【司法書士】
民法(債権法ほか)の改正について⑧


司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行

 段々と梅雨のような気候になってきました。あじさいの花も色鮮やかに咲きみだれ、私たちの目を楽しませてくれます。あじさいは、植わっている土の性質により、花の色が違ってくると聞いたことがあります。
本試験まで、残り2週間程度となりました。この時期は過去問の年度別問題を本試験と同じ時間帯に解くのが典型的な学習方法でしょう。何度も解き慣れた過去問ではありましょうが、読み飛ばしたりせず、1字1句丁寧に目を通しながら解いてみましょう。択一式では、1肢1肢で正誤を判断しながら問題を解くのが解法の鉄則です。もし、判断に迷った肢があった場合には、その肢の根拠条文等をもう一度確認し、理解を確かなものにしておくことが肝要です。
 さて,今回も,民法(債権法ほか)の改正について,具体的な内容について進めて参ります。


<改正点>
1 消滅時効に関する見直し
⑴ 短期消滅時効の特例制度の廃止
⑵ 一般の債権の消滅時効期間の見直し
⑶ 長期の消滅時効期間の導入
⑷ 商行為によって生じた債権(商事債権)に関する短期消滅時効の廃止
⑸ 時効の更新と完成猶予
⑹ 消滅時効の援用権者の明文化
(以上,②参照)
2 法定利率に関する見直し
⑴ 法定利率に関する見直し
⑵ 商事法定利率の廃止
3 保証に関する見直し
⑴ 平成16年民法改正(貸金等債務に関する包括根保証の禁止)の概要
⑵ 包括根保証の禁止の対象の拡大等
⑶ 事業用融資における第三者保証の制限(公証人による意思確認手続の新設)
⑷ 保証契約締結時の情報提供義務
⑸ 債権者による主たる債務者の期限の利益喪失時の情報提供義務
⑹ 債権者による主たる債務の履行状況に関する情報提供義務
4 約款(定型約款)に関する規定の新設
⑴ 「約款」とは?
⑵ 「約款」の位置づけと問題点
⑶ 「定型約款」の定義
⑷ 定型約款が契約の内容となるための要件(組入要件)
⑸ 契約の内容とすることが不適当な内容の契約条項(不当条項)の取扱い
⑹ 定型約款の変更要件
⑺ 定型約款についての民法の適用時期等
5 債権譲渡に関する見直し
⑴ 債権譲渡による資金調達の拡充と債権の譲渡制限特約の効力の見直し
⑵ 譲渡制限特約付債権が譲渡された場合の債務者の保護
⑶ 譲渡制限特約付債権が譲渡された場合の債権の譲受人の保護
⑷ 将来債権の譲渡が可能とする規定の新設
⑸ 将来債権の譲渡された場合の債権の取得時期
⑹ 将来債権に付した譲渡制限の意思表示を債権の譲受人に対抗することの可否
⑺ 債権譲渡の対抗要件
⑻ 債権譲渡における債務者の抗弁
⑼ 債権の譲渡における相殺権の拡大
(以上,③参照)
6 意思能力についての規定の新設
⑴ 意思能力制度とその意義
⑵ 意思能力についての規定の新設
7 意思表示に関する規定の見直し
⑴ 心裡留保による意思表示に関する規定の見直し
⑵ 錯誤による意思表示に関する規定の見直し
⑶ 詐欺による意思表示に関する規定の見直し
8 代理に関する規定の見直し
⑴ 代理行為の瑕疵
⑵ 制限行為能力者の代理行為についての規定の新設
⑶ 代理人と復代理の権利義務
⑷ 代理権の濫用に関する規定の新設
⑸ 利益相反行為に関する規定の新設
⑹ 表見代理に関する規定の見直し
⑺ 無権代理に関する規定の見直し
9 債務不履行に関する規定の見直し
⑴ 履行遅滞に関する規定の見直し
