社会・経済は大きく変化すると共に多数の判例や解釈論が実務に定着しました。
 そこで,平成21年10月から5年余りの審議を経て,平成27年2月10日に法制審議会民法(債権関係)部会において要綱案を決定,同年2月24日に法制審議会総会で要綱を決定(全会一致)し答申,同年3月31日に閣議決定の上,国会に法案が提出され,平成29年5月26日に成立,同年6月2日に公布されました。また,改正内容の周知徹底と十分な準備期間の確保のため,施行日を「公布の日から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日」とされました(政令で定める施行日は,平成32年(2020年)4月1日)。  今回の改正は,民法のうち債権関係の規定について,取引社会を支える最も基本的な法的基礎である契約に関する規定を中心に,社会・経済の変化への対応を図るための見直しを行うとともに,民法を国民一般に分かりやすいものとする観点から,確立した判例や解釈論など実務で通用している基本的なルールを適切に明文化することとしたものです。
 「社会・経済の変化への対応」の観点からの主な改正点は,次のとおりです。
⑴ 消滅時効
 業種ごとに異なる短期の時効を廃止しました。また,時効期間の判断を容易にするため,原則として債権の消滅時効を,債権者が権利を行使することができることを「知った時から5年」に統一しました(改正後民法166条1項1号)。また,権利を行使することができる時から10年間行使しない場合にも,債権は時効によって消滅します(同条1項2号)。 なお,取得時効についての改正はありません。
⑵ 法定利率
 法定利率についての不公平感を是正するため,法定利率を現行の年5%から年3%に引き下げた上,市中の金利動向に合わせて変動する制度が導入されました(改正後民法404条)。
⑶ 保証(または根保証)
 安易に保証人となることによる被害の発生を防止するため,事業用の融資について,経営者以外の保証人(法人等一定の者を除く。)については,保証契約に先立ちその締結の日前1か月以内に公正証書を作成する等,公証人による意思確認手続が新設されました(改正後民法465条の6~9)。
⑷ 約款
 定型取引の安定化・円滑化の観点から,定型約款を契約内容とする旨の表示があれば個別の条項に合意したものとみなされますが,信義則(民法1条2項)に反して相手方の利益を一方的に害する条項は無効とすることが条文化されました。また,定型約款を一方的に変更するための要件が整備されました(改正後民法548条の2~4)。
 また,「国民一般に分かりやすい民法」の観点からの主な改正点は,次のとおりです。
⑴ 意思能力
 意思能力(判断能力)を有しないでした法律行為は無効であることが条文化されました(改正後民法3条の2)。なお,意思無能力による無効の規定には,第三者の保護規定がおかれていません。
⑵ 将来債権の譲渡
 将来債権の譲渡(担保設定)が可能であることが条文化されました(改正後民法466条の6第1項)。
⑶ 賃貸借契約
 条文の規定がなく,トラブルが多発していた賃貸借終了時の敷金返還や原状回復に関する基本的なルールが条文化されました(改正後民法621条,622条の2)。

2 民法(債権法ほか)の改正の骨子

1で述べた改正を含む民法(債権法ほか)の改正の骨子は次のとおりです。
(1) 消滅時効に関する見直し
(2) 法定利率に関する見直し
(3) 保証に関する見直し
(4) 債権譲渡に関する見直し
(5) 約款(定型約款)に関する規定の新設
(6) 意思能力制度の明文化
(7) 意思表示に関する見直し
(8) 代理に関する見直し
(9) 債務不履行による損害賠償の帰責事由の明確化
(10) 契約解除の要件に関する見直し
(11) 売主の瑕疵担保責任に関する見直し
(12) 原始的不能の場合の損害賠償規定の新設
(13) 債務者の責任財産の保全のための制度
(14) 連帯債務に関する見直し
(15) 債務引受に関する見直し
(16) 相殺禁止に関する見直し
(17) 弁済に関する見直し(第三者弁済)
(18) 契約に関する基本原則の明記
(19) 契約の成立に関する見直し
(20) 危険負担に関する見直し
(21) 消費貸借に関する見直し
(22) 賃貸借に関する見直し
(23) 請負に関する見直し
(24) 寄託に関する見直し

