【司法書士】
民法(債権法ほか)の改正について⑤


司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行

 ようやく春らしい天候が続くようになりました。
 記述式の答案を採点していますと,文字が判読できないほどの乱筆な解答に出会うことがあります。短い時間の中で解答しなければならない受験生の苦しいお気持ちは察します。しかし,本試験委員も人の子です。文字が楷書で丁寧に書いてある答案には好感を持つ反面,乱雑な答案には,不快感を催すはずです。答案は,自分の学習効果を計るものですが,その答案は採点者によって採点されるということを忘れないようにしてください。つまり,答案とは,自分だけの解答練習だけではなく,採点者に見られるものでもあるのです。上手な字で書く必要はありませんが,丁寧な字で書くことを心がけてくださいね。これも受験テクニックの1つです。
 さて,今回も,民法(債権法ほか)の改正について,具体的な内容について進めて参ります。

1 消滅時効に関する見直し
⑴ 短期消滅時効の特例制度の廃止
⑵ 一般の債権の消滅時効期間の見直し
⑶ 長期の消滅時効期間の導入
⑷ 商行為によって生じた債権(商事債権)に関する短期消滅時効の廃止
⑸ 時効の更新と完成猶予
⑹ 消滅時効の援用権者の明文化
(以上,②参照)
2 法定利率に関する見直し
⑴ 法定利率に関する見直し
⑵ 商事法定利率の廃止
3 保証に関する見直し
⑴ 平成16年民法改正(貸金等債務に関する包括根保証の禁止)の概要
⑵ 包括根保証の禁止の対象の拡大等
⑶ 事業用融資における第三者保証の制限(公証人による意思確認手続の新設)
⑷ 保証契約締結時の情報提供義務
⑸ 債権者による主たる債務者の期限の利益喪失時の情報提供義務
⑹ 債権者による主たる債務の履行状況に関する情報提供義務
4 約款(定型約款)に関する規定の新設
⑴ 「約款」とは?
⑵ 「約款」の位置づけと問題点
⑶ 「定型約款」の定義
⑷ 定型約款が契約の内容となるための要件(組入要件)
⑸ 契約の内容とすることが不適当な内容の契約条項(不当条項)の取扱い
⑹ 定型約款の変更要件
⑺ 定型約款についての民法の適用時期等
5 債権譲渡に関する見直し
⑴ 債権譲渡による資金調達の拡充と債権の譲渡制限特約の効力の見直し
⑵ 譲渡制限特約付債権が譲渡された場合の債務者の保護
⑶ 譲渡制限特約付債権が譲渡された場合の債権の譲受人の保護
⑷ 将来債権の譲渡が可能とする規定の新設
⑸ 将来債権の譲渡された場合の債権の取得時期
⑹ 将来債権に付した譲渡制限の意思表示を債権の譲受人に対抗することの可否
⑺ 債権譲渡の対抗要件
⑻ 債権譲渡における債務者の抗弁
⑼ 債権の譲渡における相殺権の拡大
(以上,③参照)
6 意思能力についての規定の新設
⑴ 意思能力制度とその意義
⑵ 意思能力についての規定の新設
7 意思表示に関する規定の見直し
⑴ 心裡留保による意思表示に関する規定の見直し
⑵ 錯誤による意思表示に関する規定の見直し
⑶ 詐欺による意思表示に関する規定の見直し
8 代理に関する規定の見直し
⑴ 代理行為の瑕疵
⑵ 制限行為能力者の代理行為についての規定の新設
⑶ 代理人と復代理の権利義務
⑷ 代理権の濫用に関する規定の新設
⑸ 利益相反行為に関する規定の新設
⑹ 表見代理に関する規定の見直し
⑺ 無権代理に関する規定の見直し
9 債務不履行に関する規定の見直し
⑴ 履行遅滞に関する規定の見直し
⑵ 履行不能に関する規定の新設
⑶ 受領遅滞に関する規定の見直し
(以上,前回④参照)
⑷ 債務不履行による損害賠償の免責要件の一般化と帰責事由の明確化
⑸ 債務の履行に代わる損害賠償(塡補賠償)
⑹ 特別の事情によって生じた損害賠償請求権の要件についての見直し
⑺ 原始的不能の場合の損害賠償請求に関する規定の新設
⑻ 代償請求権に関する規定の新設
⑼ 損害賠償額の予定に関する規定の見直し
⑽ 金銭債務の不履行に関する規定の見直し
10 契約解除の要件に関する規定の見直し
⑴ 契約解除における債務者の帰責事由の要否
⑵ 催告解除と無催告解除の要件の明文化
11 売買に関する規定の見直し
⑴ 手付に関する規定の見直し
⑵ 売主の基本的な義務の明文化
⑶ 売主の担保責任に関する規定の全面改廃
⑷ 他人物売買における売主の担保責任
⑸ 売主の瑕疵担保責任に関する規定の見直しと「瑕疵」の定義の明確化
⑹ 買主の代金支払拒絶権
⑺ 買戻しに関する規定の見直し(以上,今回)


9 債務不履行に関する規定の見直し(その2)