⑵ 履行不能に関する規定の新設
⑶ 受領遅滞に関する規定の見直し
(以上,④参照)
⑷ 債務不履行による損害賠償の免責要件の一般化と帰責事由の明確化
⑸ 債務の履行に代わる損害賠償(塡補賠償)
⑹ 特別の事情によって生じた損害賠償請求権の要件についての見直し
⑺ 原始的不能の場合の損害賠償請求に関する規定の新設
⑻ 代償請求権に関する規定の新設
⑼ 損害賠償額の予定に関する規定の見直し
⑽ 金銭債務の不履行に関する規定の見直し
10 契約解除の要件に関する規定の見直し
⑴ 契約解除における債務者の帰責事由の要否
⑵ 催告解除と無催告解除の要件の明文化
11 売買に関する規定の見直し
⑴ 手付に関する規定の見直し
⑵ 売主の基本的な義務の明文化
⑶ 売主の担保責任に関する規定の全面改廃
⑷ 他人物売買における売主の担保責任
⑸ 売主の瑕疵担保責任に関する規定の見直しと「瑕疵」の定義の明確化
⑹ 買主の代金支払拒絶権
⑺ 買戻しに関する規定の見直し
(以上,⑤参照)
12 債権者代位権に関する規定の見直し
⑴ 債権者代位権に関する規定の整備・改正のあらまし
⑵ 債権者代位権の要件等に関する規定の見直し
⑶ 債権者代位権の代位行使が可能な被代位権利の範囲の明文化
⑷ 債権者から相手方への直接の支払請求等の明文化
⑸ 相手方が債務者に対して有する抗弁の取扱いの明確化
⑹ 債務者の処分権限の制限の見直し
⑺ 債権者代位訴訟の提起時における債務者への訴訟告知制度の創設
⑻ 登記または登録の請求権を保全するための債権者代位権制度の明文化
13 詐害行為取消権に関する規定の見直し
⑴ 詐害行為取消権に関する規定の整備・改正のあらまし
⑵ 詐害行為取消権の要件等に関する見直し
⑶ 詐害行為の類型化
⑷ 転得者に対する詐害行為取消請求をするための要件
⑸ 詐害行為取消権の行使方法等
⑹ 詐害行為取消権が行使された場合における受益者等の権利
⑺ 詐害行為取消権の出訴期間の見直し
(以上,⑥参照)
14 連帯債務に関する規定の見直し
⑴ 連帯債務者の1人について生じた事由の効力の見直し
⑵ 連帯債務者の求償権に関する規定の見直し
⑶ 不可分債務に関する規定の見直し
⑷ 多数当事者間の債権の分類
⑸ 連帯債権に関する規定の明文化
⑹ 連帯債権の絶対的効力
⑺ 連帯債権の相対的効力の原則とこれに反する特約の可否
⑻ 不可分債権
15 保証に関する見直し(③で述べた事項を除く)
⑴ 保証債務の付従性に基づく保証人の負担加重の否定
⑵ 債権者に対する保証人の抗弁と債務の履行の拒絶
⑶ 連帯保証人について生じた事由の効力
⑷ 委託を受けた保証人の求償権の額
⑸ 委託を受けた保証人が弁済期前に弁済等をした場合の求償権
⑹ 委託を受けない保証人の求償権
⑺ 連帯保証人の通知義務に関する規定の見直し
(以上,前回⑦参照)
16 債務引受に関する見直し
⑴ 債務引受の意義
⑵ 併存的債務引受
⑶ 免責的債務引受
17 相殺禁止に関する見直し
⑴ 相殺製限特約を第三者に対抗するための要件に関する見直し
⑵ 相殺禁止の範囲の見直し
⑶ 相殺の充当に関する見直し
18 弁済に関する見直し(第三者弁済)
⑴ 弁済の意義
⑵ 第三者弁済の見直し
19 契約に関する基本原則の明記
20 契約の成立に関する見直し
⑴ 契約の成立
⑵ 隔地者と対話者における申込みの効力と撤回等
⑶ 隔地者間の契約の成立時期の見直し
⑷ 申込者の死亡と申込みの効力(以上、今回)


