【司法書士】
民法(債権法ほか)の改正について⑥


司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行

 道ばたのツツジが色鮮やかな季節となりました。世は令和の時代となり,長かった10連休も終わりました。過度のお祝いムードに眉をひそめる向きもありますが,明るいニュースの少ない昨今においては,おめでたく,またよいことではないかと私は思います。
本試験まで,いよいよ2か月を切りました。模試などで合格判定が出るようになるなど合格の手応えを感じつつある方には,ケアレスミス対策をとることをおすすめします。僅差で合否を分かつレベルでは,ケアレスミスは命取りです。ケアレスミスだと,簡単に片づけてしてしまわずに,なぜ,そのようなケアレスミスをしたのか,その過程を十分に検証し,二度と同じケアレスミスをしないようにすることが肝要です。
さて,今回も,民法(債権法ほか)の改正について,具体的な内容について進めて参ります。


<改正点>
1 消滅時効に関する見直し
⑴ 短期消滅時効の特例制度の廃止
⑵ 一般の債権の消滅時効期間の見直し
⑶ 長期の消滅時効期間の導入
⑷ 商行為によって生じた債権(商事債権)に関する短期消滅時効の廃止
⑸ 時効の更新と完成猶予
⑹ 消滅時効の援用権者の明文化
(以上,②参照)
2 法定利率に関する見直し
⑴ 法定利率に関する見直し
⑵ 商事法定利率の廃止
3 保証に関する見直し
⑴ 平成16年民法改正(貸金等債務に関する包括根保証の禁止)の概要
⑵ 包括根保証の禁止の対象の拡大等
⑶ 事業用融資における第三者保証の制限(公証人による意思確認手続の新設)
⑷ 保証契約締結時の情報提供義務
⑸ 債権者による主たる債務者の期限の利益喪失時の情報提供義務
⑹ 債権者による主たる債務の履行状況に関する情報提供義務
4 約款(定型約款)に関する規定の新設
⑴ 「約款」とは?
⑵ 「約款」の位置づけと問題点
⑶ 「定型約款」の定義
⑷ 定型約款が契約の内容となるための要件(組入要件)
⑸ 契約の内容とすることが不適当な内容の契約条項(不当条項)の取扱い
⑹ 定型約款の変更要件
⑺ 定型約款についての民法の適用時期等
5 債権譲渡に関する見直し
⑴ 債権譲渡による資金調達の拡充と債権の譲渡制限特約の効力の見直し
⑵ 譲渡制限特約付債権が譲渡された場合の債務者の保護
⑶ 譲渡制限特約付債権が譲渡された場合の債権の譲受人の保護
⑷ 将来債権の譲渡が可能とする規定の新設
⑸ 将来債権の譲渡された場合の債権の取得時期
⑹ 将来債権に付した譲渡制限の意思表示を債権の譲受人に対抗することの可否
⑺ 債権譲渡の対抗要件
⑻ 債権譲渡における債務者の抗弁
⑼ 債権の譲渡における相殺権の拡大
(以上,③参照)
6 意思能力についての規定の新設
⑴ 意思能力制度とその意義
⑵ 意思能力についての規定の新設
7 意思表示に関する規定の見直し
⑴ 心裡留保による意思表示に関する規定の見直し
⑵ 錯誤による意思表示に関する規定の見直し
⑶ 詐欺による意思表示に関する規定の見直し
8 代理に関する規定の見直し
⑴ 代理行為の瑕疵
⑵ 制限行為能力者の代理行為についての規定の新設
⑶ 代理人と復代理の権利義務
⑷ 代理権の濫用に関する規定の新設
⑸ 利益相反行為に関する規定の新設
⑹ 表見代理に関する規定の見直し
⑺ 無権代理に関する規定の見直し
9 債務不履行に関する規定の見直し
⑴ 履行遅滞に関する規定の見直し
⑵ 履行不能に関する規定の新設
⑶ 受領遅滞に関する規定の見直し
(以上,④参照)
⑷ 債務不履行による損害賠償の免責要件の一般化と帰責事由の明確化
⑸ 債務の履行に代わる損害賠償(塡補賠償)
⑹ 特別の事情によって生じた損害賠償請求権の要件についての見直し
⑺ 原始的不能の場合の損害賠償請求に関する規定の新設
⑻ 代償請求権に関する規定の新設
⑼ 損害賠償額の予定に関する規定の見直し
⑽ 金銭債務の不履行に関する規定の見直し
10 契約解除の要件に関する規定の見直し
⑴ 契約解除における債務者の帰責事由の要否
⑵ 催告解除と無催告解除の要件の明文化
11 売買に関する規定の見直し
⑴ 手付に関する規定の見直し
⑵ 売主の基本的な義務の明文化
⑶ 売主の担保責任に関する規定の全面改廃
⑷ 他人物売買における売主の担保責任
⑸ 売主の瑕疵担保責任に関する規定の見直しと「瑕疵」の定義の明確化
⑹ 買主の代金支払拒絶権
⑺ 買戻しに関する規定の見直し
(以上,前回⑤参照)
12 債権者代位権に関する規定の見直し
⑴ 債権者代位権に関する規定の整備・改正のあらまし
⑵ 債権者代位権の要件等に関する規定の見直し
⑶ 債権者代位権の代位行使が可能な被代位権利の範囲の明文化
⑷ 債権者から相手方への直接の支払請求等の明文化
⑸ 相手方が債務者に対して有する抗弁の取扱いの明確化
⑹ 債務者の処分権限の制限の見直し
⑺ 債権者代位訴訟の提起時における債務者への訴訟告知制度の創設
⑻ 登記または登録の請求権を保全するための債権者代位権制度の明文化
13 詐害行為取消権に関する規定の見直し
⑴ 詐害行為取消権に関する規定の整備・改正のあらまし
⑵ 詐害行為取消権の要件等に関する見直し
⑶ 詐害行為の類型化
⑷ 転得者に対する詐害行為取消請求をするための要件
⑸ 詐害行為取消権の行使方法等
⑹ 詐害行為取消権が行使された場合における受益者等の権利
⑺ 詐害行為取消権の出訴期間の見直し(以上,今回)