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<主な改正点>
・ 債務不履行による損害賠償の免責に関して,債務者に帰責事由がないことを履行の不能のみに限らない一般的な要件として定めました。
・ 損害賠償の免責要件(帰責事由)の有無は,契約および社会通念に照らして判断される旨を明文化しました。
・ 債務の履行に代わる損害賠償(塡補賠償)に関する規定を新設しました。
・ 特別の事情によって生じた損害賠償請求権の要件を見直しました。
・ 原始的不能の場合の損害賠償請求に関する規定を新設しました。
・ 選択債権において,数個の給付の中に不能のものがある場合には,給付の不能が選択権者の過失によるときに限り,残存する給付が当然に債権の目的となると条文を改めました。
・ 債権者の債務者に対する代償請求権に関する規定を新設しました。
・ 損害賠償額の予定につき裁判所がその額を増減することができないとの文言を削除し,規定を改めました。
・ 金銭債務についての損害賠償の額は,債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率によって定めることを明確にしました。
→ 条文の整備による条文と解釈が齟齬の解消,判例理論の条文化
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⑷ 債務不履行による損害賠償の免責要件の一般化と帰責事由の明確化

 現行民法では,債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったとき(履行不能),債権者は,これによって生じた損害の賠償を請求することができる旨が規定されています(債務者の帰責性,民法415条)。しかし,判例は,履行遅滞など履行不能以外の債務不履行についても債務者に帰責事由がない場合には責任を負わない旨を認めており(大判大10.11.22,最判昭61.1.23),条文と解釈が齟齬しています。
 また,裁判実務において,債務者の責めに帰すべき事由(帰責事由)の有無は,「契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして」判断されていますが,現行民法には,明文の規定がありません。
 そこで,改正民法は,判例の趣旨や裁判実務に従い,債務不履行による損害賠償の免責に関して,債務者に帰責事由がないことを履行の不能のみに限らない一般的な要件として定めるとともに,その免責要件の有無は,契約および社会通念に照らして判断される旨の規定を設けました(改正民法415条1項)。
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(債務不履行による損害賠償)
第415条 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは,債権者は,これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし,その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは,この限りでない。
2(略)
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⑸ 債務の履行に代わる損害賠償(塡補賠償)

 現行民法では,特段の規定が置かれていませんが,債務不履行があった場合に,債権者は,一定の要件を満たす場合には,債務の履行に代わる損害賠償(以下「填補賠償」という)の請求をすることができると解されていました。
 そこで,改正民法では,このような一般的な解釈を踏まえ,①債務の履行が不能であるとき(改正民法415条2項1号),②債務音がその債務の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき(同条同項2号),③債務が契約によって生じたものである場合において,その契約が解除され,または債務の不履行による契約の解除権が発生したとき(同条同項3号)のいずれかの要件に該当するときには,債権者は填補賠償の請求をすることができる旨の規定を新設しました。
 このうち,①履行不能のときおよび③のうち「契約が解除されたとき」は,本来の債務の履行請求権は消滅しますので(改正民法412条の2第1項①③前段),債権者は塡補賠償請求権しか行使することはできません。これに対し,②債務者による履行拒絶の明確な意思表示と③のうち「債務の不履行による契約の解除権が発生したとき(まだ,解除権を行使していないとき)」は,本来の債務の履行請求権は消滅せず,塡補賠償請求権と併存することとなります(改正民法412条の2第1項②③後段)。例えば,継統的供給契約の給付債務の一部に不履行があった場合に,継続的供給契約自体は解除しないで,不履行に係る債務のみについて塡補賠償を請求するような場面や,交換契約のように自己の債務を履行することに利益があるような場面で,債権者が契約の解除をしないで自己の債務は履行しつつ,債務者には塡補賠償を請求しようとする場面で,履行に代わる塡補賠償請求を認めるべき実益があると指摘されています。
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(債務不履行による損害賠償)
第415条(略)
2 前項の規定により損害賠償の請求をすることができる場合において,債権者は,次に掲げるときは,債務の履行に代わる損害賠償の請求をすることができる。
① 債務の履行が不能であるとき。
② 債務者がその債務の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
③ 債務が契約によって生じたものである場合において,その契約が解除され,又は債務の不履行による契約の解除権が発生したとき。
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⑹ 特別の事情によって生じた損害賠償請求権の要件についての見直し

 現行民法は,債務不履行による損害賠償において,特別の事情によって生じた損害の賠償を請求するためには,当事者がその事情を「予見し,または予見することができたこと」を要件としています(民法416条2項)。
 しかし,判例は,債務者にとって履行期に予見可能であった事情が賠償の可否の判断の基礎になると解しています(大判大7.8.27)。つまり,裁判実務では,当事者が特別の事情を実際に予見していたといった事実の有無によるのではなく,当事者が履行期にその事情を予見すべきであったといえるか否かという規範的な評価により,特別の事情によって生じた損害が賠償の範囲に含まれるかが判断されていました。
 そこで,改正民法では,判例や裁判実務の解釈を条文上も明確化するため,当事者が特別の事情について,「予見し,又は予見することができたとき」との要件を「予見すべきであったとき」と改めました(改正民法416条2項)。
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(損害賠償の範囲)
第416条(略)
2 特別の事情によって生じた損害であっても,当事者がその事情を予見すべきであったときは,債権者は,その賠償を請求することができる。
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⑺ 原始的不能の場合の損害賠償請求に関する規定の新設