16 債務引受に関する見直し

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
<主な改正点>
・ 併存的債務引受は、引受人と債権者との間で、債務者が債権者に対して負担する債務を引受人が負担する旨を合意した場合に加え、引受人と債務者との間で、債務者が債権者に対して負担する債務を引受人が負担する旨を合意する場合によってもすることできるものとしました。そして、後者の場合にあっては、債権者の権利は、債権者が引受人に対して承諾をした時に発生するものとしています。
・ 併存的債務引受の引受人は、債務者と連帯して、債務者が債権者に対して負担する債務と同一の内容の債務を負担する旨を規定しました。
・ 免責的債務引受は、債権者と引受人となる者との契約によってすることができることとされました。この場合において、免責的債務引受は、債権者が債務者に対してその契約をした旨を通知した時に、免責的債務引受契約の効力が生じることとされています。
・ 免責的債務引受は、債務者と引受人となる者が契約をし、債権者が引受人となる者に対して承諾をすることによってもすることができることとされました。
・ 免責的債務引受契約が成立すると、引受人は債務者が債権者に対して負担する債務と同一の内容の債務を負担し、債務者は自己の債務を免れることになります。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

⑴ 債務引受の意義

現行民法では、債務引受については、明文の規定がありませんでした。しかし、これが可能であることには判例・学説とも異論はなく、実務上も重要な機能を果たしていると指摘されていました。債務引受には、要件・効果の違いにより、債務者と引受人とが併存して債務を負う併存的債務引受(重畳的債務引受に同じ。以下、「併存的債務引受」という。)と、債務者が免責され引受人のみが債務を負う免責的債務引受があることが認められています。
改正民法では、判例・学説および実務を踏まえ、併存的債務引受と免責的債務引受のそれぞれについて、要件・効果につき、明文の規定を新設しました(改正民法470条~472条の4)。

⑵ 併存的債務引受

① 成立要件
改正民法では、併存的債務引受は、引受人と債権者との間で、債務者が債権者に対して負担する債務を引受人が負担する旨を合意した場合に加え(改正民法470条2項)、引受人と債務者との間で、債務者が債権者に対して負担する債務を引受人が負担する旨を合意する場合によってもすることできるものとしています(改正民法470条3項前段)。そして、後者の場合にあっては、債権者の権利は、債権者が引受人に対して承諾をした時に発生するものとしています(改正民法470条3項後段)。これは、債務者と引受人との合意によって成立する併存的債務引受は、その実質は、第三者のためにする契約であり、これについて受益者の権利取得に受益の意思表示を必要とする民法537条2項の規定の趣旨にならったものです(改正民法470条4項)。
② 効果
併存的債務引受の効果について、判例は、併存的債務引受があった場合には、特段の事情のないかぎり、原債務者と債務引受人との間に連帯債務関係が生ずるものと解するのが相当であると判示しています(最判昭42.12.20)。
改正民法では、この判例の趣旨を踏まえ、併存的債務引受の引受人は、債務者と連帯して、債務者が債権者に対して負担する債務と同一の内容の債務を負担する旨を規定しました(改正民法470条1項)。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
(併存的債務引受の要件及び効果)
第470条 併存的債務引受の引受人は、債務者と連帯して、債務者が債権者に対して負担する債務と同一の内容の債務を負担する。
2 併存的債務引受は、債権者と引受人となる者との契約によってすることができる。
3 併存的債務引受は、債務者と引受人となる者との契約によってもすることができる。この場合において、併存的債務引受は、債権者が引受人となる者に対して承諾をした時に、その効力を生ずる。
4 前項の規定によってする併存的債務引受は、第三者のためにする契約に関する規定に従う。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
③ 債権者に対する抗弁
改正民法では、引受人は、併存的債務引受による自己の債務について、その負担をした時に債務者が有する抗弁をもって、債権者に対抗することができる旨を規定しました(改正民法471条1項)。併存的債務引受がされた場合に、引受人は、債務を負担した時に債務者が有する抗弁をもって債権者に対抗することができるとする実務上の一般的な理解を明文化したものです。
④ 取消権・解除権
引受人は、債権者に対する抗弁事由を主張できることに対し、一般に解除権や取消権のように、契約当事者としての地位にある者が行使できる権利については、引受人は行使することができないと考えられています。判例も、契約上の地位の譲渡の事案において、その旨を判示しています(大判大14.12.15)。
そこで、改正民法では、債務者が債権者に対して取消権または解除権を有するときは、引受人は、一定の限度において、債権者に対して債務の履行を拒むことができるとし、その主張を履行拒否にとどめています(改正民法471条2項)。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
(併存的債務引受における引受人の抗弁等)
第471条 引受人は、併存的債務引受により負担した自己の債務について、その効力が生じた時に債務者が主張することができた抗弁をもって債権者に対抗することができる。
2 債務者が債権者に対して取消権又は解除権を有するときは、引受人は、これらの権利の行使によって債務者がその債務を免れるべき限度において、債権者に対して債務の履行を拒むことができる。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

