【司法書士】
民法(債権法ほか)の改正について④


司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行

 4月になっても,寒の戻りがありますね。この時期は,まだ,冬物をクリーニングに出せません。そして,寒暖差が激しいと体調を崩しがちです。風邪などお召しになられませんようお気をつけくださいませ。
 記述式の答案を採点していますと,問題文や答案作成に当たっての注意事項の指示に従っていない解答が結構あります。内容的には,間違っていないのですが,解答の形式が間違っているのです。問題文や答案作成に当たっての注意事項の指示は,いわば,記述式答案作成のためのルールです。スポーツでルール違反が厳しく問われるのと同様,記述式答案作成のルールに従っていない答案の採点は大変厳しいものになります。皆様には,そのような理由で減点されないよう,問題文や答案作成に当たっての注意事項の指示に忠実に従った答案の作成を心がけていただきたいと存じます。
 さて,今回も,民法(債権法ほか)の改正について,具体的な内容について進めて参ります。

1 消滅時効に関する見直し
⑴ 短期消滅時効の特例制度の廃止
⑵ 一般の債権の消滅時効期間の見直し
⑶ 長期の消滅時効期間の導入
⑷ 商行為によって生じた債権(商事債権)に関する短期消滅時効の廃止
⑸ 時効の更新と完成猶予
⑹ 消滅時効の援用権者の明文化
(以上,②参照)
2 法定利率に関する見直し
⑴ 法定利率に関する見直し
⑵ 商事法定利率の廃止
3 保証に関する見直し
⑴ 平成16年民法改正(貸金等債務に関する包括根保証の禁止)の概要
⑵ 包括根保証の禁止の対象の拡大等
⑶ 事業用融資における第三者保証の制限(公証人による意思確認手続の新設)
⑷ 保証契約締結時の情報提供義務
⑸ 債権者による主たる債務者の期限の利益喪失時の情報提供義務
⑹ 債権者による主たる債務の履行状況に関する情報提供義務
4 約款(定型約款)に関する規定の新設
⑴ 「約款」とは?
⑵ 「約款」の位置づけと問題点
⑶ 「定型約款」の定義
⑷ 定型約款が契約の内容となるための要件(組入要件)
⑸ 契約の内容とすることが不適当な内容の契約条項(不当条項)の取扱い
⑹ 定型約款の変更要件
⑺ 定型約款についての民法の適用時期等
5 債権譲渡に関する見直し
⑴ 債権譲渡による資金調達の拡充と債権の譲渡制限特約の効力の見直し
⑵ 譲渡制限特約付債権が譲渡された場合の債務者の保護
⑶ 譲渡制限特約付債権が譲渡された場合の債権の譲受人の保護
⑷ 将来債権の譲渡が可能とする規定の新設
⑸ 将来債権の譲渡された場合の債権の取得時期
⑹ 将来債権に付した譲渡制限の意思表示を債権の譲受人に対抗することの可否
⑺ 債権譲渡の対抗要件
⑻ 債権譲渡における債務者の抗弁
⑼ 債権の譲渡における相殺権の拡大
(以上,前回③参照)
6 意思能力についての規定の新設
⑴ 意思能力制度とその意義
⑵ 意思能力についての規定の新設
7 意思表示に関する規定の見直し
⑴ 心裡留保による意思表示に関する規定の見直し
⑵ 錯誤による意思表示に関する規定の見直し
⑶ 詐欺による意思表示に関する規定の見直し
8 代理に関する規定の見直し
⑴ 代理行為の瑕疵
⑵ 制限行為能力者の代理行為についての規定の新設
⑶ 代理人と復代理の権利義務
⑷ 代理権の濫用に関する規定の新設
⑸ 利益相反行為に関する規定の新設
⑹ 表見代理に関する規定の見直し
⑺ 無権代理に関する規定の見直し
9 債務不履行に関する規定の見直し
⑴ 履行遅滞に関する規定の見直し
⑵ 履行不能に関する規定の新設
⑶ 受領遅滞に関する規定の見直し(以上,今回)


6 意思能力についての規定の新設

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
<主な改正点>
・ 意思能力を有しない者がした法律行為は無効となることを明文化しました。
・ 意思能力を有しなかった者の原状回復義務の範囲は,現に利益を受けている限度にとどまることも明文化しました。
→ 民法を国民一般に分かりやすいものとすること
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