① 「原始的不能」とは?
 「原始的不能」とは,契約成立の時点で既に債務が履行不能であることをいいます。例えば,A・B間で,8月1日付けでA所有の建物の売買契約の締結したものの,その建物は,7月30日に火事で焼失していたという場合などです。
② 原始的不能の場合の損害賠償請求の可否
現行民法では,原始的不能の場合に債権者が債務不履行に基づく損害賠償を請求することができるかどうかについては,明文の規定がありません。また,このような契約は無効であり,債務不履行となる余地はなく,債務不履行に基づく損害賠償請求は不可能であるとの考え方も有力です。しかし, 履行不能になったのがたまたま契約の成立前というだけで,例えば,火事の原因が債務者の火の不始末である場合など債務者に帰責性がある場合でも,債権者が債務不履行に基づく損害賠償を請求することができないとするのは不当ではないかとの意見もあります。
 そこで,改正民法では,原始的不能の場合であっても,債務不履行に基づく損害賠償を請求することができる旨の規定を次のとおり新設しました(改正民法412条の2第2項)。
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(履行不能)
第412条の2(略)
2 契約に基づく債務の履行がその契約の成立の時に不能であったことは,第415条の規定によりその履行の不能によって生じた損害の賠償を請求することを妨げない。
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③ 選択債権における原始的不能
 現行民法は,債権の目的である給付の中に初めから不能であるものまたは後に至って不能となったものがあるときは,債権はその残存するものについて存在する旨を定めています(不能による選択債権の特定,民法410条1項)。ただし,選択権を有しない当事者の過失によって給付が不能となったときは,選択債権の存続には影響はなく,選択の対象は限定されないため,不能になった給付についても存続します(民法410条2項)。
 しかし,初めから不能のものを選択する方が,選択権を有する当事者にとって有利である場合もあり,これを認めても選択権を有しない他方当事者の負担が重くなるものではありません。選択権を有しない他方当事者はもともと選択を受忍する立場にあったからです。もっとも,給付の不能が選択権者の過失による場合には,選択権者がその給付を選択することができるとするのは,公平の観点から相当ではありません。
 そこで,改正民法では,数個の給付の中に不能のものがある場合には,給付の不能が選択権者の過失によるときに限り,残存する給付が当然に債権の目的となると条文の文言を改めました(改正民法410条)。改正民法では,給付が初めから不能(原始的不能)であるときであっても,選択権者が不能の給付を選択することは可能であり,不能の給付が選択されると,債権者は,その給付について履行を請求することはできないことになります(改正民法412条の2第1項)。しかし,その不能が債務者の責めに帰すべき事由によるものであるときには損害賠償を請求することができることになります(同条第2項,415条)。

⑻ 代償請求権に関する規定の新設

 現行民法では規定がありませんが,履行不能と同一の原因によって債務者が利益を得たときは,債権者は,自己が受けた損害の限度で,債務者に対し,その利益の償還を請求することができるとするのが通説・判例(最判昭41.12.23)です。この判例理論により,売主の所有する建物が火災によって滅失し,その引渡しが不能となった場合であっても,債務者が取得する火災保険金を移転または償還するよう,債権者は債務者に請求できることになります。債権者が反対債務を履行した場合,債務者に二重の利益(建物の代金および火災保険金)が生じることは不公平だからです。
 そこで,改正民法では,判例・通説の趣旨を踏まえて,債務者が,その債務の履行が不能となったのと同一の原因により債務の目的物の代償である権利または利益を取得したときは,債権者は,その受けた損害の額の限度において,債務者に対し,その権利の移転またはその利益の償還を請求することができる旨の規定を新設しました(改正民法422条の2)。

⑼ 損害賠償額の予定に関する規定の見直し

 現行民法では,当事者は,債務の不履行について損害賠償の額を予定することができることとされています(民法420条1項前段)。この場合において,裁判所は,その額を増減することができません(同条1項後段)。当事者の合意を尊重する趣旨です。しかし,実際には,公序良俗(民法90条)等による制約があり,裁判所がその額を増減することができる点については異論なく承認されています。
 そこで,改正民法では,「裁判所は,その額を増減することができない」とする部分を削除し,規定を改めました(改正民法420条)。もっとも,この改正により,当事者が定めた損害賠償の予定額を裁判所が自由に増減できるようになったということではありません。
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(賠償額の予定)
第420条 当事者は,債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。
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⑽ 金銭債務の不履行に関する規定の見直し

 現行民法では,金銭の給付を目的とする債務の不履行については,その損害賠償の額は,法定利率によって定めるが,約定利率が法定利率を超えるときは,約定利率によること(民法419条1項),この損害賠償については,債権者は,損害の証明をすることを要しない旨を規定しています(同条2項)。判例も,民法419条1項所定の額を超える損害の賠償(いわゆる利息超過損害の賠償)を否定し,金銭債務の不履行により同条1項が定める額を超える損害を被った債権者は,その損害および数額をいくら主張立証しても,その賠償を請求することはできないと判示しています(最判昭48.10.11)。
 そこで,改正民法でも,原則として,現行民法の規定を維持し(改正民法419条1項ただし書),法定利率が変動金利となることに応じて,損害賠償の額は,債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率によって定めることを明確にしました(改正民法419条)。
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(金銭債務の特則)
第419条 金銭の給付を目的とする債務の不履行については,その損害賠償の額は,債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率によって定める。ただし,約定利率が法定利率を超えるときは,約定利率による。
2・3(略)
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10 契約解除の要件に関する規定の見直し

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<主な改正点>
・ 債務不履行による解除一般について,債務者の責めに帰することができない事由によるものであっても解除を可能なものとしました。
・ 催告解除と無催告解除の要件を明文化しました。
・ 催告解除が制限される要件を明文化しました。
・ 債務者の責任を追及するための解除から,債務の履行を受けることができない債権者を契約の拘束力から解放するための仕組みとして解除の位置付けを改めました。
→ 主として判例の趣旨の明文化
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⑴ 契約解除における債務者の帰責事由の要否