⑶ 免責的債務引受

① 成立要件
改正民法では、免責的債務引受は、債権者と引受人となる者との契約によってすることができることとされました(改正民法472条2項前段)。この場合において、免責的債務引受は、債権者が債務者に対してその契約をした旨を通知した時に、免責的債務引受契約の効力が生じます(改正民法472条2項後段)。また、債務者と引受人となる者が契約をし、債権者が引受人となる者に対して承諾をすることによってもすることができることとされました(改正民法472条3項)。つまり、免責的債務引受は、債権者、債務者及び引受人の三者間の合意は必要ではなく、債権者と引受人との合意か、債務者と引受人との合意のいずれかがあれば成立することが認められることになります。しかし、債権者と引受人との契約のみによって免責的債務引受が成立することを認めると、債務者が自らの関与しないところで契約関係から離脱することになり不当です。そこで、債権者と引受人との合意に加えて、債権者の債務者に対する契約をした旨の通知(免責の意思表示)をすることをその要件としました。また、債権者の関与なく債務者が交替することを認めると、資力の乏しい者が免責的債務引受をするなど債権者の利益を害するおそれがあるため、債務者と引受人となる者が契約をした場合には、債権者の承諾がなければ免責的債務引受の効力を生じないこととしています。
② 効果
改正民法では、免責的債務引受契約が成立すると、引受人は債務者が債権者に対して負担する債務と同一の内容の債務を負担し、債務者は自己の債務を免れることになります(改正民法472条1項)。この場合、引受人は、負担した債務を履行しても、債務者に対して求償することはできません(改正民法472条の3)。免責的債務引受がされることによって、債務者は、債権債務関係から完全に解放されることを期待するものと考えられることから、この期待を保護し、規律の合理化を図るものであり、判例の趣旨にも沿うものとなっています(大判明36.10.3)。もっとも、当事者が求償権を発生させる旨の合意をすることはできるものと解されています。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
(免責的債務引受の要件及び効果)
第472条 免責的債務引受の引受人は債務者が債権者に対して負担する債務と同一の内容の債務を負担し、債務者は自己の債務を免れる。
2 免責的債務引受は、債権者と引受人となる者との契約によってすることができる。この場合において、免責的債務引受は、債権者が債務者に対してその契約をした旨を通知した時に、その効力を生ずる。
3 免責的債務引受は、債務者と引受人となる者が契約をし、債権者が引受人となる者に対して承諾をすることによってもすることができる。
(免責的債務引受における引受人の求償権)
第472条の3 免責的債務引受の引受人は、債務者に対して求償権を取得しない。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
③ 債権者に対する抗弁
改正民法では、併存的債務引受と同様、引受人は、免貴的債務引受により引き受けた自己の債務について、その引受けをした時に債務者が有していた抗弁をもって、債権者に対抗することができます(改正民法472条の2第1項)。
④ 取消権・解除権
改正民法では、併存的債務引受と同様、債務者が債権者に対して取消権又は解除権を有するときは、引受人は、一定の限度において、債権者に対して債務の履行を拒むことができるにとどめています(改正民法472条の2第2項)。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
(免責的債務引受における引受人の抗弁等)
第472条の2 引受人は、免責的債務引受により負担した自己の債務について、その効力が生じた時に債務者が主張することができた抗弁をもって債権者に対抗することができる。
2 債務者が債権者に対して取消権又は解除権を有するときは、引受人は、免責的債務引受がなければこれらの権利の行使によって債務者がその債務を免れることができた限度において、債権者に対して債務の履行を拒むことができる。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
⑤ 免責的債務引受による担保の移転
改正民法では、債権者は、債務者が負担していた債務の担保として設定された担保権および保証について、引受人が負担する債務に移転することができることとされました(改正民法472条の4第1項・第3項)。この担保や保証の移転には、債権者があらかじめまたは同時に引受人に対して移転をさせる旨の意思表示を要します(同条2項・3項)。免責的債務引受により、担保や保証はその付従性によって消滅しますので、その前(免責的債務引受と同時または事前)に担保権を存続させることについての取り決めをしておくべきだからです。また、移転の対象となる担保権や保証を引受人以外の者が設定しているときは、その者の承諾を得なければならず(同条1項ただし書・3項)、この承諾は書面または電磁的記録によってしなければなりません(同条3項~5項)。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
(免責的債務引受による担保の移転)
第472条の4 債権者は、第472条第1項の規定により債務者が免れる債務の担保として設定された担保権を引受人が負担する債務に移すことができる。ただし、引受人以外の者がこれを設定した場合には、その承諾を得なければならない 。
2 前項の規定による担保権の移転は、あらかじめ又は同時に引受人に対してする意思表示によってしなければならない。
3 前二項の規定は、第472条第1項の規定により債務者が免れる債務の保証をした者があるときについて準用する。
4 前項の場合において、同項において準用する第1項の承諾は、書面でしなければ、その効力を生じない。
5 前項の承諾がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その承諾は、書面によってされたものとみなして、同項の規定を適用する。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