12 債権者代位権に関する規定の見直し

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<主な改正点>
・ 一般的な解釈に従い,債権者代位権の要件等に関する規定を見直し,必要な事項を明文化しました。
・ 債権者代位権の代位行使が可能な被代位権利の範囲について明文化しました
・ 債権者から相手方への直接の支払請求ができることを明文化しました。
・ 債権者が被代位権利を行使したときは,相手方は,債務者に対して主張することができる抗弁をもって,債権者に対抗することができる旨を明文化しました。
・ 債権者代位訴訟の提起時における債務者への訴訟告知制度を創設しました。
・ 登記または登録の請求権を保全するための債権者代位権制度の明文化
→ 一般的な解釈や判例の趣旨を明文化・明確化
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⑴ 債権者代位権に関する規定の整備・改正のあらまし

 債権者代位権とは,債権者が自己の債権を保全するために必要があるときは,債務者の第三者に対する権利を債務者に代わって行使(代位行使)することができる制度です(民法423条)。この制度は,債権者が他人である債務者の財産管理に介入する制度であるにもかかわらず,現行民法ではその骨格を定めているだけで,具体的なルールは判例によって形成されています。そのため,債務者や第三債務者の利益保護等も考慮して,規範の明確化・合理化を図る必要があるとの指摘がありました。
 そこで,改正民法は,下記の事項に関し,所要の改正を行いました。
① 債権者代位権の要件等(改正民法423条)
② 被代位権利の範囲(改正民法423条の2)
③ 債権者から相手方への直接の支払請求等(改正民法423条の3)
④ 相手方が債務者に対して有する抗弁の取扱い(改正民法423条の4)
⑤ 債務者の処分権限の制限の見直し(改正民法423条の5)
⑥ 債権者代位訴訟の提起時における債務者への訴訟告知制度の創設(改正民法423条の6)
⑦ 登記・登録請求権を保全するための債権者代位権(改正民法423条の7)

⑵ 債権者代位権の要件等に関する規定の見直し

 現行民法でも,債権者による債権者代位権の行使は,債務者の責任財産(差押債権を除く。)が不十分となって自己の債権を保全するために必要な場合に限られます(民法423条1項)。また,債権者代位権は,後日の強制執行に備えて,債務者の責任財産を保全するために行使するものであることから,強制執行により実現することができない債権に基づいて行使することはできないと解釈されていました。さらに,現行民法では,債権者は,その債権の期限が到来しない間は,裁判上の代位によらなければ,債権者代位権を行使することができないとされていました(民法423条2項)。しかし,現在では,債務者の責任財産を保全するための手続を規定する法律として,民事保全法が整備され,期限未到来の間でも民事保全制度を利用することが可能であり,裁判上の代位制度を利用されることはほとんどありませんでした。
 そこで,改正民法では,債権者代位権の要件等に関し,一般的な解釈に従い,①債権の保全の必要性があること,②差押禁止債権等を代位行使することができないこと,③強制執行により実現することのできない債権に基づいて債権者代位権を行使することができないことを明文化したほか,④裁判上の代位制度を廃止しました(改正民法423条)。
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(債権者代位権の要件)
第423条 債権者は,自己の債権を保全するため必要があるときは,債務者に属する権利(以下「被代位権利」という。)を行使することができる。ただし,債務者の一身に専属する権利及び差押えを禁じられた権利は,この限りでない。
2 債権者は,その債権の期限が到来しない間は,被代位権利を行使することができない。ただし,保存行為は,この限りでない。
3 債権者は,その債権が強制執行により実現することのできないものであるときは,被代位権利を行使することができない。
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⑶ 債権者代位権の代位行使が可能な被代位権利の範囲の明文化

 現行民法では,債権者代位権の代位行使が可能な被代位権利の範囲については,明文の規定がありませんでした。この点につき,判例は,債権者代位権の行使を債権の保全に必要な範囲に限定する観点から,債権者は,債務者の権利が可分であるときは自己の債権の額の限度においてのみ,代位行使をすることができると判示していました(最判昭44.6.24)。
 そこで,改正民法では,代位行使の範囲として,債権者は,被代位権利を行使する場合において,被代位権利の目的が可分であるときは,自己の債権の額の限度においてのみ,被代位権利を行使することができる旨を明文化しました(改正民法423条の2)。
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(代位行使の範囲)
第423条の2 債権者は,被代位権利を行使する場合において,被代位権利の目的が可分であるときは,自己の債権の額の限度においてのみ,被代位権利を行使することができる。
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⑷ 債権者から相手方への直接の支払請求等の明文化