⑴ 意思能力制度とその意義

 意思能力とは,行為の結果を判断するに足るだけの精神能力をいいます。例えば,認知症を患って行為の結果を判断することができない者は,意思能力を有しないとされます。判例・学説とも,法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは,その法律行為は,無効とする扱い(これを「意思能力制度」という。)に異論はありません(大判明38.5.11ほか)。意思能力制度により,法律行為の当事者は,自らが締結した売買契約の無効を主張して,代金の返還等を求めることができるようになります。その結果,判断能力が低下した高齢者等が不当に不利益を被ることを防ぐことが可能です。高齢化社会が進展するわが国において,意思能力制度の重要性はますます高まっていくものと考えられています。なお,意思能力を有しなかった者が相手方にする原状回復義務の範囲は,現に利益を受けている限度にとどまると解されています。

⑵ 意思能力についての規定の新設

 このように,実際に活用されている意思能力制度ではありますが,現行民法下では,明文の規定がありません。
 そこで,改正民法では,民法を国民一般に分かりやすいものとする観点から,法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは,その法律行為は,無効とする旨の規定を新設しました(改正民法3条の2)。併せて,行為の時に意思能力を有しなかった者は,その行為によって現に利益を受けている限度において,返還の義務を負う旨の規定も新設されました(改正民法121条の2第3項)。なお,意思無能力による無効の規定には,第三者の保護規定がおかれていません。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
(意思能力)
第3条の2 法律行為の当事者が意思表示をした時に意思能力を有しなかったときは,その法律行為は,無効とする。
(原状回復の義務)
第121条の2 無効な行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は,相手方を原状に復させる義務を負う。
2(略)
3 第1項の規定にかかわらず,行為の時に意思能力を有しなかった者は,その行為によって現に利益を受けている限度において,返還の義務を負う。行為の時に制限行為能力者であった者についても,同様とする。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

7 意思表示に関する規定の見直し

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
<主な改正点>
・ 心裡留保による意思表示を信頼して取引関係に入った第三者の保護規定を新設しました。
・ 錯誤による意思表示の要件を明確化すると共に,錯誤の効果を無効から取消しに変更ました。
・ 表意者に重過失があっても,錯誤による意思表示を取消すことができる場合(相手方悪意,双方重過失,共通錯誤)を新設しました。
・ 錯誤による意思表示を信頼して取引関係に入った第三者の保護規定を新設しました。
・ 錯誤による取消権者を明確化しました。
・ 第三者詐欺の要件に関する規定を見直し,相手方悪意の場合に加え,相手方がその事実を知ることができたときにも,その意思表示を取り消すことができることとしました。
・ 詐欺による意思表示を信頼して取引関係に入った第三者の保護規定を見直し,詐欺による意思表示の取消しは,善意・無過失の第三者に対抗することができないこととしました。
→ 均衡・公平性・相手方・第三者保護の観点から,判例等の趣旨に沿って要件・効果の見直し
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

⑴ 心裡留保による意思表示に関する規定の見直し

① 心裡留保の要件の見直し
 現行民法では,心裡留保による意思表示は,表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても有効ですが,「相手方が表意者の真意を知り,または知ることができたとき」は無効であると規定しています(民法93条)。しかし,表意者の真意がどのようなものであるかを具体的に知らなくても,その意思表示が表意者の真意と異なることを相手方が知っていれば,無効となると一般に解されていました。このような相手方を法的に保護する必要性が乏しいからです。
 そこで,改正民法では,「心裡留保による意思表示の相手方がその意思表示が表意者の真意ではないことを知り,又は知ることができたとき」には,その意思表示は無効とする旨を明文化しました(改正民法93条1項ただし書)。
② 第三者の保護規定の新設
現行民法では,心裡留保による意思表示を信頼して取引に入った第三者を保護する明文の規定はありません。しかし,真意ではないことを知りながら真意と異なる意思表示を行った表意者には,責められるべき事情があるため,善意の第三者は保護されるべきであると解されてきました。判例も,民法93条ただしが類推適用される事案において,民法94条2項の規定(第三者の保護規定)を類推適用して,善意の第三者を保護する判断をしてきました(最判昭44.11.14)。
 そこで,改正民法では,判例の趣旨を踏まえ,心裡留保による意思表示の無効は,善意の第三者に対抗することができない旨の規定を新設しました(改正民法93条2項)。心裡留保による意思表示をした者には,故意性があるので,第三者の保護要件は,「善意」のみで足ります(「無過失」であることは求められません)。

