【司法書士】
民法(債権法ほか)の改正について②


司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行

 暦の上では,春とはいえ,寒暖差が激しい日々が続いております。このような時期は,体調の管理が非常に難しいです。風邪などお召しになりませんようお気をつけください。
 答練の記述式の答案を採点しておりますと,答案のすべての欄を書き切っているにもかかわらず,点数が一桁台の答案が散見されます。なぜ,このような現象が生じるかというと,理解や知識があやふやだからです。あやふやな理解や知識はいくつあっても全く得点に結びつきません(答案を作成する時間が無駄です)。ですから,あやふやな10の知識より,確実な1の知識をコツコツと積み重ねていくことが肝心なのです。
 さて,今回からは,民法(債権法ほか)の改正について,具体的な内容について進めて参ります。

1 消滅時効に関する見直し
⑴ 短期消滅時効の特例制度の廃止
⑵ 一般の債権の消滅時効期間の見直し
⑶ 長期の消滅時効期間の導入
⑷ 商行為によって生じた債権(商事債権)に関する短期消滅時効の廃止
⑸ 時効の更新と完成猶予
⑹ 消滅時効の援用権者の明文化(以上,今回)


1 消滅時効に関する見直し

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<主な改正点>
・ 消滅時効期間については,職業別の短期消滅時効の特例(民法170条~174条)を廃止しました
・ 一般の債権の消滅時効期間を債権者が権利を行使することができることを知ったときから5年とすると共に(改正後民法166条1項1号),権利を行使することができる時から10年としました(同条1項2号)。
・ 商行為によって生じた債権(商事債権)に関する短期消滅時効も廃止しました。
→ 時効期間の単純化・統一化が目的
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⑴ 短期消滅時効の特例制度の廃止

 現行民法は,職業別の短期消滅時効の制度を設け,ある債権がいかなる職業に関して発生したものであるかによって細かく区分し,それぞれ1年,2年または3年の時効期間を定めています。具体的には,次のように定められています。
① 1年の短期消滅時効(民法174条)
 ・ 月またはこれより短い時期によって定めた使用人の給料に係る債権
 ・ 自己の労力の提供または演芸を業とする者の報酬またはその供給した物の代価に係る債権
 ・ 運送賃に係る債権
 ・ 旅館,料理店,飲食店,貸席または娯楽場の宿泊料,飲食料,席料,入場料,消費物の代価または立替金に係る債権
 ・ 動産の損料に係る債権
② 2年の短期消滅時効(民法172条,173条)
 ・ 弁護士,弁護士法人または公証人の職務に関する債権
 ・ 生産者,卸売商人または小売商人が売却した産物または商品の代価に係る債権
 ・ 自己の技能を用い,注文を受けて,物を製作しまたは自己の仕事場で他人のために仕事をすることを業とする者の仕事に関する債権
 ・ 学芸または技能の教育を行う者が生徒の教育,衣食または寄宿の代価について有する債権
③ 3年の短期消滅時効(民法170条)
 ・ 医師,助産師または薬剤師の診療,助産または調剤に関する債権
 ・ 工事の設計,施工または監理を業とする者の工事に関する債権
しかしながら,このような区分を設けることの合理性にはそもそも疑問があるという指摘がなされていました。また,実務的にも,ある債権がどの区分に属するかを逐一判断する必要が生じて煩瑣である上,その判断が容易でない例も少なくない等の問題点が指摘されていました(例えば,司法書士の報酬請求権については,弁護士に準じて民法172条が適用あるいは類推適用されるか否かなど)。
 そこで,これらの指摘を踏まえ,債権の消滅時効期間については,職業別の短期消滅時効の制度を廃止して,時効期間の統一化を図る方向で改正がなされました。