 現行民法では,債権者が相手方への直接の支払請求をすることの可否について,明文の規定がありませんでしたが,判例は,被代位権利が金銭の支払または動産の引渡しを目的とするものであるときは,代位した債権者は,直接自己に対してその支払いや引渡しをすることを相手方に求めることができると判示していました(大判昭10.3.12)。
 そこで,改正民法では,判例の趣旨を踏まえて,債権者は,被代位権利を行使する場合において,被代位権利が金銭の支払又は動産の引渡しを目的とするものであるときは,相手方に対し,その支払または引渡しを自己に対してすることを求めることができる旨の規定を新設しました(改正民法423条の3前段)。また,この請求に応じて,相手方が債権者に対してその支払いまたは引渡しをしたときは,被代位権利は,これによって消滅する旨の規定も新設しています(改正民法423条の3後段)。
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(債権者への支払又は引渡し)
第423条の3 債権者は,被代位権利を行使する場合において,被代位権利が金銭の支払又は動産の引渡しを目的とするものであるときは,相手方に対し,その支払又は引渡しを自己に対してすることを求めることができる。この場合において,相手方が債権者に対してその支払又は引渡しをしたときは,被代位権利は,これによって消滅する。
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⑸ 相手方が債務者に対して有する抗弁の取扱いの明確化

 現行民法では,相手方が債務者に対して有する抗弁の取扱いについて,明文の規定がありませんでしたが,判例は,相手方は,債務者に対して主張することができる抗弁をもって,被代位権利を行使した債権者に対抗することができる旨を判示していました(大判昭11.3.23)。
 そこで,改正民法では,判例の趣旨を踏まえ,債権者が被代位権利を行使したときは,相手方は,債務者に対して主張することができる抗弁をもって,債権者に対抗することができる旨の規定を新設しました(改正民法423条の4)。

⑹ 債務者の処分権限の制限の見直し

 現行民法では,債務者の処分権限についての明文の規定がありませんでした。判例は,債権者が代位行使に着手して,債務者にその事実を通知し,または債務者がそのことを了知した場合に債務者は被代位権利について取立てその他の処分をすることができないと判示していました(大判昭14.5.16)。また,下級審の裁判例の中には,債務者による処分が制限されることを前提に,こうした場合には,取引の相手方が債務者に対して債務の履行をすることもできないとするものもありました。
 しかし,債権者代位権は,債務者の責任財産を保全するため,債務者が自ら権利を行使しない場合に限って債権者に行使が認められるものです。そのため,債権者が代位行使に着手した後であっても債務者が自ら権利を行使するのであれば,それによって責任財産の保全という所期の目的を達成することができます。それにもかかわらず,債権者の代位行使に着手後の債務者による処分を制限するのは,かえって債務者による責任財産の保全の途を閉ざす結果となるだけではなく,債務者の財産管理に対する過剰な介入になりかねません。また,債務者による取立てが制限され,相手方が債務者に対して債務の履行をすることも禁止されるとすると,相手方は,債務を履行するにあたって,債権者代位権の要件が充足されているのかを調査・判断しなければならなくなり,相手方に過分な負担をさせることになりかねません。
 そこで,改正民法では,債権者が被代位権利を行使した場合であっても,債務者はその権利について取立てその他の処分をすることができ,相手方も債務者に対して履行をすることができる旨の規定を新設しました(改正民法423条の5)。
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(債務者の取立てその他の処分の権限等)
第423条の5 債権者が被代位権利を行使した場合であっても,債務者は,被代位権利について,自ら取立てその他の処分をすることを妨げられない。この場合においては,相手方も,被代位権利について,債務者に対して履行をすることを妨げられない。
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⑺ 債権者代位訴訟の提起時における債務者への訴訟告知制度の創設

 現行民法では,債権者が債権者代位訴訟を提起し,判決がなされた場合には,その判決の効力(既判力)は,債権者のみならず債務者にも及ぶと解されていました。しかしながら,債務者にその訴えの存在を認識させ,その審理に参加し,自らの権利を主張する機会を保障する制度はありませんでした。
 そこで,改正民法では,債務者の手続保障を図る観点から,債権者は,債権者代位に係る訴えを提起したときは,遅滞なく,債務者に対し,訴訟告知をしなければならない旨の規定を新設しました(改正民法423条の6)。なお,「訴訟告知」とは,訴訟が提起されたことを利害関係のある第三者に告知する裁判上の手続をいいます(民事訴訟法53条1項)。訴訟告知によって,第三者(被告知者)は訴訟に参加しないときでも,告知者との関係においてはその訴訟についての効力が及び,告知者が敗訴した場合には敗訴責任を分担して負うこととされています(民事訴訟法53条4項,46条)。

