【司法書士】
民法(債権法ほか)の改正について③


司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行

 桜(ソメイヨシノ)が散っても,八重桜が咲き,私たちの目を楽しませてくれます。また,山吹の黄色い花もまたよいものです。開花は当分先でしょうが,紫陽花の葉も茂ってきました。
 本試験まで3か月を切りました。記述式の答案を採点していますと,前半は出来が良いのに,後半は空欄のままという答案が散見されます。司法書士本試験は,実務家登用試験としての性質もあります。それゆえ,限られた時間内に一定レベルの答案を作成する能力が求められます。厳しいことをいうようですが,もう少し時間があればできたのにという言い訳は一切通用しません。時間不足になるであろうことは,試験を受ける前からわかっていることです。本試験と同様の緊張をもって,制限時間内に答案を書き切るということも意識しながら,答練を受験するようにしてください(問題を解くスピードとペース配分)。
 さて,今回も,民法(債権法ほか)の改正について,具体的な内容について進めて参ります。

1 消滅時効に関する見直し
⑴ 短期消滅時効の特例制度の廃止
⑵ 一般の債権の消滅時効期間の見直し
⑶ 長期の消滅時効期間の導入
⑷ 商行為によって生じた債権(商事債権)に関する短期消滅時効の廃止
⑸ 時効の更新と完成猶予
⑹ 消滅時効の援用権者の明文化
(以上,前回②参照)
2 法定利率に関する見直し
⑴ 法定利率に関する見直し
⑵ 商事法定利率の廃止
3 保証に関する見直し
⑴ 平成16年民法改正(貸金等債務に関する包括根保証の禁止)の概要
⑵ 包括根保証の禁止の対象の拡大等
⑶ 事業用融資における第三者保証の制限(公証人による意思確認手続の新設)
⑷ 保証契約締結時の情報提供義務
⑸ 債権者による主たる債務者の期限の利益喪失時の情報提供義務
⑹ 債権者による主たる債務の履行状況に関する情報提供義務
4 約款(定型約款)に関する規定の新設
⑴ 「約款」とは?
⑵ 「約款」の位置づけと問題点
⑶ 「定型約款」の定義
⑷ 定型約款が契約の内容となるための要件(組入要件)
⑸ 契約の内容とすることが不適当な内容の契約条項(不当条項)の取扱い
⑹ 定型約款の変更要件
⑺ 定型約款についての民法の適用時期等
5 債権譲渡に関する見直し
⑴ 債権譲渡による資金調達の拡充と債権の譲渡制限特約の効力の見直し
⑵ 譲渡制限特約付債権が譲渡された場合の債務者の保護
⑶ 譲渡制限特約付債権が譲渡された場合の債権の譲受人の保護
⑷ 将来債権の譲渡が可能とする規定の新設
⑸ 将来債権の譲渡された場合の債権の取得時期
⑹ 将来債権に付した譲渡制限の意思表示を債権の譲受人に対抗することの可否
⑺ 債権譲渡の対抗要件
⑻ 債権譲渡における債務者の抗弁
⑼ 債権の譲渡における相殺権の拡大(以上,今回)


2 法定利率に関する見直し

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
<主な改正点>
・ 法定利率を現行の年5%から年3%に引き下げました。
・ 法改正によらずに法定利率を市中の金利の変動に合わせて緩やかに上下させる変動制を導入しました。
・ 商事法定利率の廃止
→ 法定利率を合理的な水準に保つための工夫
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

⑴ 法定利率に関する見直し

 現行民法の規定では,法定利率は年5%です(民法404条)。この法定利率は,明治期における民法の制定当時の市中の金利を前提として定めたものですが,以来,見直しがされ
ないまま今日に至っています。そして,今日のいわゆるマイナス金利の時代にあっては,法定利率が市中金利を大きく上回る状態が続いています。そのため,利息について当事者間の約定がないなどの理由により法定利率が適用される場合には,債権者にとって市場金利より相当有利な利率が適用されることになり,結果として,金銭債権の通常の運用益以上の利益を債権者に認めることとなるため,当事者の公平を害する結果となります。このような現象が生じるのは,現行民法が,固定的な数値によって法定利率を定めている点(固定利率制)に原因があるとされています。しかし,市中金利の短期的・微細な変動に連動して法定利率が変わると,頻繁な法改正を要することとなり,社会的コストが非常に大きくなるおそれがあります。
 そこで,改正民法では,法定利率を合理的な水準に保つための工夫として,法定利率を引き下げると共に,法改正によらずに市場金利の動向等に連動して法定利率も自動的に変動するような枠組み(変動利率制)を採用することとなりました。具体的には,次のような規定を設けました。
① 法定利率の引下げ(改正民法404条2項)
改正民法の施行時の法定利率を年3%とする。
② 法定利率の緩やかな変動制の導入(改正民法404条3項~5項)
 3年を1期とし,3年ごとに法定利率を見直す。
 見直しには,貸出約定平均金利の過去5年間の平均値を指標とし,この数値に前回の変動時と比較して1%以上の変動があった場合にのみ,1%刻みの数値で法定利率が変動(法定利率は整数になる。)する。