⑵ 一般の債権の消滅時効期間の見直し

 現行民法は,一般の債権の時効期間を原則10年と定めています(民法167条1項)。そのため,職業別の短期消滅時効の制度のみを廃止し,この規定を維持したままにすると多くの事例において時効期間が大幅に長期化する結果となってしまいます。そもそも,職業別の短期消滅時効の制度の廃止の目的は,時効期間を長期間とすることではなく,時効期間の単純化・統一化を図ることにあります。また,時効期間の長短という問題は,起算点の定め方と不可分のものであり,かつ,時効の中断・停止事由の定め方とも密接に関連しています。
 そこで,一般の債権の消滅時効期間についても,併せて改正の対象とすべきものとされ,一般の債権の消滅時効期間を債権者が権利を行使することができることを知ったときから5年とすると共に(主観的起算点,改正後民法166条1項1号),権利を行使することができる時から10年としました(客観的起算点,同条1項2号)(注)。一般の債権の消滅時効期間をより合理的で分かりやすいものとし,時効期間の判断を容易にするためです。
(注)例えば,利息制限法を超える利息が定められた金銭債権につき,債権者に返済金を過払いした場合のように,過払金の返還を求める債権は,過払いの時点では,その権利を有することがよく分からないことがあります。そこで,このように債権者が自分の権利を行使することができることを知らないような債権については,権利を行使することができる時から「10年」で時効になります。
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改正民法166条(債権等の消滅時効)
1 債権は,次に掲げる場合には,時効によって消滅する。
① 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき。
② 権利を行使することができる時から10年間行使しないとき。
2(略)
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⑶ 長期の消滅時効期間の導入

① 人の生命または身体の侵害による損害賠償請求権についての消滅時効
 人の生命または身体の侵害による損害賠償請求権の消滅時効については,改正民法166条1項2号の「10年」が「20年」に伸長されます(改正民法167条)。
② 定期金債権についての消滅時効
 定期金債権(注)についての消滅時効については,権利を行使できることを知ったときから10年,債権を行使することができるときから20年となります(改正民法168条)。これに対して,定期給付債権(支分権として発生する利息,賃料,地代,年金,扶養料など)の消滅時効期間は,現行民法169条により5年とされていますが,一般の債権の消滅時効期間を主観的起算点から5年とする改正がなされたことにより,その存在意義を失い規定そのものが廃止されました。
(注)「定期金債権」の意味は定期に一定の金銭その他の代替物の給付を受けることを目的とする債権のことをいいます。そして,「基本権」である定期金債権から,定期的に毎回発生する個別の給付請求権を「支分権」といいます。
③ 判決等で確定した権利の消滅時効
 確定判決または確定判決と同一の効力を有するものによって確定した権利の消滅時効は,10年より短い時効期間の定めがあるものであっても,その時効期間は10年となります(改正民法169条)。

⑷ 商行為によって生じた債権(商事債権)に関する短期消滅時効の廃止

 現行商法においては,商行為によって生じた債権(以下,「商事債権」という。),商法に別段の定めがある場合を除き,5年間行使しないときは,時効によって消滅する旨が定められています(商法522条)。しかし,⑵の改正により,一般の債権の消滅時効が原則として5年間となりますと,商事債権の消滅時効を定める商法の規定は民法の特則としての存在意義が乏しくなります。また,商事債権の消滅時効に関する規定についても,その適用範囲が不明確であり,個々具体的な債権につき,その適用の有無の判断が難しいとの指摘がされていました。
 そこで,商事債権に関する短期消滅時効に関する規定は廃止されることになりました(民法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律3条)。