現行民法では,履行不能による解除権は,債務者に帰責事由がない場合には認められないと定めています(民法543条)。そして,伝統的学説は,この規定に基づく解除だけでなく解除一般について債務者の帰責事由が必要であると解しています。 しかし,例えば,買主Aは売主Bからパソコンを仕入れる契約を結んだものの,売主Bの工場が落雷による火災(=売主Bに帰責事由がない火災)で焼失し,納期を過ぎても復旧の見込みも立たなくなった場合,買主Aとしては,パソコンが納品されないと事業に支障が生じるので,売主Bとの契約を解除し,同業他社のCと同様の契約を結びたいというような事例で,解除が認められないのは不当ではないかとの指摘もあります。 そこで,改正民法は,債務不履行による解除一般について,債務者の責めに帰することができない事由によるものであっても解除を可能なものとするために,当事者の一方がその債務を履行しない場合において,相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし,その期間内に履行がないときは,相手方は,契約の解除をすることができる旨を規定しました(改正民法541条本文)。ただし,その期間を経過した時における債務の不履行がその契約および取引上の社会通念に照らして軽微であるときは,契約の解除はすることができません(同条ただし書)。これは,近時の学説等の解釈を踏まえ,債務者の責任を追及するための解除から,債務の履行を受けることができない債権者を契約の拘束力から解放するための仕組みとして解除の位置付けを改めたことによるものです。 また,改正民法は,債務の不履行が債権者の責めに帰すべき事由によるものであるときも,債権者は,契約の解除をすることができない旨の規定を新設しました(改正民法543条)。不履行が債権者の責めに帰すべき事由による場合には,債務者に解除を認めるのは不公平であるので,解除はできないという趣旨です。

⑵ 催告解除と無催告解除の要件の明文化

 契約解除の可否をめぐるトラブルは,裁判実務における代表的な紛争類型の一つであり,重要な判例が積み重ねられていますが,それは現在の民法の規定からは読み取ることはできません。そこで,現行民法の催告解除(民法541条)と無催告解除(民法543条)について,判例の趣旨を踏まえ,それぞれ要件を明文化すべきではないかとの声が上がっていました。
① 催告解除が制限される要件
 現行民法の履行遅滞等による解除権(民法541条)の文言上は,あらゆる債務不履行について催告解除が認められるように読めますが,判例は,付随的な債務の不履行や,不履行の程度が必ずしも重要でない場合については,催告をしても解除が認められないと判示しています(最判昭36.11.21)。そして,このことを適切に明文化すべきではないかとの指摘がありました。
 そこで,改正民法では,判例の趣旨に従い,催告解除が制限される要件として,相手方が催告し,催告の期間を経過した時における債務の不履行がその契約および取引上の社会通念に照らして軽微であるときは,相手方(債権者)は,催告をしても解除が認められない旨の規定を新設しました(改正民法541条ただし書)。付随的な債務の不履行の例としては,「長時間連続して使用すると本体に熱がこもり,破損するおそれがある」という使用上の注意を付すことを怠った場合があり,また,不履行の程度が必ずしも重要でない場合の例としては,パソコン本体に,使用の妨げにならない程度の目立たない引っ掻き傷がついていた場合がこれに相当します。
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(催告による解除)
第541条 当事者の一方がその債務を履行しない場合において,相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし,その期間内に履行がないときは,相手方は,契約の解除をすることができる。ただし,その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは,この限りでない。
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② 無催告解除の要件の明文化
現行民法では,①ある時期までに履行がなければ契約の目的が達せられない場合において,履行遅滞があったとき(民法542条),②履行不能となったときを規定していますが(民法543条),③履行を拒絶する意思を明示したときや,④契約の目的を達するのに充分な履行が見込めないとき(相手方に不履行により契約をした目的が達せられないときにも,無催告解除が可能であると解されています。  そこで,改正民法では,無催告解除の要件として,債務の全部の履行が不能であるときその他4つの要件を明文化し(改正民法542条1項1号~5号),債務の一部の履行が不能であるとき,または,債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示したときにも,直ちに契約の一部の解除をすることができる旨をも明文化しました(同条2項1号・2号)。
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(無催告による解除)
第542条 次に掲げる場合には,債権者は,前条の催告をすることなく,直ちに契約の解除をすることができる。
① 債務の全部の履行が不能であるとき。
② 債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
③ 債務の一部の履行が不能である場合又は債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において,残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき。
④ 契約の性質又は当事者の意思表示により,特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において,債務者が履行をしないでその時期を経過したとき。
⑤ 前各号に掲げる場合のほか,債務者がその債務の履行をせず,債権者が前条の催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき 。
2 次に掲げる場合には,債権者は,前条の催告をすることなく,直ちに契約の一部の解除をすることができる。
① 債務の一部の履行が不能であるとき。
② 債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき
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11 売買に関する規定の見直し

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<主な改正点>
・ 買主が売主に手付を交付したときは,売主はその倍額を現実に提供して,契約の解除をすることができる旨を明文化しました。
・ 解除の相手方が契約の履行に着手した後は,手付解除をすることができない旨を明文化しました。
・ 売主の基本的な義務を明文化しました。
・ 他人物売買など売主の担保責任については,債務不履行責任に関する売買の特則として規定を新設し(改正民法562条・563条),損害賠償と解除については,債権総則に規定されている債務不履行責任が適用されると整理しました。
・ 「瑕疵」の定義を明確にしました。
・ 担保責任の期間を定めました。
・ 買主の支払拒絶権を明文化しました。
・ 買戻しに関する規定を見直しました。
→ 判例・通説の明文化。これまで通説であった法定責任説から契約責任説への転換。
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⑴ 手付に関する規定の見直し