⑵ 商事法定利率の廃止

 現行商法では,商行為(営業資金の借入れ等)によって生じた債務の利率は年6%とする規定があります(商事法定利率,商法514条)。しかし,現代社会において,商行為によって生じた債務を特別扱いする合理的理由に乏しいとの批判があります。そこで,商事法定利率に関する規定(商法514条)を廃止し,商行為(営業資金の借入れ等)によって生じた債務についても,民法に規定する法定利率を適用することとされました。

3 保証に関する見直し

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
<主な改正点>
・ すべての個人根保証契約に極度額の定めが義務付けられました(極度額の定めの個人根保証契約一般への拡大)。(注) ・ 特別の事情(主たる債務者の死亡や,保証人の破産・死亡など。)があった場合には,個人根保証契約の元本は確定することが定められました(元本確定事由の個人根保証契約一般への拡大)。
・ 保証人保護のさらなる拡充が定められました(事業用融資における第三者保証の法的制限,保証契約締結時の情報提供義務・主たる債務者が期限の利益を喪失したときの情報提供義務・主債務の履行状況に関する情報提供義務など)
→ 包括根保証の禁止の対象の拡大等による個人保証人の保護の拡充
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 (注)一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約を「根保証契約」といい,根保証契約であって保証人が法人でないものを「個人根保証契約」といいます(改正民法465条の2第1項)。そして,その債務の範囲に金銭の貸渡しまたは手形の割引を受けることによって負担する債務(以下「貸金等債務」という。)が含まれるものを「個人貸金等債務根保証契約」といいます(民法465条の2第1項)。そして,貸金等根保証契約は,極度額(改正民法465条の2第1項)を定めなければその効力を生じないとされています(改正民法465条の2第2項)。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


⑴ 平成16年民法改正(貸金等債務に関する包括根保証の禁止)の概要

 商工ローンの保証などの社会問題化を背景に貸金等債務の根保証をした個人保証人の保護のため,平成16年の民法改正は,次の措置を講じました。
① 根保証契約における極度額(保証の上限額)の制定
 → 極度額の定めのない根保証契約は無効とすること(民法465条2項)
② 根保証契約における元本確定期日(保証期間の制限)の制定
 → 保証人が責任を負うのは元本確定期日までの間に行われた貸金等に限定し,元本確定期日までの期間を原則3年(最長5年)に制限すること(民法465条3項)
③ 根保証契約における元本確定事由(特別事情による保証の終了)の制定
 → 元本確定期日の到来前であっても特別な事情(保証人や主たる債務者の死亡・破産等)が発生した場合には,その時点で元本は確定すること(それ以前の貸金等に限り責任を負う)(民法465条4項)