⑸ 時効の更新と完成猶予

① 「時効の中断」の概念の再構成
 現行民法における「時効の中断」には,まず,それまで進行していた時効をリセットする(初期状態に戻す)という意味があります。しかし,「時効の中断」という用語では,時効期間の進行が一時的に停止するにすぎないという誤解を招くおそれがあるという指摘がありました。そこで,進行していたそれまでの時効の期間を無意味なものとし,新たにゼロから時効の期間を進行させるという意味で,「時効の更新」という用語が充てられています(「民法(債権関係)の改正に関する中間試案の補足説明」P80)。「時効の更新」は,条文で次のように用いられています。
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改正民法152条(承認による時効の更新)
1 時効は,権利の承認があったときは,その時から新たにその進行を始める。
2(略)
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 また,現行民法の「時効の中断」には,「時効の更新」の効果の他に,時効が完成すべき時が到来しても,時効の完成が猶予されるという「時効の完成猶予」の効果もあります。そこで,この効果を端的に表現するものとして,「時効の完成猶予」という用語が充てられています。「時効の完成猶予」は,条文で次のように用いられています。
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改正民法150条(催告による時効の完成猶予
1 催告があったときは,その時から6箇月を経過するまでの間は,時効は,完成しない。
2(略)
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 このように,現行民法では,「時効の更新」と「時効の完成猶予」のように異なる効果を持つものを併せて「時効の中断」という1つの用語で表現していたため,「時効の中断」の概念や意味内容が理解しにくいという指摘がありました。
そこで,改正民法では,現行民法の「時効の中断」を,時効を新たに進行させる効果を有する「時効の更新」と,時効の完成を猶予する効果を有する「時効の完成猶予」という2つの概念に再構成しました(改正民法152条1項ほか)。次の条文では,「時効の更新」と「時効の完成猶予」がそれぞれ区別して用いられています。
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改正民法第147条(裁判上の請求等による時効の完成猶予及び更新)
1 次に掲げる事由がある場合には,その事由が終了する(確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定することなくその事由が終了した場合にあっては,その終了の時から6箇月を経過する)までの間は,時効は,完成しない。
 ① 裁判上の請求
 ② 支払督促
 ③ 民事訴訟法第275条第1項の和解又は民事調停法(昭和26年法律第222号)若しくは家事事件手続法(平成23年法律第52号)による調停
 ④ 破産手続参加,再生手続参加又は更生手続参加

2 前項の場合において,確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したときは,時効は,同項各号に掲げる事由が終了した時から新たにその進行を始める。
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 裁判上の請求や支払督促等の事由がある場合には,これらの事由が終了するまでの間は,時効は完成しないとされました(時効の完成猶予,改正民法147条1項)。そして,確定判決等によりこれらの事由によって争われた権利が確定したときは,その確定の時から時効は新たに進行することとされました(時効の更新,改正民法147条2項)。なお,裁判等によって確定した権利についての消滅時効は,10年より短い時効期間の定めがあるものであっても,その時効期間は10年となります(改正民法169条)。
② 「時効の停止」の概念の再構成
 現行民法の「時効の停止」は,時効中断と共に時効の完成を阻止するものであり,時効中断のための措置をとることが困難となるような障害が存在するときに認められるものです(民法158条~161条)。時効の停止は,時効の完成を一定の期間だけ猶予するものにすぎず,それまで進行していた時効をリセットする(初期状態に戻す)という効果はありません。しかし,「時効の停止」という用語では,あたかも時効期間の進行自体が途中で止まり,停止事由が消滅した後に残存期間が再度進行するかのような誤解を招くおそれがあるという指摘がありました。
 そこで,改正民法では,「時効の停止」は,その効果を端的に表現する「時効の完成猶予」という概念で再構成することとしました(改正民法149条ほか)。「時効の完成猶予」は,条文で次のように用いられています。
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改正民法149条(仮差押え等による時効の完成猶予)(注)
 次に掲げる事由がある場合には,その事由が終了した時から六箇月を経過するまでの間は,時効は,完成しない。
① 仮差押え
② 仮処分
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(注) 現行民法では,仮差押えと仮処分は時効の中断事由とされていますが(民法147条2項),改正民法では時効の完成猶予事由としています。

⑹ 消滅時効の援用権者の明文化

 現行民法では,消滅時効の援用権者を「当事者」と規定しています。しかし,判例(最判昭和48.12.14)は,この当事者の意味を「権利の消滅により直接利益を受ける者」であるとしています。具体的には,保証人(大判昭8.10.13)や物上保証人(最判昭43.9.26),抵当不動産の第三取得者(最判昭48.12.14),詐害行為の受益者(最判平10.6.22)などがこれに該当し,また,一般債権者(大判大8.7.4)や後順位抵当権者(最判平11.10.21)
などはこれに該当しないとしています。しかし,こうした判例法理を「当事者」という条文用語から読み込むことは困難です。そこで,「当事者(消滅時効にあっては,保証人,物上保証人,第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者を含む。)」旨を明文化しました。消滅時効の援用権者の範囲に関する判例法理をより的確に表現する趣旨です。なお,これは時効の援用権者に関する判例法理を変更する趣旨ではありません。
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改正民法145条(時効の援用)
 時効は,当事者(消滅時効にあっては,保証人,物上保証人,第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者を含む。)が援用しなければ,裁判所がこれによって裁判をすることができない。
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 なお,取得時効についての改正はありません。


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