① 「倍額を償還」の明確化
 現行民法では,買主が売主に手付を交付したときは,当事者の一方が契約の履行に着手するまでは,買主はその手付を放棄し,売主はその倍額を償還して,契約の解除をすることができる旨が規定されています(民法557条1項)。このように,民法557条の文言によれば,売主による手付解除(いわゆる手付倍返し)の要件として,「倍額を償還」とあり,「償還」という文言からは現実の払渡し(買主が受領を拒んだ場合には倍額の供託)を要するように解釈する余地があります。しかし,判例・通説は,売主は,現実の払渡しをしなくても買主に倍額の「提供」をすることにより手付解除をすることができ(最判昭51.12.20),買主が倍額の受領を拒んだ場合であっても,供託まではする必要はないと解しています(大判大3.12.8)。また,別の判例は,売主がなすべき「提供」については,現実の償還までは要しないが,相手方の態度如何によらず「現実の提供」を要すると判示しています(最判平6.3.22)。 そこで,改正民法では,判例・通説の趣旨を踏まえ,「償還」の文言を「提供」(「現実に提供」)に改め,買主が売主に手付を交付したときは,買主はその手付を放棄し,売主はその倍額を現実に提供して,契約の解除をすることができる旨の規定を設け,その趣旨を明確化しました(改正民法557条1項本文)。
② 手付解除の主体の明文化
 現行民法では,手付解除の時期を「当事者の一方が契約の履行に着手するまで」と規定しています(民法557条1項本文)。この規定からは,手付解除をしようとする者自身が履行に着手した場合にも手付解除ができなくなるように読めます。しかし,判例は,この規定は解除の相手方を保護するための制度であるから,解除をしようとする者が履行に着手していたとしても,相手方が履行に着手するまでは,なお,履行に着手した当事者による手付解除が可能であると判示しています(最判昭40.11.24)。このような解釈は合理的であると考えられ,また,不動産売買の実務等においては,この判例法理に基づく取扱いが一般的とされています。
 そこで,改正民法は,判例の趣旨を踏まえ,解除の相手方が契約の履行に着手した後は,手付解除をすることができない旨の規定を新設し,その趣旨を明確化しました(民法557条1項ただし書)。

⑵ 売主の基本的な義務の明文化

改正民法では,解釈に異論のない,売主の基本的な義務として,売主は買主に対して権利の移転についての対抗要件を備えさせる義務を負う旨の規定を新設しました(改正民法560条)。

⑶ 売主の担保責任に関する規定の全面改廃

 現行民法は,売主の担保責任を,他人物やその権利の売買(民法560条・561条・562条),一部他人物売買(民法563条・564条),数量不足や物の一部滅失(民法565条)・地上権等がある場合(民法566条),抵当権等がある場合(民法567条),目的物に隠れた暇疵があった場合(民法570条)に細かく区分して規定しています。これらの責任は,いずれも民法の定めた特別の規定に基づく売主の無過失責任(法定責任)であって,一般の債務不履行責任(契約責任・過失責任)とはその性質が異なります。
 しかし,改正民法では,売主の担保責任に関する規定(民法560条~571条)を全面的に改廃し,売主の担保責任については,債務不履行責任に関する売買の特則として規定を新設し(改正民法562条・563条),損害賠償と解除については,債権総則に規定されている債務不履行責任が適用されると整理しています(詳細は,以下⑸参照)。

⑷ 他人物売買における売主の担保責任

 現行民法では,他人の権利(権利の一部が他人に属する場合におけるその権利の一部を含む。以下同じ。)の売買に関して,売主には他人から権利を取得して買主に移転する義務があることを定めた上で(民法560条),売主がその売却した権利を取得して買主に移転することができない場合について買主は契約の解除および損害賠償の請求をすることができるとして売主の担保責任を定めていました(他人物売買における売主の担保責任,民法561条)。しかし,この担保責任の法的性質の理解をめぐって,学説は複雑に分かれていました。また,判例は,この規定による契約の解除および損害賠償の請求のほかに,債務不履行があった場合の一般的な規律による契約の解除および損害賠償の請求もすることができると判示していましたが(最判昭41.9.8),この売主の担保責任の法的性質についてどのような立場に立っているのかは必ずしも明瞭ではありませんでした。
 そこで,改正民法では,他人の権利の売買に関して,売主には他人から権利を取得して買主に移転する義務がある旨の現行法の規定を維持しつつ(改正民法561条),売主がこの義務を履行しない場合については,契約責任説の立場から,債務不履行があった場合の一般的な規律により,買主は,その履行の請求をすることができるほか,契約の解除(改正民法541条,542条)および損害賠償の請求(改正民法415条)をすることができる旨の規定を新設し(改正民法562条、563条、564条),売買に固有の規定であった他人物売買における売主の担保責任に関する規定(民法561条)は廃止しました。
 なお,現行民法では,売買の目的である権利が他人に属することにつき売主が善意である場合において,その他人から権利を取得して買主に移転することができないときは,売主は売買契約の解除をすることができるとする旨の規定(民法562条)がありましたが,この規定は,廃止されました。不動産登記簿等により権利関係を調査しやすい現代においては,十分な調査をしなかった者について,善意であるというだけ契約の解除を認める必要性も乏しいからです。