17 相殺に関する見直し

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
<主な改正点>
・ 相殺禁止の意思表示は、「善意」の第三者に対抗することができない旨の規定を、「善意無過失」の第三者に対して対抗できない(悪意または重過失の第三者には対抗できる)旨の規定に改めました。
・ 相殺禁止の対象となる不法行為債権を限定し、それ以外の不法行為債権は相殺することができるように規定を改めました。
・ 差押えを受けた債権の第三債務者は、差押え前に取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗することができる旨の規定を新設しました。
・ 債権の差押えがあった場合であっても、第三債務者は、差押えの前に生じた原因に基づいて取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗することができる旨の規定を新設しました。
・ 相殺の充当の順序に関する合意をしたときはそれによって消滅するとし、合意をしなかったときは、債権者の有する債権とその負担する債務は、相殺適状となった時期の順序に従って相殺によって消滅する旨の規定を新設しました。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

⑴ 相殺禁止の意思表示を第三者に対抗するための要件に関する見直し

 現行民法では、相殺につき当事者が反対の意思を表示した場合(以下、「相殺禁止の意思表示」という。)には、当事者は互いに相殺をすることができなくなりますが(民法505条2項本文)、その意思表示は、善意の第三者に対抗することができない旨が規定されています(民法505条2項ただし書)。
 改正民法で、債権譲渡の禁止特約に関する民法466条2項の見直しをしたことに伴い(改正民法466条3項)、その適用場面として類似する相殺禁止の意思表示についても、整合的な見直しを図るため、相殺禁止の意思表示は「善意無過失」の第三者に対して対抗できない(悪意または重過失の第三者には対抗できる)旨の規定に改めました(改正民法505条2項)。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
(相殺の要件等)
第505条(略)
2 前項の規定にかかわらず、当事者が相殺を禁止し、又は制限する旨の意思表示をした場合には、その意思表示は、第三者がこれを知り、又は重大な過失によって知らなかったときに限り、その第三者に対抗することができる。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