⑵ 包括根保証の禁止の対象の拡大等

① 極度額の定めの個人根保証契約一般への拡大
 現行民法では,貸金等根保証契約の保証人に限り,主たる債務の元本,主たる債務に関する利息,違約金,損害賠償その他その債務に従たるすべてのものおよびその保証債務について約定された違約金または損害賠償の額について,その全部に係る極度額を限度として,その履行をする責任を負う旨が規定されています(民法465条の2第1項)。しかし,借家が借主の落ち度で焼失した場合の損害額や長期間の家賃の滞納,過大な原状回復費用,あるいは継続的な売買取引で発生した多額な売買代金債権など,貸金等債務以外の根保証についても,個人である保証人が想定外の多額の保証債務の履行を求められる事例は少なくありませんでした。
 そこで,改正民法では,貸金等根保証契約以外の根保証契約における個人である保証人を保護する観点から,個人である保証人は,主たる債務の元本,主たる債務に関する利息,違約金,損害賠償その他その債務に従たる全てのものおよびその保証債務について約定された違約金または損害賠償の額について,その全部に係る極度額を限度として,その履行をする責任を負うものとされました(改正民法465条の2第1項)。そして,すべての個人根保証契約は,この極度額を定めなければ,その効力を生じない旨を定めました(極度額の定めの個人根保証契約一般への拡大,改正民法465条の2第2項)。
② 元本確定事由の個人根保証契約一般への拡大
 現行民法では,貸金等根保証契約に限り,次の事由が生じた場合に,主たる債務の元本は,確定するものとされています(貸金等根保証契約の元本の確定事由,民法465条の4)。
 イ 債権者が,主たる債務者または保証人の財産について,金銭の支払いを目的とする債権についての強制執行または担保権の実行を申し立てたとき(ただし,強制執行または担保権の実行の手続の開始があったときに限る)。
 ロ 主たる債務者又は保証人が破産手続開始の決定を受けたとき。
 ハ 主たる債務者又は保証人が死亡したとき。
 ①と同様に,個人保証人の責任の範囲が拡大することを防止する観点から,個人根保証契約一般にこれらの元本確定事由の規定を適用すべきであるという指摘がなされていました。しかし,上記イおよびロのうち,主たる債務者について生じた事由については,これを個人根保証契約一般の元本確定事由とすべきでないという意見も主張されました。例えば,不動産の賃借人の債務を主債務の範囲に含む個人根保証契約について,これらの2つの事由によって元本が確定してしまうと,賃貸借契約は主たる債務者である賃借人の破産等によっても終了しないこととなるため,賃貸人としては,保証契約の存在を前提として賃貸借契約を締結したにもかかわらず,主たる債務者である賃借人の破産以後は保証がないまま賃貸し続けることを強いられるという不都合が生じるからです。
 そこで,改正民法では,これらの2つの事由を除外する形で,次の事由が生じた場合には,個人根保証契約の元本は確定する旨を定めました(元本確定事由の個人根保証契約一般への拡大,改正民法465条の4第1項)。
ア 債権者が,保証人の財産について,金銭の支払を目的とする債権についての強制執行又は担保権の実行を申し立てたとき(ただし,強制執行または担保権の実行の手続の開始があったときに限る)。
イ 保証人が破産手続開始の決定を受けたとき。
③ 元本確定期日の個人根保証契約一般への不拡大
 個人貸金等債務根保証契約を除く個人根保証契約(賃貸借等の個人根保証契約等) においては,元本確定期日の定めがない場合(元本確定期日の定めがその効力を生じない場合を含む。)には,その元本確定期日を,原則として,その個人貸金等根保証契約の締結の日から3年を経過する日とする旨の規定は適用されません(改正民法465条の3第2項・3項参照)。例えば,不動産の賃借人の債務を主債務の範囲に含む個人根保証契約について,仮にこの規律を適用し,最長でも5年以内には元本が確定することとすると,賃貸人としては保証契約の存在を前提として賃貸借契約を締結したにもかかわらず,5年を超えて賃貸借契約が存続した場合には,賃貸人は保証がないまま賃貸し続けることを強いられるという不都合が生じるからです。

⑶ 事業用融資における第三者保証の制限(公証人による意思確認手続の新設)

 保証制度は,特に中小企業向けの融資において,主たる債務者の信用の補完や,経営の規律付けの観点から重要な役割を果たしています。しかし,個人的な情義等から保証人となった者が,想定外の多額の保証債務の履行を求められ,生活の破綻に追い込まれる事例が後を絶たないという問題点が指摘されてきました。
 そこで,改正民法では,安易に保証人となることによるこのような被害の発生を防止するため,事業用融資の保証契約(注)は,公証人があらかじめ経営者以外の保証人(法人等一定の者を除く。)本人から直接その保証意思を確認しなければ効力を生じない旨を定めました(改正民法465条の6第1項)。具体的には,事業用融資の保証契約に先立ち,その締結の日前1か月以内に公正証書を作成する等,公証人による意思確認手続をしなければならないこととされました(改正後民法465条の第6項~9項)。なお,経営者自身が事業用融資を受ける際に,その保証契約を締結することは,事業の継続等において有用な場合があることは否定できないことから,法による強力な規制は不適当であるとされ,改正後の民法の適用の対象外とされています。
 (注)「事業」とは,一定の目的をもってされる同種の行為の反復継続的遂行をいい,「事業のために負担した貸金等債務」とは,借主が借り入れた金銭等を自らの事業に用いるために負担した貸金等債務を意味します。例えば,製造業を営む株式会社が製造用の工場を建設したり,原材料を購入したりするための資金を借り入れることにより負担した貸金債務が「事業のために負担した貸金等債務」の典型例です。このほか,いわゆるアパート・ローンなども「事業のために負担した貸金等債務」に該当するものと考えられます。