⑵ 錯誤による意思表示に関する規定の見直し

① 錯誤の要件の明確化
 現行民法では,錯誤による意思表示について,「意思表示は,法律行為の要素に錯誤があったときは,無効とする。ただし,表意者に重大な過失があったときは,表意者は,自らその無効を主張することができない。」旨を規定しています(民法95条)。すなわち,無効となる意思表示には「法律行為の要素に錯誤」があることを要件としています。
 しかし,判例は,「法律行為の要素に錯誤」があるといえるには,次のアおよびイの要件がなければならないと判示しています(大判大3.12.15,大7.10.3)。
ア 表意者は錯誤がなければその意思表示をしなかったであろうと認められること(主観的因果性)
イ 通常人であっても錯誤がなければその意思表示をしなかったであろうと認められること(客観的重要性)
 さらに,判例では,間違って真意と異なる意思を表明した場合(表示の錯誤)と,真意どおりに意思を表明しているがその真意が何らかの誤解に基づいていた場合(動機の錯誤)とを区別し,
ウ 動機の錯誤については,上記ア,イの要件に加えて,その動機が意思表示の内容として表示されていること  が必要であると判示しています(最判昭29.11.26)。
このように,民法95条の文言と判例の考え方は必ずしも一致していません。そこで,錯誤による意思表示の効力を否定する要件(法律行為の要素に錯誤があること,動機の表示があることの必要性)を条文上も明確化することが必要ではないかとの指摘がありました。
 そこで,改正民法では,ⅰ)意思表示が錯誤に基づくものであること(上記アの要件に対応),ⅱ)錯誤が法律行為の目的および取引上の社会通念に照らして重要なものであること(上記イの要件に対応),ⅲ)動機の錯誤については,動機である事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていること(上記ウの要件に対応)を要件として,次のように,錯誤の要件を新設しました(改正民法95条)。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
(錯誤)
第95条 意思表示は,次に掲げる錯誤に基づくものであって,その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは,取り消すことができる。
① 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
② 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤
2 前項第2号の規定による意思表示の取消しは,その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り,することができる。
3~4(略)
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
② 錯誤の効果を「無効」から「取消」に変更
 無効は誰でも主張することができ,かつ,無効を主張することができる期間に制限はないとするのが民法の原則です。しかし,判例は,錯誤を理由とする意思表示の無効は,誤解をしていた表意者のみが主張でき,相手方は主張できないと判示し(最判昭40.9.10),無効に関する民法の原則とは異なる扱いをしています。例えば,売買契約において買主に錯誤がある場合には,買主は無効を主張できますが,売主は無効を主張できないという不公平な扱いです。
 また,より表意者の帰責性が乏しい詐欺により意思表示をした場合は,意思表示の効力を否定すること(取消し)ができるのは5年間であるのに対し,錯誤があった場合に期間制限を設けないのは,公平性を欠くという指摘もあります。例えば,売買契約において詐欺があった場合では,5年間しかその売買契約の効力を否定できませんが,錯誤があった場合には,5年を経過した後も,売買契約の効力を否定できます。
 そこで,改正民法は,錯誤の効果を「無効」から「取消し」に改め(改正民法95条1項),取消に関する民法総則の規定を適用することとしました。
③ 表意者に重過失がある場合の取扱いの見直し
 現行民法では,表意者に重過失がある場合には錯誤による意思表示の効力を否定することができないとされています(民法95条ただし書)。しかし,表意者に重大な過失があっても,相手方が表意者に錯誤があることを知っているとき(悪意),あるいは,重大な過失によってこれを知らなかったときには(双方重過失),相手方にも責められるべき事情があるといえますので,相手方を保護すべき必要性は低いといえます。また,相手方も表意者と同一の錯誤に陥っていたときには(共通錯誤),法律行為の当事者が互いに誤解をしていた以上,その効力を維持して相手方を保護すべき必要性も低いといえます。
 そこで,改正民法は,錯誤が表意者の重大な過失による場合であっても,相手方が表意者に錯誤があることを知り(悪意),又は重大な過失によってこれを知らなかったとき(双方重過失),あるいは,相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき(共通錯誤)は,例外的に,表意者は錯誤による意思表示を取り消すことができることとしました(改正民法95条3項)。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
(錯誤)
第95条 1~2(略)
3 錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には,次に掲げる場合を除き,
第1項の規定による意思表示の取消しをすることができない。
① 相手方が表意者に錯誤があることを知り,又は重大な過失によって知らなかったとき。
② 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。
4 (略)
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
④ 錯誤による意思表示を信頼した第三者の保護規定の新設
 現行民法では,錯誤による意思表示を信頼して取引関係に入った第三者の保護についての規定はありません。しかし,錯誤に陥って意思表示をしたことについて責められるべき事情がある表意者よりも,錯誤による意思表示を信頼して取引関係に入った第三者が存在する場合には,表意者よりもこの第三者を保護するべきです。
 そこで,改正民法は,錯誤による意思表示の取消しは,善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない旨の規定を新設しました(改正民法95条4項)。もっとも,錯誤による意思表示をした者には,故意性はないので,第三者の保護要件は,「善意・無過失」であることが求められます。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
(錯誤)
第95条 1~3(略)
4 第1項の規定による意思表示の取消しは,善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
⑤ 錯誤による取消権者と期間の制限
 改正民法により,錯誤の意思表示を否定するためには,その意思表示を取り消すこととされたため(改正民法95条1項),取消権者に関する規定に錯誤が加えられました。錯誤による意思表示は,意思表示をした者またはその代理人もしくは承継人に限り,取り消すことができることとされました(改正民法120条2項)。また,取消権は,追認をすることができる時から5年間行使しないときは,または,行為の時から20年を経過したときは時効によって消滅します(民法126条)。