⑸ 売主の瑕疵担保責任に関する規定の見直しと「瑕疵」の定義の明確化

① 契約不適合責任の新設と債務不履行責任の利用
 現行民法では,売買の目的物に隠れた瑕疵があった場合において,買主がこれを知らず,かつ,そのために契約をした目的を達することができないときは,買主は,契約の解除をすることができ,契約の解除をすることができないときは,損害賠償の請求のみをすることができる旨を定めています(瑕疵担保責任,民法570条本文,566条)。しかし,売買の目的物が特定物か不特定物か,売買の目的物の隠れた瑕疵,あるいは,このような瑕疵のある目的物が買主に引き渡された場合の買主の救済手段については,条文上具体的に明らかではなく,また,学説には「法定責任説」と「契約責任説」が対立し(注1),さらに,判例の立場も必ずしも明確ではありませんでした。
 しかし,売買の目的物の種類を問わず,引き渡された目的物に瑕疵があった場合に買主がどのような救済を受けることができるのか(修補等の請求をすることができるのか等)について,国民に分かりやすく合理的なルールを明示するべきであり,また,「隠れた瑕疵」という用語も,その内容に応じて,分かりやすいものとすべきではないかとの指摘がなされていました。
 そこで,改正民法では,特定物売買であるか不特定物売買であるかを問わず,売主は種類,品質および数量に関して契約の内容に適合した目的物を引き渡す債務(契約不適合責任)を負うことを前提に,引き渡された目的物が種類,品質または数量に関して契約の内容に適合しない場合には,債務は未履行であり,買主の救済手段として,債務不履行責任に関する売買の特則として,①その修補や代替物の引渡し等の履行の追完の請求(買主の追完請求権,改正民法562条1項本文),②代金減額の請求(買主の代金減額請求権,改正民法563条1項・2項)についての規定を新設しました。また,瑕疵担保責任として現行民法でも認められている損害賠償や解除については,債権総則で規定されている③損害賠償の請求(改正民法415条,564条)および④契約解除(改正民法564条,542条)を適用することとしました(契約責任説が基本)。
(注1)現行民法下では,売買の目的物に瑕疵があった場合,売買の目的物を特定物と不特定物とで分け,特定物を売買したときには瑕疵担保責任が(民法570条等),不特定物を売買したときには債務不履行責任(民法415条)がそれぞれ適用されるものという扱いでした。特定物を売買したときにおける売主の義務は,その目的物の所有権を買主に移転することであり,たとえ目的物に瑕疵があっても売主に瑕疵のないものを引渡す義務はなく,債務不履行責任は生じないという考えです。しかし,このままでは,買主の保護されない結果となるため,買主の保護のために特に法律で定めたものが瑕疵担保責任であるという考え方が通説とされてきました(法定責任説)。しかし,最近では,瑕疵担保責任の法的性格は,契約不履行(債務不履行)責任の一特則に過ぎず,損害賠償請求だけではなく,修補請求や代金減額請求なども可能だとする考え方(契約責任説)が有力になっています。今回の民法改正は,最近の民法の考え方の動向を踏まえた,法定責任説から契約責任説へ大転換を図るものといえます。
② 「瑕疵」の定義
 現行民法における瑕疵担保責任でいう「隠れた瑕疵」とは,買主が取引上において一般的に要求される程度の通常の注意を払っても知り得ない瑕疵をいい,買主は善意・無過失であることが必要であるとされてきました(通説・判例)。 また,「瑕疵」は取引通念からみて通常であれば同種の物が有するべき品質・性能を欠いており欠陥が存在することをいうとされてきました。
 そして,近時の判例(最判平22.6.1,平25.3.22)では,「瑕疵」については,「契約の内容に適合していないこと」を意味するものと定義されてきたことから,この判例の趣旨を明文化しました(改正民法562条1項本文)。なお,「隠れた」とは,契約時における瑕疵についての買主の善意・無過失をいうと解されていましたが,改正民法の考え方の下では,当事者の合意した契約の内容に適合しているか否かが問題であるため,「隠れた」の要件は不要となりました。
③ 買主の追完請求権
 現行民法では,売買の目的物が契約の内容に適合しない場合における買主の追完請求権(目的物の修補,代替物の引渡し等による履行の追完を請求する権利)を認める明確な規定はありませんでした。また,特定物の売買については,売主は当該目的物を引き渡せば足り,このような修補等による履行の追完請求権は認められないとの見解が有力に主張されていました(法定責任説)。
 しかし,改正民法においては,特定物売買と不特定物売買とを区別することなく売主は一般に種類,品質および数量に関して売買契約の内容に適合した目的物を引き渡す債務(契約不適合責任)を負うことを前提に,引き渡された目的物が契約の内容に適合しない場合には債務は未履行であるとの整理(契約責任説)を基本として,買主が有する救済手段を明文化しています。
 そこで,改正民法では,引き渡された目的物が種類,品質または数量に関して契約の内容に適合しないものであるとき(不完全履行の場合)は,買主は,売主に対し,目的物の修補,代替物の引渡しまたは不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができることとされました(買主の追完請求権,改正民法562条1項本文)。もっとも,買主は代替物の引渡しを選択した場合であっても,修補は容易で費用も低廉であり,買主にも特段の不利益はないことがあり得ます(また,その逆の場合も考えられます)。そこで,売主は,買主に不相当な負担を課するものでないときは,買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができることとされています(売主の追完権,改正民法562条1項ただし書)。
 また,改正民法では,公平の観点から,引き渡された目的物が契約の内容に適合しなかったとしても,それが買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは,履行の追完の請求をすることができないとしています(改正民法562条2項)。
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(買主の追完請求権)
第562条 引き渡された目的物が種類,品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは,買主は,売主に対し,目的物の修補,代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし,売主は,買主に不相当な負担を課するものでないときは,買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。 2 前項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは,買主は,同項の規定による履行の追完の請求をすることができない。
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④ 代金減額の請求
 現行民法では,数量を指示して売買をした物に不足がある場合において,買主がその不足または滅失を知らなかったときには,買主はその不足する部分の割合に応じて代金の減額を請求することができる旨の規定(数量不足による代金減額の請求,現行民法565条,563条1項)はありますが,目的物の品質等が契約の内容に適合しない場合については,買主に代金の減額の請求を認める規定はありませんでした。しかし,引き渡された目的物の品質等が契約の内容に適合しない場合においても,買主がその目的物で得心する代わりに,引き渡された目的物の実際の品質等に見合った金額にまで売買代金を減額することが世間一般で広く行われており,また,当事者の公平という観点から最も合理的な対処方法であると考えられます。