⑷ 保証契約締結時の情報提供義務

 現行民法下では,主たる債務者は,自らの財産状況等を保証人に開示する法的義務を負っていません。また,債権者も,同様に,主たる債務者の財産状況等を保証人に開示する法的義務を負っていません。そのため,保証人となる者は,保証人になるに当たって,主たる債務者の財産状況等(保証のリスク)を十分に把握していない事例が少なくありませんでした。
 そこで,改正民法では,主たる債務者は,事業のために負担する債務を主たる債務とする保証,または,主たる債務の範囲に事業のために負担する債務が含まれる根保証の委託をするときは,委託を受ける者に対し,財産及び収支の状況,主たる債務以外に負担している債務の有無並びにその額および履行状況,主たる債務の担保として他に提供し,または提供しようとするものがあるときは,その旨及びその内容に関する情報を提供しなければならない旨の規定を新設しました(保証契約締結時の情報提供義務,改正民法465条の10第1項)。また,主たる債務者がこれらの事項に関して情報を提供せず,または事実と異なる情報を提供したために委託を受けた者がその事項について誤認をし,それによって保証契約の申込みまたはその承諾の意思表示をした場合において,主たる債務者がその事項に関して情報を提供せず,または,事実と異なる情報を提供したことを債権者が知り,または,知ることができたときは,保証人は,保証契約を取り消すことができることとされました(同条2項)。なお,これらの規定は,保証をする者が法人である場合には,適用されません(同条3項)。

⑸ 債権者による主たる債務者の期限の利益喪失時の情報提供義務

 保証人の負担額は,主たる債務者が支払いを遅滞した後に発生する遅延損害金によって著しく増大します。これは,特に,主たる債務者が分割払いの債務の支払いを遅滞して期限の利益を喪失し,一括払を求められるケースにおいて顕著です。仮に,主たる債務者が支払いを遅滞し,期限の利益を喪失したことを保証人が知っていれば,早期に立替払いをして遅延損害金が発生することを防ぐなどの対策を取ることも可能なはずです。しかし,現行民法下では,保証人が主たる債務者が支払いを遅滞したことを知る法的手段はありません。
 そこで,改正民法では,主たる債務者が期限の利益を有する場合において,その利益を喪失したときは,債権者は,保証人に対し,その利益の喪失を知った時から2か月以内に,その旨を通知しなければならず(改正民法458条の3第1項),この期間内に当該通知をしなかったときは,債権者は,保証人に対し,主たる債務者が期限の利益を喪失した時から,この通知を現にするまでに生じた遅延損害金(期限の利益を喪失しなかったとしても生ずべきものを除く。)に係る保証債務の履行を請求することができない旨の規定を新設しました(債権者による主たる債務者の期限の利益喪失時の情報提供義務,同条2項)。なお,これらの規定は,保証をする者が法人である場合には,適用されません(同条3項)。

⑹ 債権者による主たる債務の履行状況に関する情報提供義務

 保証人にとって,主たる債務の履行状況は重要な関心事です。しかし,現行民法下においては,保証人が債権者に対し,その情報の提供を求めることができるとの明文の規定はありません。債権者としても,保証人からの求めに応じ,主たる債務者のプライバシーにも関わる情報を提供してよいのかの判断に困り,対応に苦慮しているのが現状です。

 そこで,改正民法では,債権者は,保証人から,請求があったときは,主たる債務の元本,利息および違約金等についての不履行の有無(弁済を怠っているかどうか),残額,残額のうち弁済期が到来しているものの額についての情報を提供しなければならない旨を定めました(債権者による主たる債務の履行状況に関する情報提供義務,改正民法458条の2)。債権者は,保証人から請求があった場合には,主たる債務者の同意を得ずに保証人に対し,これらの情報を提供することができることとなりました。ただし,この請求をすることができるのは,主たる債務者から委託を受けた保証人(法人も可)に限られます。

4 約款(定型約款)に関する規定の新設

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
<主な改正点>
・ 約款(定型約款)に関する規定が新設されました。
・ 定型約款を契約内容とする旨の表示があれば個別の条項に合意したものとみなされますが,信義則(民法1条2項)に反して相手方の利益を一方的に害する条項は無効とすることが明文化されました。
・ 定型約款を一方的に変更するための要件が整備されました。
→ 定型取引の安定化・円滑化
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

⑴ 「約款」とは?