⑻ 登記または登録の請求権を保全するための債権者代位権制度の明文化

 現行民法には,登記または登録の請求権を保全するための債権者代位権については,明文の規定がありません。判例は,不動産の譲渡がされた場合において,譲渡人が第三者に対し登記移転請求権を有していながら,その権利を行使せず,その結果,譲受人に登記が移転されないときは,譲受人は,譲渡人に対する登記移転請求権の保全を目的として,譲渡人がその第三者に対して有する登記移転請求権を代位行使することができると判示しました(大判明43.7.6)。しかしながら,債権者代位権は,本来は,債務者の責任財産一般を保全して強制執行の準備をするための制度ですから,金銭債権の保全を目的とすることが想定されており,債務者の無資力(=債権の保全の必要があること)を行使の要件としています。このため,登記請求権の保全を目的とする債権者代位権は本来的なものとはその根拠や性質を異にし,要件等についても異なるところがあると解されていました。
 そこで,改正民法では,登記・登録請求権の保全を目的とする債権者代位権については,一般の債権者代位権とは異なる規定を新設した上で,債権者代位権の要件(改正民法423条),代位行使の範囲(改正民法423条の2),債権者への支払いまたは引渡し(改正民法423条の3)の規定は,いずれも準用されないことを明らかにしました(改正民法423条の7)。
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(登記又は登録の請求権を保全するための債権者代位権)
第423条の7 登記又は登録をしなければ権利の得喪及び変更を第三者に対抗することができない財産を譲り受けた者は,その譲渡人が第三者に対して有する登記手続又は登録手続をすべきことを請求する権利を行使しないときは,その権利を行使することができる。この場合においては,前三条の規定を準用する。(注) ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ (注)準用するのは,改正民法423条の4(相手方の抗弁),423条の5(債務者の取立てその他の処分の権限等),423条の6(被代位債権の行使に係る訴えを提起した場合の訴訟告知)の3か条です。


13 詐害行為取消権に関する規定の見直し

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<主な改正点>
・ 詐害行為取消権による取消しの対象を「法律行為」から弁済等を含む「行為」に改めました。
・ 詐害行為取消権の被保全債権の範囲および種類について明文化しました。
・ 詐害行為の類型化し,担保供与行為および債務消滅行為については特則規定を設けました。
・ 受益者に対して詐害行為取消請求をすることができない場合には転得者にも詐害行為取消請求をすることができないとするなど,転得者に対して詐害行為取消請求をするための要件を整備しました。
・ 詐害行為取消権の行使方法等に関して,逸失した財産の債務者への返還請求権,詐害行為取消しの可能な範囲等,債権者から相手方への直接の支払請求権等を明文化しました。
・ 詐害行為取消権の認容判決の効力は債務者に及ぶものとするとともに詐害行為取消権に係る訴えの被告適格の明確化と債務者への訴訟告知制度を創設しました。
・ 財産処分行為について詐害行為取消権が行使された場合には,受益者等は債務者に対してその財産処分行為に基づき受益音が債務者に交付した財産(反対給付)等の返還を求めることができることとしました。
・ 債務消滅行為について詐害行為取消権が行使された場合には,受益者等はその債務消滅行為によって消滅した債権を行使することができることとしました。
・ 詐害行為取消権の出訴期間(2年)の起算点を明文化し,長期の制限期間を10年に短縮しました。
→ 判例の趣旨・通説等の明文化,不合理な規定の改定
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⑴ 詐害行為取消権に関する規定の整備・改正のあらまし

 詐害行為取消権とは,債務者が債権者を害することを知ってした行為(詐害行為)について,債権者がその取消し等を裁判所に請求することができる制度です(民法424条~426条)。この制度は,債権者がすでに他人(債務者)のした行為の取消し等を裁判上請求するという強力な制度であり,債務者や第三者(受益者・転得者)の複雑な利害調整を要するにもかかわらず,現行民法424条以下の3か条で骨格を定めているのみであり,具体的な規範は判例によって形成されています。そのため,関係当事者の利益調整も考慮しつつ,規範の明確化・合理化を図る必要があるとの指摘がありました。
 そこで,改正民法は,下記の事項に関し,所要の改正を行いました。
① 詐害行為取消権の要件等(改正民法424条)
② 詐害行為の類型化(改正民法424条の2~424条の4)
③ 転得者に対する詐害行為取消請求をするための要件(改正民法424条の5)
④ 詐害行為取消権の行使方法(改正民法424条の6~424条の9,425条)
⑤ 詐害行為取消権が行使された場合における受益者等の権利に関する規定(改正民法425条の2~4)
⑥ 詐害行為取消権の出訴期間に関する規定(改正民法426条),