⑶ 詐欺による意思表示に関する規定の見直し

① 第三者詐欺の要件に関する規定の見直し
 現行民法では,相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては,相手方がその事実を知っていたときに限り,その意思表示を取り消すことができる旨が規定されています(民法96条2項)。しかし,第三者が詐欺を行ったことを相手方が知らなくても,これを知ることができた場合には,相手方の信頼は保護に値するとはいい難いのも事実です。
 そこで,改正民法では,相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては,相手方がその事実を知っている場合に加え,相手方がその事実を知ることができたときにも,その意思表示を取り消すことができる旨の規定を設けました(改正民法96条2項)。
② 詐欺による意思表示を信頼した第三者の保護規定の見直し
 現行民法では,詐欺による意思表示の取消しは,善意の第三者に対抗することができないと規定しており(民法96条3項),詐欺による意思表示を信頼して取引関係にはいった第三者に過失があったかどうかを問題としていません。しかし,自ら虚偽の外観を作出して虚偽の意思表示(通謀虚偽表示,民法94条)をした表意者と比べれば,詐欺による意思表示をした表意者は,責められるべき事情が小さいといえます(故意性はありません)。そのため,詐欺による意思表示を信頼して取引関係に入った第三者を保護するに当たっては,その第三者の信頼が虚偽の意思表示を信頼して取引に入った第三者の信頼より保護に値するものであることを要求しなければ公平性を欠くことになります。
 そこで,改正民法においては,詐欺による意思表示の取消しは,善意・無過失の第三者に対抗することができない旨の規定を設けました(改正民法96条3項)。

8 代理に関する規定の見直し

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
<主な改正点>
・ 代理行為の瑕疵につき,能動代理と受動代理とで区別して規定を設け,意思の不存在,錯誤,詐欺,強迫等についてはあくまでも能動代理にのみ代理行為の瑕疵となることとしました。
・ 本人が特定の法律行為を代理人に委託した場合の代理行為の有効性に関して,特則規定を新設しました。
・ 制限行為能力者が他の制限行為能力者の法定代理人としてした行為については,行為能力の制限によって,または,当該他の制限行為能力者本人も取り消すことができる旨の規定が新設されました。
・ 制限行為能力者が被保佐人,被補助人である場合に代理行為を取り消すための根拠規定を新設しました。
・ 復代理人を選任した任意代理人の責任を加重し,任意代理人は債務不履行責任の一般原則に従ってその責任を負う旨の規定を新設しました。
・ 代理人が代理権を濫用した場合において,その行為の相手方がその目的を知り,または知ることができたときは,その行為は無権代理行為とみなす旨の規定を新設しました。
・ 自己契約および双方代理(これらに当たらない利益相反行為を含む。)については,無権代理行為とみなされるものであることを明文化しました。
・ 表見代理について定めた各規定(民法109条と110条,110条と112条)を重畳的に適用して,本人がその責任を負う旨を明文化しました。
・ 無権代理人が代理権を有しないことを相手方が過失によって知らなかったときであっても,無権代理人が自己に代理権がないことを知っていたときは,無権代理人はその責任を負う旨の規定を新設しました
→ 判例等に基づく各規定の整備・新設,制限行為能力者である法定代理人を持つ制限行為の能力者の保護,代理人の責任の見直し,無権代理行為とみなす場合の拡大
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