⑵ 相殺禁止の範囲の見直し

① 不法行為に基づく損害賠償債権
現行民法では、不法行為債権を受働債権として相殺をすることは一律に禁止されています(民法509条)。これは、不法行為の誘発を防止し、かつ、現実の弁償による被害者保護のためと解されています。しかし、この規定によれば、AとBが双方の過失で交通事故(物損)を起こし、相互に不法行為債権を有している場合に、Bが無資力であるときは、Aは相殺をすることができず、自己の債務のみ全額弁済しなければならず、かえって当事者間の公平を害する結果になりかねません。そこで、相殺禁止の理由に照らして相殺禁止を合理的な範囲に限定すべきではないかという指摘がありました。
そこで、改正民法では、相殺禁止の対象となる不法行為債権を限定し、それ以外の相殺はすることができるように規定を改めました(改正民法509条)。具体的に、相殺が禁止される不法行為債権は、①不法行為の誘発を防止する観点から加害者の悪意による不法行為に基づく損害賠償債権と②現実弁償が必要という観点から、生命・身体を侵害する不法行為に基づく損害賠償債権です(改正民法509条1号・2号)。なお、この場合の「悪意」とは、積極的に他人を害する意思であると解されています。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
(不法行為等により生じた債権を受働債権とする相殺の禁止)
第509条 次に掲げる債務の債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができない。ただし、その債権者がその債務に係る債権を他人から譲り受けたときは、この限りでない。
① 悪意による不法行為に基づく損害賠償の債務
② 人の生命又は身体の侵害による損害賠償の債務(前号に掲げるものを除く。)
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
② 差押債権
 現行民法では、債権差押え等により支払いの差止めを受けた第三債務者は、その後に取得した債権を自働債権とする相殺をもって差押債権者に対抗することはできないとされています(民法511条)。この規定を反対解釈した場合には、第三債務者が差押え前に取得した債権であれば、これによる相殺を無制限に差押債権者に対抗することができるということになりますが、この点については争いがありました。判例は、差押え前に取得した債権を自働債権とするのであれば、差押え時に相殺適状にある必要はなく、自働債権と受働債権の弁済期の先後を問わず、相殺を対抗することができるという見解(無制限説)を採っています(最判昭45.6.24)。そして、この判例に基づく実務が確立していました。また、破産手続に関する判例ではありますが、破産手続開始の決定前に発生原因が存在する債権であれば、これを自働債権とする相殺をすることができるとする判示したものもあります (最判平24.5.28)。この判例は、差押え時に具体的に発生していない債権を自働債権とする相殺についても相殺の期待を保護するものです。
そこで、改正民法では、判例の趣旨を踏まえ、差押えを受けた債権の第三債務者は、差押え前に取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗することができることはもとより(改正民法511条1項)、債権の差押えがあった場合であっても、差押えの前に生じた原因に基づいて取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗することができる旨の規定を新設しました(改正民法511条2項)。ただし、第三債務者は、差押え後に取得した債権や差押え後に他人から取得した債権の場合には、これらによる相殺は、差押債権者に対抗することができないものとしています(改正民法511条1項、2項ただし書)。これらの場合には、第三債務者が差押えの時点で相殺の期待を有していたとはいえないからです。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
(差押えを受けた債権を受働債権とする相殺の禁止)
第511条 差押えを受けた債権の第三債務者は、差押え後に取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗することはできないが、差押え前に取得した債権による相殺をもって対抗することができる。
2 前項の規定にかかわらず、差押え後に取得した債権が差押え前の原因に基づいて生じたものであるときは、その第三債務者は、その債権による相殺をもって差押債権者に対抗することができる。ただし、第三債務者が差押え後に他人の債権を取得したときは、この限りでない。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

⑶ 相殺の充当に関する見直し

改正民法は、相殺の充当に関して(注)、合意がある場合には合意に従って充当されることを明らかにするとともに、充当に関する合意がない場合に、複数の債務を相殺するときには、相殺適状となった時期の順序に従って相殺するとした現在の判例法理(最判昭56.7.2)を踏まえ、①相殺の充当の順序に関する合意をしたときはそれによって消滅するとし、②合意をしなかったときは、債権者の有する債権とその負担する債務は、相殺適状となった時期の順序に従って相殺によって消滅するとし(改正民法512条1項)、その上で、相殺適状となった時期が同じである元本債権相互間と利息・費用債権の充当については弁済の充当の相当規定を準用する旨の規定を新設しました(改正民法512条2項)。
(注)債権者が債務者に対して有する一個又は数個の債権と、これと同種の目的を有する債務であって、債権者が債務者に対して負担する一個又は数個の債務について、債権者が相殺の意思を表示した場合において、相殺をする債権者の有する債権がその負担する債務の全部を消滅させるのに足りないときに、消滅させるべき債務を定めることをいいます。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
第512条 債権者が債務者に対して有する1個又は数個の債権と、債権者が債務者に対して負担する1個又は数個の債務について、債権者が相殺の意思表示をした場合において、当事者が別段の合意をしなかったときは、債権者の有する債権とその負担する債務は、相殺に適するようになった時期の順序に従って、その対当額について相殺によって消滅する。
2 前項の場合において、相殺をする債権者の有する債権がその負担する債務の全部を消滅させるのに足りないときであって、当事者が別段の合意をしなかったときは、次に掲げるところによる。
① 債権者が数個の債務を負担するとき(次号に規定する場合を除く。)は、第488条第4項第2号から第4号までの規定を準用する。
② 債権者が負担する1個又は数個の債務について元本のほか利息及び費用を支払うべきときは、第489条の規定を準用する。この場合において、同条第2項中「前条」とあるのは、「前条第4項第2号から第4号まで」と読み替えるものとする。
3 第一項の場合において、相殺をする債権者の負担する債務がその有する債権の全部を消滅させるのに足りないときは、前項の規定を準用する。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