 「約款」とは,企業などが,不特定多数の消費者と同じ内容の取引をする場合に示す契約条件をいいます。言い換えれば,大量の同種取引を迅速・効率的に行うために作成された定型的な内容の取引条項のことです。具体的には,鉄道やバスなどの運送約款や,損害保険,生命保険約款のほか,電気やガスの供給約款,インターネットサービス(通信販売など)の利用規約がこれにあたります。現在,多様な取引で広範に活用されています。しかしながら,消費者の多くは,約款に記載された個別の条項に目を通すことはなく,条項の内容を正しく認識していないという問題も指摘されています。

⑵ 「約款」の位置づけと問題点

 現代社会においては,大量の取引を迅速に行うため,詳細で画一的な取引条件等を定めた約款を用いることが必要不可欠です。しかし,現行民法には約款に関する規定がありません。そのため,約款において種々の問題が生じたときには,解釈によって対応せざるを得ませんが,いまだ確立した解釈もないため,法的に不安定です。 民法の原則によれば,契約の当事者は契約の内容を認識しなければ契約に拘束されません。しかし,約款を用いた取引をする不特定多数の消費者は約款に記載された個別の条項を認識していないのが通常です。そのため,どのような場合に個別の条項が契約の内容となるのか不特定多数の消費者にとって不明確になっています。また,民法の原則によれば,契約の内容を事後的に変更するには,個別に相手方の承諾を得ることが必要ですが,当然不特定多数の消費者すべてから,この承諾を得られないこともあり得えます。そのため,約款中に「この約款は当社の都合で変更することがあります。」との条項を設けているものもありますが,その有効性については見解が分かれています。しかしながら,この条項に有効性がないとなると,契約内容の画一性を維持することができず,取引の安定性を阻害することになりかねません。
 そこで,改正民法では,約款(定型約款)に関する規定を新設しました(改正民法548条の2)。

⑶ 「定型約款」の定義

 改正民法では,ある特定の者が不特定多数の者を相手方とする取引で,内容の全部又は一部が画一的であることが当事者双方にとって合理的なものを 「定型取引」と定義した上, この定型取引において,契約の内容とすることを目的として,その特定の者により準備された条項の総体を「定型約款」として定義しました(改正民法548条の2第1項)。なお,「定型約款」という名称は,従来の様々あった「約款」概念と切り離して,規律の対象を抽出したことを明らかにするための名称です(注)。「定型約款」には,鉄道・バスの運送約款,電気・ガスの供給約款,保険約款,インターネットサイトの利用規約等が該当しますが,一般的な事業者間取引で用いられる一方当事者の準備した契約書のひな型,労働契約のひな形等はこれに該当しないものと解されます。
 (注)「約款」という用語は,現在も企業の契約実務や学界において広く用いられていますが,その意味についての理解は千差万別です。そこで,約款に関する規定を新設するに当たり,改正の趣旨を踏まえた定義等が必要との観点から,「定型約款」が定義されました。

⑷ 定型約款が契約の内容となるための要件(組入要件)

 改正民法では,次の場合は,定型約款の条項の内容を相手方が認識していなくても合意したものとみなし,契約内容となることを明確化しました(改正民法548条の2第1項)。
 ① 定型約款を契約の内容とする旨の合意があった場合
 民法の原則によれば,契約の当事者は契約の内容を認識しなければ契約に拘束されませんが,「定型約款」については,不特定多数の消費者が細部まで読んでおらず,たとえ契約の内容を認識していなくても,その内容を契約内容とする旨の合意があるのであれば,不特定多数の消費者を契約に拘束しても不都合は少ないと考えられるからです。 