⑵ 詐害行為取消権の要件等に関する見直し

 現行民法では,詐害行為取消権の要件の1つに「債務者が債権者を害することを知ってした法律行為(=詐害行為)」があります(民法424条)。しかし,判例は,履行期の到来した債務の弁済など厳密な意味では法律行為に当たらない行為も詐害行為取消権の対象としていました(最判昭33.9.26)。
 また,詐害行為取消権は,強制執行による債権回収の準備のための債務者の責任財産を保全するものであることを考えると,自然債務や不執行の合意のある債権を被保全債権とする取消は認められないと解されています。
 さらに,判例は,債務者の行為を詐害行為として民法424条を適用するには,その行為が取消権を行使する債権者の債権発生後になされたことが必要であると判示していました(大判大6.10.30,最判昭33.2.21,昭55.1.24)。しかし,被保全債権の発生前の行為を詐害行為取消請求の対象にならないとしてしまうと,詐害行為後に発生する遅延損害金,将来の養育費,仕事完成前の請負工事代金債権などを被保全債権とする詐害行為取消権は行使できない結果となり,これらの債権を有する者の保護の観点から妥当ではありません。
 そこで,改正民法では,一般的な解釈や判例の趣旨を踏まえ,①「法律行為」という文言を単に「行為」とし,②強制執行により実現することのできない債権に基づいて詐害行為取消請求をすることができないものとし,③債権者は,その債権が債務者の当該行為の前の原因に基づいて生じたものである場合に限り,当該行為について詐害行為取消請求をすることができるとし,次のように規定を改めました(改正民法424条)。
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(詐害行為取消請求)
第424条 債権者は,債務者が債権者を害することを知ってした行為の取消しを裁判所に請求することができる。ただし,その行為によって利益を受けた者(以下この款において「受益者」という。)がその行為の時において債権者を害することを知らなかったときは,この限りでない。
2 前項の規定は,財産権を目的としない行為については,適用しない。
3 債権者は,その債権が第1項に規定する行為の前の原因に基づいて生じたものである場合に限り,同項の規定による請求(以下「詐害行為取消請求」という。)をすることができる。
4 債権者は,その債権が強制執行により実現することのできないものであるときは,詐害行為取消請求をすることができない。
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⑶ 詐害行為の類型化

 現行民法では,詐害行為について「債務者が債権者を害することを知ってした法律行為」を1つの要件としていました。しかし,判例は,この要件に関し,例えば,相当の対価を得てした処分行為であっても原則として詐害行為に該当すると解釈するなど,比較的広範に詐害行為該当性を認めていました(大判明44.10.3ほか)。詐害行為が広く認められることは債権者の保護には望ましい反面,取引の萎縮や停滞を招きかねません。
 そこで,改正民法では,債権者保護と取引の安全の均衡を踏まえ,類似の機能を有する破産法の否認権に習い,詐害行為を債務者の責任財産の減少と位置づけた上で,①相当の対価を得てした財産処分行為(改正民法424条の2),②既存の債務についての担保の供与および債務消滅行為(改正民法424条の3)および③対価的な均衡を欠く債務消滅行為(改正民法424条の4)について,詐害行為を類型化し,類型ごとに要件の特例についての規定を新設しました。
① 相当の対価を得てした財産処分行為
 改正民法においては,相当の対価を得てした財産の処分行為につき,次の規定を新設しました(改正民法424条の2)。債権者は,債務者がした相当の対価を得てした財産処分行為を詐害行為として取り消すには,これらの要件は,すべて満たす必要があります。
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(相当の対価を得てした財産の処分行為の特則)
第424条の2 債務者が,その有する財産を処分する行為をした場合において,受益者から相当の対価を取得しているときは,債権者は,次に掲げる要件のいずれにも該当する場合に限り,その行為について,詐害行為取消請求をすることができる。
① その行為が,不動産の金銭への換価その他の当該処分による財産の種類の変更により,債務者において隠匿,無償の供与その他の債権者を害することとなる処分(以下この条において「隠匿等の処分」という。)をするおそれを現に生じさせるものであること。
② 債務者が,その行為の当時,対価として取得した金銭その他の財産について,隠匿等の処分をする意思を有していたこと。
③ 受益者が,その行為の当時,債務者が隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたこと。
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② 既存の債務についての担保の供与および債務消滅行為
 改正民法においては,特定の債権者に対する担保の供与に関する行為および対価的に均衡のとれた特定の債権者に対する債務の消滅に関する行為(偏頗行為)につき,次の規定を新設しました(改正民法424条の3)。債権者は,債務者がした既存の債務についての担保の供与および債務消滅行為を詐害行為として取り消すには,これらの要件は,すべて満たす必要があります。なお,この規定は,既存の債務についての担保供与行為等が対象となり,新規融資と同時に行われる担保供与行為は対象となりません。
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(特定の債権者に対する担保の供与等の特則)
第424条の3 債務者がした既存の債務についての担保の供与又は債務の消滅に関する行為について,債権者は,次に掲げる要件のいずれにも該当する場合に限り,詐害行為取消請求をすることができる。
① その行為が,債務者が支払不能(債務者が,支払能力を欠くために,その債務のうち弁済期にあるものにつき,一般的かつ継続的に弁済することができない状態をいう。次項第1号において同じ。)の時に行われたものであること。
② その行為が,債務者と受益者とが通謀して他の債権者を害する意図をもって行われたものであること。
2 前項に規定する行為が,債務者の義務に属せず,又はその時期が債務者の義務に属しないものである場合において,次に掲げる要件のいずれにも該当するときは,債権者は,同項の規定にかかわらず,その行為について,詐害行為取消請求をすることができる。
① その行為が,債務者が支払不能になる前30日以内に行われたものであること。
② その行為が,債務者と受益者とが通謀して他の債権者を害する意図をもって行われたものであること。
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③ 対価的な均衡を欠く債務消滅行為
 改正民法においては,消滅する債務に比して給付が過大である代物弁済を念頭に,対価的な均衡を欠く債務の消滅に関する行為について,次のように,特別な規定を新設しました(改正民法424条の4)。この規定は,このような行為のうち,消滅した債務の額に相当する部分は,対価的に均衡のとれた債務の消滅に関する行為と同様の改正民法424条の3の規定に従うこととし,それを超える部分については,原則規定である改正民法424条の規定に従うものとしています(改正民法424条の4)。
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(過大な代物弁済等の特則)
第424条の4 債務者がした債務の消滅に関する行為であって,受益者の受けた給付の価額がその行為によって消滅した債務の額より過大であるものについて,第424条に規定する要件に該当するときは,債権者は,前条第1項の規定にかかわらず,その消滅した債務の額に相当する部分以外の部分については,詐害行為取消請求をすることができる。
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⑷ 転得者に対する詐害行為取消請求をするための要件