3 民法の改正法の施行日について

 民法(相続法)の改正法については,すでに,一部施行されています。ここでは,民法(債権法ほか)の改正法の施行日を整理・確認しておきましょう。
 平成30年(2018年)4月1日施行
  定型約款に関する規定(民法(債権法ほか)の改正法)(注1)
 平成31年(2019年)1月13日施行
  自筆証書遺言の方式の緩和(民法(相続法)の改正法)
 平成31年(2019年)7月1日施行
  遺言執行者の権限の明確化(民法(相続法)の改正法)
  遺産分割等に関する見直し(民法(相続法)の改正法)
  遺留分制度に関する見直し(民法(相続法)の改正法)
  相続の効力等に関する見直し(民法(相続法)の改正法)
  相続人以外の者の貢献を考慮するための方策(民法(相続法)の改正法)
 平成32年(2020年)3月1日
  公証人による保証意思の確認手続(民法(債権法ほか)の改正法)(注2)
 平成32年(2020年)4月1日施行
  配偶者の居住権を保護するための方策(民法(相続法)の改正法)
  民法(債権法ほか)の改正法
 平成32年(2020年)7月10日施行
  遺言書保管法

(注1)定型約款に関する規定について
 「定型約款」とは,ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う定型取引において,契約の内容とすることを目的として,その特定の者が準備した条項の総体,いわゆる「約款」のことをいいます。「約款」とは,企業などが,不特定多数の消費者と同じ内容の取引をする場合に示す契約条件,すなわち,大量の同種取引を迅速・効率的に行うために作成された定型的な内容の取引条項のことをいいます。具体的には,鉄道やバスなどの運送約款や,損害保険,生命保険約款のほか,電気やガスの供給約款,インターネットサービス(通信販売など)の利用規約がこれにあたります。
 「定型約款」に関しましては,施行日前に締結された契約にも,改正後の民法が適用されますが,施行日前(平成32年(2020年)3月31日まで)に反対の意思表示をすれば,改正後の民法は適用されないことになります。この反対の意思表示に関する規定は平成30年(2018年)4月1日から施行されています。
(注2)公証人による保証意思の確認手続について
 事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする保証契約は一定の例外がある場合を除き,事前に公正証書が作成されていなければ無効となりますが,施行日から円滑に保証契約の締結をすることができるよう,施行日前から公正証書の作成を可能とすることとされています。この規定は平成32年(2020年)3月1日から施行されます。

4 なぜ,今,民法(債権法ほか)の改正についての学習をする必要があるのか?

 例年の司法書士試験の法令基準日はその年の4月1日です。
 この原則に従えば,今年度の本試験で,平成32年(2020年)4月1日施行の民法(債権法ほか)の改正について出題される可能性はないといえるでしょう(注3)。
しかしながら,平成30年度の司法書士本試験の民法につきましては,明らかに民法(債権法ほか)の改正を意識した出題がありました。具体的には,第16問(詐害行為取消権),第18問(解除),第19問(委任)がこれにあたります。これは,法務省や司法書士本試験委員が,民法(債権法ほか)の改正について,すでに十分な研究をしており,深い関心があることの証であるといえます。また,今年度の本試験は,改正前の民法(債権法ほか)で出題される最後の年です。司法書士本試験委員も最後のチャンスとばかり,改正前の民法(債権法ほか)を出題してくる可能性があります。そこで,改正法を意識した学習が必要となるのです。
 今年の司法書士本試験での合格を目指そうという受験生の方は,今年の本試験では出題されない改正後の民法(債権法ほか)の規定を理解し,これを覚える必要はありません。しかし,民法(債権法ほか)の規定のどの部分が改正になるのかという点については,大ざっぱで構いませんので,本ブログを流し読みし,確認しておいてください。民法(債権法ほか)の改正 を意識した出題に対応できるようにするためです。
 来年(平成32年,2020年)の司法書士本試験では,確実に改正後の民法(債権法ほか)の規定が出題されますので,この年の合格を目指そうという受験生の方は,今から十分に改正後の民法(債権法ほか)の規定を学習していただきたいと存じます。
今後,法務省が民法改正についての司法書士試験に関する情報を公表した場合には,本ブログで適宜お伝えしてまいります。
(注3)平成30年度司法書士試験において解答に当たり適用すべき法令について
 「平成30年度司法書士試験における民法(明治29年法律第89号)の適用については,平成29年5月26日に成立した民法の一部を改正する法律及び民法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律による改正後のものではなく,平成30年4月1日現在において施行されている民法に基づいて解答してください」とのアナウンスがありました(出典:法務省ホームページ)。

 

 

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