 ② 定型約款を準備した者(以下,「定型約款準備者」という。)が取引に際して定型約款を契約の内容とする旨をあらかじめ相手方に「表示」していた場合
  定型約款に拘束される不特定多数の消費者の明示の合意がない場合であっても,定型約款を契約内容とする旨が不特定多数の消費者に「表示」された状態で取引行為が行われているのであれば,①の場合と同様に不都合は少ないと考えられるからです。ただし,相手方への「表示」が困難な取引類型(電車・バスの運送契約等)については,「公表」で足りる旨の特則が個別の業法に設けられています。

 ただし,定型取引を行う合意の前に相手方から定型約款の内容を示すよう請求があった場合に,遅滞なく,相当な方法でその定型約款の内容を示さなければならず(改正民法548条の3第1項),定型約款準備者が正当な事由なくその請求を拒んだ場合には,定型約款の条項の内容は契約内容とならない旨も規定されました(同条2項)。

⑸ 契約の内容とすることが不適当な内容の契約条項(不当条項)の取扱い

 改正民法では,定型約款中,定型取引の特質に照らして相手方の利益を一方的に害する契約条項であって信義則(民法1条2項)に反する内容の条項については,合意したとはみなさない,すなわち,当該条項は契約内容とならない旨の規定を新設しました(改正民法548条の2第2項)。不特定多数の消費者は定型約款の条項の細部まで読まないことが通常ですが,不当な条項が混入している場合も想定されます。この場合,不特定多数の消費者の利益を一方的に害するような条項は契約内容とならないようにすることが必要だからです。例えば,売買契約において,本来の購入目的であった商品だけではなく,購入動機のまったくない別の商品の購入を義務付ける不当な(不意打ち的)抱合せ販売条項などがこれにあたります。

⑹ 定型約款の変更要件

 長期にわたって継続する取引では,法令の変更や経済情勢・経営環境の変化に対応して,定型約款の内容を事後的に変更する必要が生じることがあり得ます。民法の原則によれば,契約内容を事後的に変更するには,個別に相手方の承諾を得る必要がありますが,不特定多数の消費者と,個別に変更についての合意をすることは事実上困難です。しかし,変更しなければ,かえって不特定多数の消費者の利益を害する可能性もあります。このように,定型約款の性質に照らし,実際に同意がなくとも変更を可能とする必要がある一方で,相手方(不特定多数の消費者)の利益保護の観点から,同意がなくとも変更を可能とする場合は,合理的な場合に限定する必要があります。
 そこで,改正民法では,次の場合には,定型約款準備者が一方的に定型約款を変更することにより,契約の内容を変更することが可能であることを明確化しました(改正民法548条の4第1項)。
① 変更が相手方の一般の利益に適合する場合
② 変更が契約の目的に反せず,かつ,変更の必要性,変更後の内容の相当性,定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情(注)に照らして合理的な場合
 なお,この場合,既存の契約についても契約内容が変更されます。
 (注)「その他の変更に係る事情」とは,相手方に与える不利益の内容・程度,不利益の軽減措置の内容など

⑺ 定型約款についての民法の適用時期等

「定型約款」に関しては,施行日前に締結された契約にも,改正後の民法が適用されますが,施行日前(平成32年(2020年)3月31日まで)に反対の意思表示をすれば,改正後の民法は適用されないことになります。この反対の意思表示に関する規定は平成30年(2018年)4月1日から施行されています。

5 債権譲渡に関する見直し

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
<主な改正点>
・ 債権の譲渡制限特約の効力が見直され,譲渡制限特約付債権の譲渡は,当該特約につき譲受人の悪意・重過失を問わず,有効であることが明文化されました。
・ 譲渡制限特約付債権が譲渡された場合の債務者の保護に関する規定が整備されました。
・ 譲渡制限特約付債権が譲渡された場合の債権の譲受人の保護に関する規定が整備されました。 
・ 将来債権の譲渡が可能とする規定その他将来債権についての規定が明文化されました。
・ 債権譲渡の対抗要件が整備されました(異議を留めない承諾の廃止に関する規定の削除等)
・ 債権譲渡における債務者の抗弁に関する規定が整備されました。
・ 債権の譲渡における相殺権の拡大
→ 債権譲渡による資金調達の拡充
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