① 受益者に対して詐害行為取消請求をすることができること
 現行民法では,判例は,民法424条所定の詐害行為の受益者または転得者の善意,悪意(債務者がした行為が債権者を害することの知・不知)は,その者の認識したところによって決すべきであって,その前者の善意,悪意を承継するものではないと解すべきであり,また,受益者または転得者から転得した者が悪意であるときは,たとえその前者が善意であっても同条に基づく債権者の追及を免れることができないというべきであると判示していました(最判昭49.12.12)。しかしながら,このように悪意の転得者に対する詐害行為取消請求を認めると,転得者が善意の受益者から受け取った財産を失うこととなり,善意の受益者が転得者から担保責任を追及されて財産の対価として受け取った金員の返還を求められるなど,善意の受益者の取引の安全が害されるおそれがあるとの指摘がされていました。また,類似の制度として,破産法上の否認制度においても,受益者が善意である場合には,転得者に対しても否認権を行使することができないこととされています(破産法170条1項)。
 そこで,改正民法では,善意の受益者の取引の安全を保護する破産法の扱いに習い,受益者が善意でなく,受益者に対して詐害行為取消請求をすることができる場合に限り,転得者に対しても詐害行為取消請求をすることができることとしました(改正民法424条の5柱書)
② 転得者の悪意
 現行民法では,詐害行為取消請求ができる要件として,「転得者の悪意」が必要です。「転得者の悪意」とは,転得者が,受益者の悪意を知っていることではなく,あくまでも転得の当時に債務者がした行為が債権者を害することを知っていることであると解されています。
 そこで,改正民法では,転得者に対しても詐害行為取消請求をすることができるのは,詐害行為取消請求をされる転得者自身が,転得の当時,債務者がした行為が債権者を害することを知っていた場合に限られる旨の規定を新設しました(改正民法424条の5第1号)。したがって,債務者が無資力であったことや債務者がした行為に関して対価を得ていないことなど「債務者がした行為が債権者を害すること」を基礎付ける具体的な事情を転得者が認識していてはじめて,債権者は,転得者に対して詐害行為取消請求ができるようになります。
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(転得者に対する詐害行為取消請求)
第424条の5
債権者は,受益者に対して詐害行為取消請求をすることができる場合において,受益者に移転した財産を転得した者があるときは,次の各号に掲げる区分に応じ,それぞれ当該各号に定める場合に限り,その転得者に対しても,詐害行為取消請求をすることができる。
① その転得者が受益者から転得した者である場合 その転得者が,転得の当時,債務者がした行為が債権者を害することを知っていたとき。
② その転得者が他の転得者から転得した者である場合 その転得者及びその前に転得した全ての転得者が,それぞれの転得の当時,債務者がした行為が債権者を害することを知っていたとき。
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⑸ 詐害行為取消権の行使方法等