 そこで,改正民法では,買主が相当の期間を定めて履行の追完の催告をし,その期間内に履行の追完がないときは,買主は,その不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができる旨の規定を新設しました(代金減額請求権,改正民法563条1項)。催告を要する旨を規定する趣旨は,売主の追完権の行使に配慮したものです。また,この請求権は形成権であると解されています。そして,この請求権の行使には,売主の帰責事由は必要ありません。代金減額請求権は,契約の一部解除と考えることができるからです。
 さらに,次の各場合には,催告をせずに代金減額請求をすることができる旨の規定を新設しました(改正民法563条2項)。これらの場合,売主に履行の追完の機会を与える必要がないからです。この要件は無催告解除の要件と同趣旨です。
1)履行の追完が不能であるとき。
2)売主が履行の追完を拒絶する意思を明確に表示したとき。
3)契約の性質又は当事者の意思表示により,特定の日時または一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において,売主が履行の追完をしないでその時期を経過したとき。
4)1)~3)のほか,買主が催告をしても履行の追完を受ける見込みがないことが明らかであるとき。
他方,改正民法では,引き渡された目的物が契約の内容に適合しなかったとしても,それが買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは,公平の観点から,買主は代金減額請求をすることができない旨の規定を新設しました(改正民法563条3項)。
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(買主の代金減額請求権)
第563条 前条第1項本文に規定する場合において,買主が相当の期間を定めて履行の追完の催告をし,その期間内に履行の追完がないときは,買主は,その不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができる。
2 前項の規定にかかわらず,次に掲げる場合には,買主は,同項の催告をすることなく,直ちに代金の減額を請求することができる。
① 履行の追完が不能であるとき。
② 売主が履行の追完を拒絶する意思を明確に表示したとき。
③ 契約の性質又は当事者の意思表示により,特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において,売主が履行の追完をしないでその時期を経過したとき。
④ 前三号に掲げる場合のほか,買主が前項の催告をしても履行の追完を受ける見込みがないことが明らかであるとき。
3 第1項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは,買主は,前2項の規定による代金の減額の請求をすることができない。
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⑤ 解除と損害賠償の請求
 現行民法では,売買の目的物に隠れた瑕疵があった場合において,買主がこれを知らず,かつ,そのために契約をした目的を達することができないときは,買主は,契約の解除をすることができ,契約の解除をすることができないときは,損害賠償の請求のみをすることができる旨を定めています(瑕疵担保責任,民法570条本文・566条,565条・563条2項・3項)。しかし,これらの要件・効果は,債務不履行の一般的な規定による損害賠償請求(民法415条)や解除(民法541条~543条)と同一のものなのか,それとも,特別の法定責任であるのか否かについては,学説は分かれており(法定責任説・契約責任説),判例の立場も不明確でした。
 改正民法においては,売主は一般に種類,品質および数量に関して売買契約の内容に適合した目的物を引き渡す債務を負うことを前提に,引き渡された目的物が契約の内容に適合しない場合には債務(契約不適合責任)は未履行であるとの整理(契約責任説)を基本としていることから,損害賠償請求および解除の要件・効果についても,債務不履行の一般的な規律がそのまま適用されるものとしています(改正民法564条)。したがって,損害賠償請求には売主の帰責事由が必要となり(改正民法415条1項ただし書),賠償の範囲は「信頼利益」に限定されず,要件を満たせば「履行利益」まで及び得ることとなります(改正民法416条)。(注2)また,契約の解除をするためには原則として履行の追完の催告が必要となります(改正民法541条)。なお,債務不履行により損害賠償請求および解除をした場合には,買主の追完請求権(改正民法562条1項本文)や買主の代金減額請求権(改正民法563条1項・2項)は,これらを行使することはできません(改正民法564条)。これらの規定は,買主が契約の不適合な履行を受け入れた上でなすものであるからです。
(注2)「信頼利益」とは,契約が無効または失効した場合に契約が有効だと誤信したために生じた損害をいい,そのために無駄になった費用等がこれに該当します。現行民法の瑕疵担保責任の場合の損害賠償請求額は,信頼利益となります。これに対して,「履行利益」とは,債権が有効に成立した場合,それが完全に履行されることによって債権者が受けるだろう利益をいいます。通常の債務不履行についての損害賠償は,債権が有効であることを前提としますので,「履行利益」の賠償ということになりますが,履行利益の賠償のなかには,契約が履行されなかったため,債権者が別人とさらに契約を余儀なくさせられたための余分の出費 (積極的損害) の賠償と,契約が履行されれば得られたはずの転売利益 (逸失利益,消極的損害) の賠償の双方を含むものと解されています。
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(買主の損害賠償請求及び解除権の行使)
第564条 前2条の規定は,第415条の規定による損害賠償の請求並びに第541条及び第542条の規定による解除権の行使を妨げない。
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⑥ 移転した権利が契約の内容に適合しない場合における売主の担保責任
 改正民法では,移転した権利が契約の内容に適合しない場合における売主の担保責任においても①~③までの権利を行使することができる旨を定めています(改正民法565条による562条~564条の準用)。
⑦ 担保責任の期間の制限
現行民法では,瑕疵担保責任の追及は,買主が瑕疵を知ってから1年以内の権利行使が必要(履行済みと考えている売主の保護)と定められています(民法570条,566条3項)。しかし,この権利行使期間の定めは,買主の負担が重すぎるのではないかという指摘がありました。
そこで,改正民法は,要件を緩和し,買主は契約に適合しないことを知ってから1年以内に売主に対しその旨の通知をすることが必要である旨に改めました(改正民法566条)。なお,別途,消滅時効に関する規定の適用があることに注意が必要です。
⑧ 担保責任を負わない旨の特約
現行民法における瑕疵担保責任を負わない旨の特約に関する規定(民法572条)については,実質的な改正はありません。
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(担保責任を負わない旨の特約)
第572条 売主は,第562条第1項本文又は第565条に規定する場合における担保の責任を負わない旨の特約をしたときであっても,知りながら告げなかった事実及び自ら第三者のために設定し又は第三者に譲り渡した権利については,その責任を免れることができない。
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⑹ 買主の代金支払拒絶権