18 弁済に関する見直し(第三者弁済)

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
<主な改正点>
・ 弁済が債権の消滅原因であることを明記する規定を新設しました。
・ 弁済をするについて正当な利益を有する者でない第三者の弁済が債務者の意思に反する場合であっても、債務者の意思に反することを債権者が知らなかったときには、その弁済は有効とする旨の規定を新設しました。
・ 弁済をするについて正当な利益を有する者以外の第三者は、債権者の意思に反して、弁済をすることができない旨の規定を新設しました。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

⑴ 弁済の意義

 現行民法では、弁済の款の冒頭に「第三者の弁済」という異例な事態を扱った規定が置かれ、弁済の意味に関する基本的な定めが欠けています。
そこで、改正民法では、基本的なルールはできる限り条文上明確にし、国民にわかりやすい民法を目指すとの観点から、このような現状を改め、弁済が債権の消滅原因である旨の規定を新設しました。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
(弁済)
第473条 債務者が債権者に対して債務の弁済をしたときは、その債権は、消滅する。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

⑵ 第三者弁済の見直し

 現行民法では、債務の弁済は、その債務の性質がこれを許さないとき、または当事者が反対の意思を表示したときを除き、第三者もすることができるとしています(民法474条1項)。そして、利害関係を有しない第三者は、債務者の意思に反して弁済をすることができませんが(民法474条2項)、債権者は、弁済が債務者の意思に反しない限り、利害関係を有しない第三者(注)からの弁済を拒むことができません。そのため、債権者が、債務者の意思に反していることを知らずに、利害関係を有しない第三者から弁済を受けた場合に、後でその弁済が債務者の意思に反していたときはこの弁済は無効になるおそれがあります。また、債権者は、見知らぬ第三者から弁済をしたい旨の申し出があっても、これを拒絶することができません。
 そこで、改正民法では、現行法と同様に、債務の弁済は第三者もすることができる旨の規定(改正民法474条1項)および弁済をするについて正当な利益を有する者でない第三者は、債務者の意思に反して弁済をすることができない旨の規定(同条2項本文)を原則としながらも、正当な利益を有する者でない第三者の弁済が債務者の意思に反してなされた場合であっても、債務者の意思に反することを債権者が知らなかったときには、その弁済は有効とする旨の規定に改めました(改正民法474条2項)。また、弁済をするについて正当な利益を有する者以外の第三者は、債権者の意思に反して、弁済をすることができない旨の規定を新設しました(改正民法474条3項)。
(注)改正民法における「利害関係を有しない第三者」の表現を「弁済をするについて正当な利益を有する者でない第三者」に変更しています。法定代位(改正民法500条)の表現と整合性をもたせたものです。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
(第三者の弁済)
第474条 債務の弁済は、第三者もすることができる。
2 弁済をするについて正当な利益を有する者でない第三者は、債務者の意思に反して弁済をすることができない。ただし、債務者の意思に反することを債権者が知らなかったときは、この限りでない。
3 前項に規定する第三者は、債権者の意思に反して弁済をすることができない。ただし、その第三者が債務者の委託を受けて弁済をする場合において、そのことを債権者が知っていたときは、この限りでない。
4 前三項の規定は、その債務の性質が第三者の弁済を許さないとき、又は当事者が第三者の弁済を禁止し、若しくは制限する旨の意思表示をしたときは、適用しない。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