 現行民法では,詐害行為取消権の具体的な行使方法等についての明文の規定はなく,判例理論によって規律されてきました。
 そこで,改正民法では,判例の趣旨や判例への批判を踏まえ,次の点を明文化しました。
① 逸失した財産の債務者への返還請求権等の明文化(大判明44.3.24)
 債権者は,受益者または転得者に対する詐害行為取消請求において,債務者がした行為の取消しだけではなく,その行為によって受益者または転得者に移転した財産を債務者に返還するように請求することができることとしました(改正民法424条の6第1項前段,2項前段)。また,受益者または転得者がその財産の現物返還をすることができないときは,その価額の償還をするように請求することができるとしました(改正民法424条の6第1項後段,2項後段)。債務者の責任財産の保全を図るという目的を達する観点からの規定の新設です。
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(財産の返還又は価額の償還の請求)
第424条の6 債権者は,受益者に対する詐害行為取消請求において,債務者がした行為の取消しとともに,その行為によって受益者に移転した財産の返還を請求することができる。受益者がその財産の返還をすることが困難であるときは,債権者は,その価額の償還を請求することができる。 2 債権者は,転得者に対する詐害行為取消請求において,債務者がした行為の取消しとともに,転得者が転得した財産の返還を請求することができる。転得者がその財産の返還をすることが困難であるときは,債権者は,その価額の償還を請求することができる。
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② 詐害行為取消権の行使の範囲の明文化(大判明36.12.7)
 債権者は,詐害行為取消権の対象となる債務者がした行為の目的が可分であるときは,自己の債権の額の限度においてのみ,その行為の取消しを請求することができることとしました(改正民法424の8第1項)。また,現物返還に代えて,価額償還請求をする場合にも,同様としました(改正民法424条の8第2項)。詐害行為取消権の行使の範囲を債権の保全に必要な範囲に限定する観点からの規定の新設です。
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(詐害行為の取消しの範囲)
第424条の8 債権者は,詐害行為取消請求をする場合において,債務者がした行為の目的が可分であるときは,自己の債権の額の限度においてのみ,その行為の取消しを請求することができる。
2 債権者が第424条の6第1項後段又は第2項後段の規定により価額の償還を請求する場合についても,前項と同様とする。
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③ 債権者から受益者または転得者に対する直接の返還請求権の明文化(大判大10.6.18)
 債権者が詐害行為取消請求権を行使する場合において,受益者または転得者に対し,財産の返還を請求する場合において,その返還の請求が金銭の支払い,または,動産の引渡しを求めるものであるときは,受益者に対してはその支払いまたは引渡しを,転得者に対してはその引渡しをすることを自己に対して求めることができることされました(改正民法424条の9第1項前段)。また,債権者に対して金銭の支払いまたは引き渡しをしたときは,その支払いまたは引き渡しをした受益者,または,転得者は,債務者に対してその支払いまたは引渡しをすることを要しないこととしました(改正民法424条の9第1項後段)。
以上は,価額償還請求の場合も同様です(改正民法424条の9第2項)。
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(債権者への支払又は引渡し)
第424条の9 債権者は,第424条の6第1項前段又は第2項前段の規定により受益者又は転得者に対して財産の返還を請求する場合において,その返還の請求が金銭の支払又は動産の引渡しを求めるものであるときは,受益者に対してその支払又は引渡しを,転得者に対してその引渡しを,自己に対してすることを求めることができる。この場合において,受益者又は転得者は,債権者に対してその支払又は引渡しをしたときは,債務者に対してその支払又は引渡しをすることを要しない。
2 債権者が第424条の6第1項後段又は第2項後段の規定により受益者又は転得者に対して価額の償還を請求する場合についても,前項と同様とする。
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④ 認容判決の効力の拡張とその明文化
 詐害行為取消訴訟の被告適格を有する者は,受益者に対する訴訟については受益者,転得者に対する訴訟についてはその詐害行為取消請求の相手方である転得者である旨の規定を新設
しました(改正民法424条の7第1項1号・2号)。また,詐害行為取消請求を認容する確定判決の効力については,被告となった者だけでなく,債務者にも及ぶとしました(改正民法425条)。現行民法において,判例は,詐害行為取消請求を認容する確定判決の効力は,財産の返還を請求する相手方である受益者または転得者には及ぶものの債務者には及ばないこと(相対的効力)を前提として,詐害行為取消請求に係る訴えにおいては,受益者等を被告とすべきであり,他方,債務者を被告とする必要はないとしていました(大判明44.3.24)。
 また,債権者は,その訴えを提起したときは,遅滞なく,債務者に対し,訴訟告知をしなければならない旨の規定も新設しました(改正民法424条の7第2項)。確定判決の効力が及ぶ債務者にも審理に参加する機会を保障するためです。
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(被告及び訴訟告知)
第424条の7 詐害行為取消請求に係る訴えについては,次の各号に掲げる区分に応じ,それぞれ当該各号に定める者を被告とする。
① 受益者に対する詐害行為取消請求に係る訴え受益者
② 転得者に対する詐害行為取消請求に係る訴えその詐害行為取消請求の相手方である転得者
2 債権者は,詐害行為取消請求に係る訴えを提起したときは,遅滞なく,債務者に対し,訴訟告知をしなければならない。
(認容判決の効力が及ぶ者の範囲)
第425条 詐害行為取消請求を認容する確定判決は,債務者及びその全ての債権者に対してもその効力を有する。
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⑹ 詐害行為取消権が行使された場合における受益者等の権利