⑴ 債権譲渡による資金調達の拡充と債権の譲渡制限特約の効力の見直し

 近時,債権譲渡(譲渡担保)による資金調達が,特に中小企業の資金調達手法として活用されることが期待されています。例えば,不動産等の担保を持たない中小企業が自己の有する現在または将来の売掛債権等を譲渡(担保設定)として資金調達を行う例が増えています。しかし,現行民法下では,債権にその譲渡を制限あるいは禁止する旨の特約(以下,「譲渡制限特約」という。)を付けることが可能となっており,この譲渡制限特約が資金調達を行う際の支障になっています。この譲渡制限特約が付された債権については,債権譲渡の対抗要件として必要な債務者の承諾を得られないことが少なくありません。また,現行民法下では,譲渡制限特約が付された債権の譲渡は原則として無効であることから(=債権の譲渡が無効となる可能性が払拭しきれないため),譲渡(担保設定)に当たって債権の担保価値が低額化したままです。さらに,実務上は利用されているものの将来の債権の譲渡が可能であることが条文上明確でないという問題もあります。
 そこで,改正民法では,当事者が債権の譲渡を禁止し,または制限する旨の意思表示(以下「譲渡制限の意思表示」という。)をしたときであっても,債権(ただし,預貯金債権は除く。改正民法466条の5)の譲渡は,その効力を妨げられない旨の規定を新設しました(改正民法466条2項)。この結果,当事者が譲渡制限の意思表示した債権の譲受人が,その譲渡制限の意思表示がされたことにつき,悪意または重過失があっても,当該債権譲渡は有効になりました(この場合,債務者は履行を拒絶することはできます)。

⑵ 譲渡制限特約付債権が譲渡された場合の債務者の保護

 改正民法では,弁済の相手方を固定するという譲渡制限特約付債権の性質に鑑み,債務者保護の観点から,債権の譲渡がなされた場合には,譲渡制限の意思表示がされたことを知り,または重大な過失によって知らなかった譲受人その他の第三者に対しては,債務者は,その債務の履行を拒むことができ,かつ,譲渡人に対する弁済その他の債務を消滅させる事由をもってその第三者に対抗することができる旨の規定も新設されました(履行拒絶権,改正民法466条3項)。
 また,債務者は,譲渡制限の意思表示がされた金銭の給付を目的とする債権が譲渡されたときは,その債権の全額に相当する金銭を債務の履行地(債務の履行地が債権者の現在の住所により定まる場合にあっては,譲渡人の現在の住所を含む。)の供託所に供託することができる旨の規定も新設されています(改正民法466条の2第1項)。現行民法では,譲渡禁止特約付債権が譲渡された場合には,譲受人の悪意・重過失によって,当該債権譲渡の効力が左右されるので,債権者不確知を原因とする供託を認めていますが,改正民法では,譲渡禁止特約付債権が譲渡された場合であっても,譲受人の悪意・重過失を問わず有効とされたため,新たに供託原因を設け,債務者の保護を図っています。

⑶ 譲渡制限特約付債権が譲渡された場合の債権の譲受人の保護

 改正民法では,債権の譲受人の保護の観点から,債務者が譲受人から履行の催告を受け,相当の期間内に履行をしないときは,債務者は,譲受人に対して履行をしなければならないこととされました(債権の譲受人の催告権,改正民法466条4項)。このように,改正民法は,債務者が債権の譲渡人に対しても,債権の譲受人に対しても弁済しないような場合に,債権の譲受人に対し,催告権を与えました。そして,債権の譲受人が債務者に対し,履行の催告をし,債務者が相当の期間内に履行をしないときは,債務者は履行拒絶権を失います。その結果,債権の譲渡人が債務者に対し履行を請求することができるようになります。
 また,譲渡人が破産したときは,譲受人は,債務者に債権の全額に相当する金銭を供託するよう請求することができることとされました(改正民法466条の3)。

⑷ 将来債権の譲渡を可能とする規定の新設

 現行民法下においても,将来債権の譲渡は有効ですがその旨の規定はありません。そこで,改正民法では,債権の譲渡は,その意思表示の時に債権が現に発生していることを要しない旨の規定を新設し(改正民法466条の6第1項),将来債権の譲渡が可能であることにつき,明文化しました。

⑸ 将来債権の譲渡された場合の債権の取得時期

 改正民法では,将来債権が譲渡された場合において,その意思表示の時に債権が現に発生していないときは,譲受人は,発生した債権を当然に取得することとされました(改正民法466条の6第2項)。