⑴ 代理行為の瑕疵

① 能動代理と受動代理の区別と代理行為の瑕疵
 現行民法では,代理行為の瑕疵の有無につき,「意思表示の効力が意思の不存在,詐欺,強迫又はある事情を知っていたこと若しくは知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合には,その事実の有無は,代理人について決するものとする。」と定めています(民法101条1項)。しかし,この規定については,瑕疵のある意思表示を代理人がした場合(これを「能動代理」という。)と相手方がした場合(これを「受動代理」という。)との区別があいまいであるとの指摘がありました。判例には,代理人が相手方に対して詐欺をした場合における相手方の意思表示に関してもこの規定が適用されると判示したものもありますが(大判明39.3.31),これに対しては,本人による詐欺と同視して,詐欺取消しに関する規定(民法96条1項)を適用すべきであるとの批判がありました。また,代理人に対して意思表示をした相手方に心裡留保がある場合にも,この規定が適用されるのかという疑問もありました。
 そこで,改正民法では,下記のとおり,代理行使の瑕疵については,能動代理と受動代理とで区別して規定を設け(改正民法101条1項・2項),意思の不存在,錯誤,詐欺,強迫等についてはあくまでも能動代理にのみ代理行為の瑕疵となることを明確にしました(改正民法101条1項)。このように,代理行為の瑕疵に関する規定の適用につき,条文上,能動代理と受動代理の区別を明確にすれば,代理人が相手方に対して詐欺をした場合における相手方の意思表示に関しては,代理行為の瑕疵に関する民法101条1項は適用されないこと,すなわち,詐欺取消しに関する民法96条1項が適用されることが明確になります。また,相手方の代理人に対する意思表示について,その効力が,悪意・有過失により影響を受ける場合は受動代理についてのみ代理行為の瑕疵になることも明確にしました(改正民法101条2項)。この規定により,代理人に対して意思表示をした相手方に心裡留保があった場合,心裡留保について本人が善意でも,代理人が悪意であれば(=代理人について決する),当該意思表示は無効となることが明らかとなります。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
(代理行為の瑕疵)
第101条 代理人が相手方に対してした意思表示の効力が意思の不存在,錯誤,詐欺,強迫又はある事情を知っていたこと若しくは知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合には,その事実の有無は,代理人について決するものとする。
2 相手方が代理人に対してした意思表示の効力が意思表示を受けた者がある事情を知っていたこと又は知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合には,その事実の有無は,代理人について決するものとする。
3(略)
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
② 本人が特定の法律行為を代理人に委託した場合の特則
 現行民法では,「特定の法律行為をすることを委託された場合において,代理人が本人の指図に従ってその行為をしたときは,本人は,自ら知っていた事情について代理人が知らなかったことを主張することができない。本人が過失によって知らなかった事情についても,同様とする。」旨を定めています(民法101条2項)。しかし,本条の適用要件については,要件が厳格すぎであり,もっと本人の主観を考慮すべきであるとの批判があります。判例も,本条の適用については,特定の法律行為の委託があれば,本人の指図があったことは要件としないと判示するものもあります(大判明41.6.10)。
 そこで,改正民法では,代理行為の有効性に関して,判例(大判明41.6.10)等の趣旨に従い,本人が知っていた事情に関する部分と本人が過失によって知らなかった事情に関する部分とに分けて整理するとともに,代理人がした法律行為が本人の指図に従ったものであったかどうかにかかわらず,本人が自ら知っていた事情については代理人が知らなかったことを主張することができない旨の規定を下記のとおり新設しました(改正民法101条3項)。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
(代理行為の瑕疵)
第101条 1~2(略)
3 特定の法律行為をすることを委託された代理人がその行為をしたときは,本人は,自ら知っていた事情について代理人が知らなかったことを主張することができない。本人が過失によって知らなかった事情についても,同様とする。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