① 債務者の受けた反対給付に関する受益者または転得者の権利 現行民法では,判例は,詐害行為の取消しの効果は債務者には及ばないとしています(大判明44.3.24)。しかしながら,この考え方によると,例えば,債務者を売主とする高級時計の売買契約が詐害行為として取り消され,買主である受益者がその高級時計を債権者に返還することになった場合であっても,受益者は,債務者に対し,反対給付である既払いの売買代金の返還を求めることはできないこととなり,受益者と債務者との公平を著しく欠く結果となり妥当ではありません。
 そこで,改正民法では,詐害行為取消請求を認容する確定判決の効力を債務者にも及ぼすとした上で(改正民法425条),財産処分行為が取り消された場合には,受益者は,債務者に対し,その反対給付の返還(現物返還)を請求することができる旨の規定を新設しました(改正民法425条の2前段)。ただし,反対給付が第三者に処分された場合などその反対給付の返還が困難であるときは,その価額の償還を請求することができる旨の規定を新設しました(改正民法425条の2後段)。
 また,転得者についても,同様に,財産処分行為が取り消された場合には,転得者がその財産を取得するためにした反対給付(代物弁済の場合には消滅した債権)の価額を限度として,当該財産処分行為が受益者に対する詐害行為取消請求によって取り消されたとすれば生じるべき受益者の債務者に対する反対給付の返還請求権または価額の償還請求権を転得者が行使することができる旨を規定しました(改正民法425条の4第1号)。
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(債務者の受けた反対給付に関する受益者の権利)
第425条の2 債務者がした財産の処分に関する行為(債務の消滅に関する行為を除く。)が取り消されたときは,受益者は,債務者に対し,その財産を取得するためにした反対給付の返還を請求することができる。債務者がその反対給付の返還をすることが困難であるときは,受益者は,その価額の償還を請求することができる。
(詐害行為取消請求を受けた転得者の権利)
第425条の4 債務者がした行為が転得者に対する詐害行為取消請求によって取り消されたときは,その転得者は,次の各号に掲げる区分に応じ,それぞれ当該各号に定める権利を行使することができる。ただし,その転得者がその前者から財産を取得するためにした反対給付又はその前者から財産を取得することによって消滅した債権の価額を限度とする。
① 第425条の2に規定する行為が取り消された場合 その行為が受益者に対する詐害行為取消請求によって取り消されたとすれば同条の規定により生ずべき受益者の債務者に対する反対給付の返還請求権又はその価額の償還請求権
②(略)
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② 受益者の債権の回復
 現行民法下でも,債務消滅行為である代物弁済が取り消された場合には,代物弁済により消滅した債権も原状に復するとしている判例もあります(大判昭16.2.10)。
 そこで,改正民法では,判例の趣旨を踏まえ,詐害的な財産処分行為として取り消された場合(改正民法424条の4)を除き,債務消滅行為が取り消された場合において,受益者が債務者から受けた給付を返還し,またはその価額を償還したときは,受益者の債務者に対する債権は,原状に復する旨の規定を新設しました(改正民法425条の3)。例えば,債務者甲が,1000万円の債権を有する乙との間で,その債権につき甲が所有する1億円の土地を代物弁済したが,これが詐害行為取消請求によって取り消され,乙がその1億円の土地を返還することとなった場合,乙が甲に有していた1000万円の債権は原状に復することとなる。
 また,転得者についても,同様に,債務消滅行為が取り消された場合には,転得者がその前者から財産(債務者から受益者に対して弁済として交付された財産)を取得するためにした反対給付(代物弁済の場合には消滅した債権)の価額を限度として,当該債務消滅行為が受益者に対する詐害行為取消請求によって取り消されたとすれば回復すべき受益者の債務者に対する債権を転得者が行使することができる旨の規定を新設しました(改正民法425条の4第2号)。
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(受益者の債権の回復)
第425条の3 債務者がした債務の消滅に関する行為が取り消された場合(第424条の4の規定により取り消された場合を除く。)において,受益者が債務者から受けた給付を返還し,又はその価額を償還したときは,受益者の債務者に対する債権は,これによって原状に復する。
(詐害行為取消請求を受けた転得者の権利)
第425条の4 債務者がした行為が転得者に対する詐害行為取消請求によって取り消されたときは,その転得者は,次の各号に掲げる区分に応じ,それぞれ当該各号に定める権利を行使することができる。ただし,その転得者がその前者から財産を取得するためにした反対給付又はその前者から財産を取得す
①(略)
② 前条に規定する行為が取り消された場合(第424条の4の規定により取り消された場合を除く。)その行為が受益者に対する詐害行為取消請求によって取り消されたとすれば前条の規定により回復すべき受益者の債務者に対する債権
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⑺ 詐害行為取消権の出訴期間の見直し

 現行民法下では,判例によれば,詐害行為取消権の消滅時効の起算点である民法426条にいう取消しの原因を覚知するとは,債務者が債権者を害することを知って当該法律行為をした事実を取消権者において知ることを意味し,単に取消権者が詐害の客観的事実を知るだけでは足りず,債務者に詐害の意思のあることをも知ることを要するとされていました(最判昭47.4.13)。
 改正民法でも,この判例の趣旨を踏まえ,2年の出訴期間の起算点を「債務者が債権者を害することを知って行為をしたことを債権者が知った時」である旨の規定を新設しました(改正民法426条前段)。この規定では,詐害行為取消権の要件のうち受益者等の悪意の認識は要求されません。
 また,現行民法は,詐害行為取消権は,詐害行為の時から20年を経過すると,行使することができない旨を規定していますが,債権者がすでに他人(債務者)のした行為の取消し等を裁判上請求するという強力な制度である詐害行為取消権の行使ができる状態があまりに長期間にわたり継続し,法律関係が安定しないのは妥当でないとの批判がありました。
 そこで,改正民法では,その期間を短縮し,詐害行為取消権についての訴えは,詐害行為の時から10年を経過したときは,提起することができないと規定を改めました(改正民426条後段)。
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(詐害行為取消権の期間の制限)
第426条 詐害行為取消請求に係る訴えは,債務者が債権者を害することを知って行為をしたことを債権者が知った時から2年を経過したときは,提起することができない。行為の時から10年を経過したときも,同様とする。
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