⑹ 将来債権に付した譲渡制限の意思表示を債権の譲受人に対抗することの可否

 改正民法では,譲渡人が債権譲渡の通知をし,または債務者が債権譲渡につき承諾をした時(改正民法467条,以下「対抗要件具備時」という。)までに,譲渡制限の意思表示がされたときは,譲受人その他の第三者を悪意とみなし,これらの者に対して,譲渡制限の意思表示を対抗することができる旨を規定しました(改正民法466条の6第3項,466条3項)。なお,対抗要件具備時までに,将来債権につき譲渡制限の意思表示がなされなかったときは,譲受人その他の第三者は善意となり,これらの者に対して,譲渡制限の意思表示を対抗することはできません。

⑺ 債権譲渡の対抗要件

 改正民法では,債権譲渡の対抗要件につき,債権の譲渡(現に発生していない債権の譲渡を含む。)は,譲渡人が債務者に通知をし,または債務者が承諾をしなければ,債務者その他の第三者に対抗することができない旨を規定しました(改正民法467条)。現行民法下では,債務者が債権譲渡につき異議を留めずに承諾した場合,債務者は債権の譲渡人に対して有する弁済その他の抗弁を対抗することができませんが(民法468条1項前段),債務者が単に承諾しただけで,譲渡人に対して有する弁済その他の抗弁を一切対抗することができないこととするのはあまりにも酷であることから,異議を留めずに承諾した場合に関する当該規定を廃止しました。

⑻ 債権譲渡における債務者の抗弁

 改正民法では,債務者は,対抗要件具備時までに譲渡人に対して生じた事由をもって譲受人に対抗することができる旨を規定しました(改正民法468条1項)。債務者の異議を留めない承諾に関する規定を削除したことにより,債務者は例外なく対抗要件具備時までに譲渡人に対して生じた事由をもって譲受人に対抗することができることとなりました。
 また,債権の譲渡の際に,譲渡制限の意思表示がされたことにつき,悪意または重過失がある譲受人その他の第三者が,債務の履行をしない債務者に履行の催告をしたときには,債務者は催告から相当の期間が経過した時(債務者が履行拒絶権を失った時)までに,譲渡人に対して生じた事由をもって譲受人に対抗することができる旨を規定しました(改正民法466条4項,468条2項)。
 さらに,譲渡人が破産し,譲受人は,債務者に債権の全額に相当する金銭を供託するよう請求したときは(改正民法466条の3),債務者は譲受人から供託の請求を受けた時までに,譲渡人に対して生じた事由をもって譲受人に対抗することができる旨を規定しました(改正民法466条の3,468条2項)。

⑼ 債権の譲渡における相殺権の拡大

 改正民法は,債務者は,対抗要件具備時より前に取得した譲渡人に対する債権による相殺をもって譲受人に対抗することができる旨の規定を新設しました(改正民法469条1項)。
 また,債務者が対抗要件具備時より後に取得した譲渡人に対する債権(将来債権)であっても,その債権が,①対抗要件具備時より前の原因に基づいて生じた債権,②①のほか,譲受人の取得した債権の発生原因である契約に基づいて生じた債権による相殺をもって譲受人に対抗することができる旨の規定を新設しました(改正民法469条2項1号・2号)。
①は,対抗要件具備時に債権の発生原因が生じていれば,相殺の期待も既に生じてことを考慮して,相殺を可能としたものです。具体的には,対抗要件具備時よりも前に締結されていた賃貸借契約に基づき対抗要件具備時より後に発生した賃料債権や,対抗要件具備時よりも前に主たる債務者の委託に基づいて保証をしていた場合において対抗要件具備時より後に発生した事後求償権などがこれに当たります。
②は,将来債権の譲渡がされ,対抗要件具備後に,その発生原因となる契約が実際に締結され,さらにその後に債務者がその契約に基づいて取得した債権であり,同一の契約から生じた債権債務については,特に相殺の期待が強いことを踏まえ,相殺を可能としたものです。具体的には,将来発生する売買代金債権を譲渡する合意がされ,対抗要件具備後に売買代金債権を発生させる売買契約が締結された場合には,その後,その売買契約を原因として発生した損害賠償債権であっても,売買代金債権との相殺が可能になります。
 さらに,譲渡制限の意思表示付の債権を譲渡した場合,「対抗要件具備時」を「催告から相当期間が経過した時」や「債務者が供託の請求を受けたとき」と読み替える旨を規定しています(改正民法469条3項)。




Wセミナー司法書士講座のホームページはこちら