 現行民法では,売買の目的について「権利を主張する者があるために買主がその買い受けた権利の全部または一部を失うおそれがあるとき」には買主にその危険の限度に応じて,代金の全部または一部の支払いを拒むことができる権利を認めています(代金支払拒絶権,民法576条)。しかし,売主と買主の公平の観点から,「権利を主張する者があるために買主がその買い受けた権利の全部または一部を失うおそれがあるとき」に限らず,「権利を取得することができないおそれがあるとき」も代金支払拒絶権を行使することができると解されていました。
 そこで,改正民法では,売買の目的について権利を主張する者があることその他の事由により,買主がその買い受けた権利の全部若しくは一部を取得することができず,又は失うおそれがあるときは,買主は,その危険の程度に応じて,代金の全部又は一部の支払を拒むことができる旨の規定に改めました(改正民法576条本文)。
 なお,現行民法は,抵当権等の登記がある場合における買主の代金支払拒絶権を定めていますが(民法577条),当事者が当初から抵当権等による負担を勘定に入れて不動産の価格を決定した場合(すなわち,売買契約締結にあたって買主がその抵当権等によって担保されている債務またはその履行を引き受けて,その債務額を控除した額をもって代金額とした場合)には適用がないと解されていたため(通説),その旨の規定を新設し,明確化しています(改正民法577条)。
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(抵当権等の登記がある場合の買主による代金の支払の拒絶)
第577条 買い受けた不動産について契約の内容に適合しない抵当権の登記があるときは,買主は,抵当権消滅請求の手続が終わるまで,その代金の支払を拒むことができる。この場合において,売主は,買主に対し,遅滞なく抵当権消滅請求をすべき旨を請求することができる。
2 前項の規定は,買い受けた不動産について契約の内容に適合しない先取特権又は質権の登記がある場合について準用する。
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⑺ 買戻しに関する規定の見直し

 現行民法では,買戻権を行使する際に売主が返還すべき金銭の範囲は,代金および契約の費用に限定しており,当事者間の合意でこれを定めることを認めていません(民法579条)。しかし,この規定は,合理性に乏しいとの指摘がありました。
 そこで,改正民法では,買戻権を行使する際に売主が返還すべき金銭の範囲を合意により定めた金額および契約の費用とすることもできることと改めました(改正民法579条)。この改正により,買戻しの際に売主が償還すべき額を,当事者の合意によって定めることができるようになりました。買戻特約の絶対的登記事項のうち,「代金」が「代金(民法第579条の別段の合意をした場合にあっては,その合意により定めた金額)」に変更となります(改正不動産登記法96条)。その他,売買契約と同時に登記をした買戻権は,単に効力を生じるだけでなく,この登記後に生じた第三者に対抗することができることを明確にしました(改正民法581条1項)。また,現行民法では,登記をした賃借人の権利は残存期間中1年を超えない期間に限り,売主に対抗することができると規定していますが(民法581条2項),これは,買戻特約の登記後に賃借権について対抗要件を具備した賃借人の権利を保護するものであると解されているので,改正民法では,その旨を明確にしました(改正民法581条2項)。
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(買戻しの特約)
第579条 不動産の売主は,売買契約と同時にした買戻しの特約により,買主が支払った代金(別段の合意をした場合にあっては,その合意により定めた金額。第583条第1項にお いて同じ。)及び契約の費用を返還して,売買の解除をすることができる。この場合において,当事者が別段の意思を表示しなかったときは,不動産の果実と代金の利息とは相殺したものとみなす。
(買戻しの特約の対抗力)
第581条 売買契約と同時に買戻しの特約を登記したときは,買戻しは,第三者に対抗することができる。
2 前項の登記がされた後に第605条の2第1項に規定する対抗要件を備えた賃借人の権利は,その残存期間中1年を超えない期間に限り,売主に対抗することができる。ただし,売主を害する目的で賃貸借をしたときは,この限りでない。
<不動産登記法>
(買戻しの特約の登記の登記事項)
第96条 買戻しの特約の登記の登記事項は,第59条各号に掲げるもののほか,買主が支払った代金(民法第579条の別段の合意をした場合にあっては,その合意により定めた金額)及び契約の費用並びに買戻しの期間の定めがあるときはその定めとする。
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