⑵ 制限行為能力者の代理行為についての規定の新設

① 制限行為能力者の代理行為の取消しの可否
 現行民法では,制限行為能力者の代理行為は行為能力の制限の規定によって取り消すことができません(民法102条)。これは,代理行為の効果は代理人自身には帰属しないことから,制限行為能力者の保護の必要がないからです。また,任意代理に関しては,自らの責任により,制限行為能力者を代理人に選任しているので,制限行為能力者がなした代理行為の効果は,委任者が甘受すべきだからです。
 しかし,制限行為能力者が他の制限行為能力者の法定代理人であるような場合(例えば,被保佐人Aが未成年者Bの親権者である場合),制限行為能力者(被保佐人A)がした代理行為の取消しができないと他の制限行為能力者(未成年者B)の保護が十分に図れないおそれがあります。また,任意代理と異なり,法定代理の場合には,他の制限行為能力者(未成年者B)自らの意思で代理人(被保佐人A)を選任しているわけではないため,制限行為能力者(被保佐人A)がした代理行為の効果を他の制限行為能力者(未成年者B)が甘受しなければならないとするのは合理的ではありません。
 そこで,改正民法では,例外的に,制限行為能力者(被保佐人A)が他の制限行為能力者(未成年者B)の法定代理人としてした行為については,行為能力の制限によっては取り消すことができる旨を定めました(改正民法102条ただし書)。先の例において,被保佐人である親権者Aが保佐人Cの同意なく,未成年者Bを代理した場合には,その代理行為は取り消すことができるようになります(民法13条4項,改正民法102条ただし書)。
② 制限行為能力者の代理行為の取消権者とその根拠規定の新設
 改正民法では,制限行為能力者(被保佐人A)が他の制限行為能力者(未成年者B)の法定代理人としてした行為にあっては,当該制限行為能力者(被保佐人A)のほか,他の制限行為能力者本人(未成年者B)も取り消すことができる旨の規定を新設しました(改正民法120条1項)。
 また,併せて,制限行為能力者が被保佐人,被補助人である場合に代理行為を取り消すための根拠規定を新設しました(改正民法13条1項10号,4項)。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
(保佐人の同意を要する行為等)
第13条 被保佐人が次に掲げる行為をするには,その保佐人の同意を得なければならない。ただし,第9条ただし書に規定する行為については,この限りでない。
① 元本を領収し,又は利用すること。
② 借財又は保証をすること。
③ 不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること。
④ 訴訟行為をすること。
⑤ 贈与,和解又は仲裁合意(仲裁法(平成15年法律第138号)第2条第1項に規定する仲裁合意をいう。)をすること。
⑥ 相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割をすること。
⑦ 贈与の申込みを拒絶し,遺贈を放棄し,負担付贈与の申込みを承諾し,又は負担付遺贈を承認すること。
⑧ 新築,改築,増築又は大修繕をすること。
⑨ 第602条に定める期間を超える賃貸借をすること。
⑩ 前各号に掲げる行為を制限行為能力者(未成年者,成年被後見人,被保佐人及び第17条第1項の審判を受けた被補助人をいう。以下同じ。)の法定代理人としてすること。
2~3(略) 4 保佐人の同意を得なければならない行為であって,その同意又はこれに代わる許可を
得ないでしたものは,取り消すことができる。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

⑶ 代理人と復代理の権利義務

 現行民法では,復代理人を選任した任意代理人が本人に対して負う責任を復代理人の選任および監督責任に軽減(限定)しています(民法105条1項)。しかし,この規定は,任意代理人が復代理以外の方法で第三者を用いる場合には,その責任は軽減(限定)されないことと均衡を欠くとの批判がありました。
 そこで,改正民法では,この規定を削除し,復代理人を選任した任意代理人は債務不履行責任の一般原則に従って責任を負うものとしました(任意代理人の責任の加重)。その結果,任意代理人は,本人との間の委任契約等に基づいて必要となる事務処理がされていなかったことによる債務不履行責任を原則として負うことになります。
 なお,やむを得ない事由により復代理人を選任した法定代理人が本人に対して負う責任を軽減(限定)する規定については,実質的な改正をしていません(改正民法105条)。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
(法定代理人による復代理人の選任)
第105条 法定代理人は,自己の責任で復代理人を選任することができる。この場合において,やむを得ない事由があるときは ,本人に対してその選任及び監督についての責任のみを負う。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 また,復代理人の権利義務について,その範囲が必ずしも代理人と同一ではないことを条文上も明確にするため,復代理人が代理人と同一の権利義務を負う旨を定めた旧法の規定に「その権限の範囲内において」との文言を加えました(改正民法106条2項)。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
(復代理人の権限等)
第106条(略)
2 復代理人は,本人及び第三者に対して,その権限の範囲内において,代理人と同一の権利を有し,義務を負う。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

⑷ 代理権の濫用に関する規定の新設

 現行民法には,代理人が自己または第三者の利益を図る目的で代理権の範囲内の行為をすること(代理権の濫用)に関する規定はありませんでした。仮に代理権が濫用された場合であっても,代理権の範囲内でされた行為であるから,その効果は本人に帰属するのが原則です。しかし,判例は,相手方がその代理人の意図を知り,または知ることができたときは,心裡留保に関する民法93条ただし書を類推適用し,その行為の効力は本人に及ばないと判示していました(最判昭42.4.20,昭38.9.5)。
 そこで,改正民法においては,この判例の趣旨を踏まえて,代理人が自己または第三者の利益を図る目的で代理権の範囲内の行為をした場合において,その行為の相手方がその目的を知り,または知ることができたときは,その行為は無権代理行為とみなす旨の代理権の濫用に関する規定を新設しました(改正民法107条)。
 なお,代理権が濫用された事案において,心裡留保に関する民法93条ただし書の規定が類推適用されると,その代理行為は無効になります。そして,無効行為については一般には本人が追認することはできません(民法ll9条参照)。これに対し,改正民法では,その代理行為を無権代理行為とみなしていますので,無権代理行為が有利であると判断すれば本人が追認することができ(民法ll3条1項,ll6条本文),より柔軟な事案の解決が可能となる利点があります。

⑸ 利益相反行為に関する規定の新設

① 自己契約および双方代理
 現行民法では,利益相反行為のうち,その典型である自己契約および双方代理について,本人の利益が害されるおそれが高いことを理由として,原則として禁止する旨の規定があります(民法108条)。そして,判例は,この規定に反してされた行為は無権代理行為に当たると判示しています(最判昭47.4.4)。
 そこで,改正民法においては,この判例の趣旨を踏まえて,利益相反行為の典型例である自己契約および双方代理については,無権代理行為とみなされるものであることを明文化しました(改正民法108条1項)。
② その他の利益相反行為
 現行民法では,自己契約や双方代理に当たらない利益相反行為については,特に規定はありません。しかし,判例には,自己契約等に当たらない利益相反行為について自己契約等の禁止の趣旨に準じてその効力を否定したものがあります(大判昭7.6.6)。
 そこで,改正民法においては,この判例の趣旨を踏まえて,自己契約や双方代理に当たらない利益相反行為についても,本人があらかじめ許諾したものを除き,無権代理行為とみなす旨の規定を新設しました(改正民法108条2項)。なお,ある行為が利益相反行為に当たるか否かは,代理人の意図や動機,行為の結果等の具体的な事情とは関係なく,代理行為白体を外形的・客観的に考察して,その行為が代理人にとっては利益となり,本人にとっては不利益となるものであるかによって判断されるものと解されます(最判昭42.4.18)。

⑹ 表見代理に関する規定の見直し

 現行民法では,表見代理に関し,①代理権授与の表示による表見代理(民法109条),②権限外の行為の表見代理(民法110条)および③代理権消滅後の表見代理(民法112条)につき明文の規定を置いています。しかし,判例は,代理権授与の表示はされたものの代理権を有しない者が表示された代理権の範囲外の行為をした場合には,①と②を重畳的に適用し(最判昭45.7.28),また,代理人であった者が代理権消滅後に過去に有していた代理権の範囲外の行為をした場合には,②と③を重畳的に適用し(最判昭32.11.29),それぞれ表見代理が成立し得ることを判示しています。
 そこで,改正民法は,判例の趣旨を踏まえて,表見代理について定めた各規定(民法109条と110条,110条と112条)を重畳的に適用して,本人がその責任を負う旨を次のとおり明文化しました(改正民法109条2項,ll2条2項)。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
(代理権授与の表示による表見代理等)
第109条 第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は,その代理権の範囲内に
おいてその他人が第三者との間でした行為について,その責任を負う。ただし,第三者
が,その他人が代理権を与えられていないことを知り,又は過失によって知らなかった
ときは,この限りでない。
2 第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は,その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば前項の規定によりその責任を負うべき場合において,その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは,第三者がその行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り,その行為についての責任を負う。
(代理権消滅後の表見代理等)
第112条 他人に代理権を与えた者は,代理権の消滅後にその代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について,代理権の消滅の事実を知らなかった(注)第三者に対してその責任を負う。ただし,第三者が過失によってその事実を知らなかったときは,この限りでない。
2 他人に代理権を与えた者は,代理権の消滅後に,その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間で行為をしたとすれば前項の規定によりその責任を負うべき場合において,その他人が第三者との間でその代理権の範囲外の行為をしたときは,第三者がその行為についてその他人の代理権があると信ずべき正当な理由があるときに限り,その行為についての責任を負う 。
(注)「代理権の消滅の事実を知らなかった」とは?
 代理行為の時点において相手方が代理人に代理権が存在しないことを知らないことで足りると解する見解もありますが,この規定の趣旨は,代理権の存続を信頼した相手方を保護するために表見代理として本人が責任を負うことを定めたものとの理解を踏まえて,過去には存在した代理権が消滅した事実を知らなかったことであることを明確にするべく,単なる「善意」という文言を「代理権の消滅の事実を知らなかった」と改めています
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

⑺ 無権代理に関する規定の見直し

 現行民法は,他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき,もしくは過失によって知らなかったときには,無権代理人はその責任を負わない旨を定めています(民法117条2項)。しかし,無権代理人自身が悪意であるのに,相手方の過失を主張して自らの責任を免れるのは,無権代理人と取引の相手方の公平性の観点から望ましくないとする見解が有力です。
 そこで,改正民法では,無権代理人の責任に関して,無権代理人が代理権を有しないことを相手方が過失によって知らなかったときであっても,無権代理人が自己に代理権がないことを知っていたときは,無権代理人はその責任を負う旨の規定を新設しました(改正民法117条2項2号ただし書,117条1項)。無権代理人と取引の相手方の公平を図るためです。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
(無権代理人の責任)
第117条 他人の代理人として契約をした者は,自己の代理権を証明したとき,又は本人の追認を得たときを除き,相手方の選択に従い,相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。
2 前項の規定は,次に掲げる場合には,適用しない。
① 他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき。
② 他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が過失によって知らなかったとき。ただし,他人の代理人として契約をした者が自己に代理権がないことを知っていたときは,この限りでない。
③ 他人の代理人として契約をした者が行為能力の制限を受けていたとき。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

9 債務不履行に関する規定の見直し

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
<主な改正点>
・ 債務の履行について不確定期限があるときは,債務者は,その期限の到来した後に履行の請求を受けた時またはその期限の到来したことを知った時のいずれか早い時から遅滞の責任を負う旨を明文化しました。
・債務の履行が契約その他の債務の発生原因および取引上の社会通念に照らして不能であるときは,債権者は,その債務の履行を請求することができない旨を明文化しました。
・ 債務の履行が契約その他の債務の発生原因および取引上の社会通念に照らして不能であるときは,債権者は,その債務の履行を請求することができない旨を明文化しました。
・ 履行遅滞中の履行不能と帰責事由に関する規定を新設しました。
・ 受領遅滞の効果を明確化しました。
・ 受領遅滞中の履行不能と帰責事由に関する規定を新設しました。
→ 条文の整備による条文と解釈が齟齬の解消,判例等の趣旨に沿って要件・効果の見直し
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

⑴ 履行遅滞に関する規定の見直し

 現行民法では,債務の履行について不確定期限があるときは,債務者は,その期限の到来したことを知った時から遅滞の責任を負う旨が規定されています(民法412条2項)。しかし,一般的には,不確定期限のある債務については,債権者がその期限の到来を債務者に通知し,それが到達した場合には,債務者の知・不知を問わずに,その到達の時から遅滞の責任が生じると解されています。
 そこで,改正民法では,このような異論のない解釈を条文に明記する趣旨で,「債務の履行について不確定期限があるときは,債務者は,その期限の到来した後に履行の請求を受けた時又はその期限の到来したことを知った時のいずれか早い時から遅滞の責任を負う」旨の規定を新設しました(改正民法412条2項)。

⑵ 履行不能に関する規定の新設

① 履行不能に関する規定の新設
 現行民法では,一般的に,債権者は債務者に対して債務の履行を請求することができるが,その債務の履行が物理的に不可能であるときは,履行を請求することができなくなると理解されていました。しかし,判例は,債務の履行が物理的に不可能な場合に限らず,債務の発生原因となった契約に関する諸事情や取引上の社会通念を考慮して債務者に履行を期待することが相当でない場合も履行不能に該当するものとして,履行不能の範囲を拡張していました(大判大2.5.12)。
 そこで,改正民法では,一般的な解釈や判例の趣旨に鑑み,債務の履行が契約その他の債務の発生原因および取引上の社会通念に照らして不能であるときは,債権者は,その債務の履行を請求することができない
旨の規定を新設しました(改正民法412条の2第1項)。
② 履行遅滞中の履行不能と帰責事由
 現行民法には規定がありませんが,債務者に帰責事由がある履行遅滞中に履行不能が生じた場合には,履行不能につき債務者の帰責事由がない場合であっても,債務者は不履行による損害賠償責任を負うとするのが判例の考え方です(大判明39.10.29)。
 そこで,改正民法では,「債務者がその債務について遅滞の責任を負っている間に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその債務の履行が不能となったときは,その履行の不能は,債務者の責めに帰すべき事由によるものとみなす。」旨の規定を新設しました(改正民法413条の2第1項)。

⑶ 受領遅滞に関する規定の見直し

① 受領遅滞の効果の明確化
 現行民法は,受領遅滞の効果につき,「遅滞の責任を負う」と規定するのみで,具体的な効果を明記していません(民法413条)。
 そこで,改正民法では,一般的な解釈や判例(最判昭40.12.3)の趣旨に鑑み,受領遅滞の具体的な効果として,下記の内容を明文化しました(改正民法413条,413条の2第2項)。
ア 目的物の保存義務の軽減
 特定物の引渡債務の債務者は,受領遅滞となった後は,善良な管理者の注意(改正民法400条)ではなく,自己の財産に対するのと同一の注意をもって目的物を保存すれば足りるとされました(改正民法413条1項)。
イ 増加費用の債権者負担
 受領遅滞により増加した債務の履行費用は,債権者の負担となることとされました(改正民法413条2項)。
② 受領遅滞中の履行不能と帰責事由
 改正民法では,「債権者が債務の履行を受けることを拒み,又は受けることができない場合において,履行の提供があった時以後に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその債務の履行が不能となったときは,その履行の不能は,債権者の責めに帰すべき事由によるものとみなす。」旨の規定が新設されました(改正民法413条の2第2項)。




Wセミナー司法書士講座のホームページはこちら