19 契約に関する基本原則の明記

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
<主な改正点>
・ 「法令に特別の定めがある場合を除き」、「法令の制限内において」のような一定の制限を加えた上で、何人も契約をするかどうかを自由に決定することができ(契約締結の自由)、契約の当事者は、法令の制限内において、契約の相手方や契約の内容を自由に決定することができ(相手方選択の自由・内容決定の自由)、契約の成立には、書面の作成その他の方式を具備することを要しない(方式の自由)とする契約に関する基本原則(契約自由の原則)を明文化しました。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
近代私法の基本原則と言われる契約自由の原則は、一般的に、以下の自由を指します。
① 契約締結の自由 : 契約を締結し、または締結しない自由
② 相手方選択の自由: 契約の相手方を選択する自由
③ 内容決定の自由 : 契約の内容を自由に決定することができること
④ 方式の自由 : 契約を書面で締結するか、口頭で締結するか等、契約締結の方式を自由に決定することができること
ただし、これらの自由も無制限ではなく、法令上、契約の締結を義務付ける規定が設けられている場合(例 水道事業者は、正当の理由がなければ給水契約の申込みを拒んではならない(水道法15条1項))や、特定の内容の契約が無効となる場合(例 30年より短い借地権の存続期間の定めは無効となる(借地借家法3条、9条)、保証契約は、書面でしなければ効力を生じない(民法§446Ⅱ))などがあります。
 これらの基本原則は確立した法理として異論なく認められていますが、現行民法には、明文の規定がありません。
 そこで、改正民法では、「法令に特別の定めがある場合を除き」、「法令の制限内において」のような一定の制限を加えた上で、何人も契約をするかどうかを自由に決定することができ(契約締結の自由)、契約の当事者は、法令の制限内において、契約の相手方や契約の内容を自由に決定することができ(相手方選択の自由・内容決定の自由)、契約の成立には、書面の作成その他の方式を具備することを要しない(方式の自由)とする契約に関する基本原則(契約自由の原則)を明文化しました。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
(契約の締結及び内容の自由)
第521条 何人も、法令に特別の定めがある場合を除き、契約をするかどうかを自由に決定することができる。
2 契約の当事者は、法令の制限内において、契約の内容を自由に決定することができる。
(契約の成立と方式)
第522条(略)
2 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

20 契約の成立に関する見直し

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ <主な改正点>
・ 申込みと承諾によって契約が成立するという基本的な法理を新たに明文化しました。
・ 申込みの相手方が対話者である場合に、承諾の期間を定めないで行った申込みは、対話が継続している間であればいつでも撤回ができる規定が新設されました。
・ 申込みの相手方が対話者である場合に、対話継続中に承諾がされなければ申込みは効力を失う(効力を失わない旨の意思が表示されたときは効力を失わない)旨の規定が新設されました。
・ 隔地者間の場合でも、承諾の意思表示が相手方に到達した時に効力が発生することとしました。
・ 意思表示は、表意者が通知を発した後に死亡し、意思能力を喪失し、又は行為能力の制限を受けたときであっても有効であることを原則とし、例外的に、申込者が申込みの通知を発した後に死亡し、意思能力を喪失した常況にある者となり、または行為能力の制限を受けた場合において、申込者がその事実が生じたとすればその申込みは効力を有しない旨の意思を表示したとき、またはその相手方が承諾の通知を発するまでにその事実が生じたことを知ったときは、その申込みは、その効力を有しないこととしました。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

⑴ 契約の成立

 改正民法では、現行民法で暗黙の前提としている法理を明示し、申込みと承諾によって契約が成立するという基本的な法理を新たに明文化しました(改正民法522条1項)。また、改正民法では、「申込み」という用語の意味を一般的な理解に従って明文化しています(改正民法522条1項)。申込みは、相手方に申込みをさせようとする行為にすぎない申込みの誘引と異なり、承諾があればそれだけで契約を成立させるという意思表示であることを明確にしています。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
(契約の成立と方式)
第522条 契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。
2 (略)
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

⑵ 隔地者と対話者における申込みの効力と撤回等

 現行民法では、申込みの相手方が、意思表示が到達するまでに時間を要する者(以下、「隔地者」という。)である場合に、承諾の期間を定めないで(~までに回答してください、と定めずに)行った申込みについては、申込者が承諾の通知を受けるのに相当な期間を経過するまでは、撤回することができない旨の規定があるものの(民法524条)、申込みの相手方が、意思表示が到達するまでに時間を要しない者、例えば、当事者が直接会って交渉する場合の相手方や電話での通話の相手方のような者(以下、「対話者」という。)である場合に、承諾の期間を定めないで行った申込みについて明文の規定はなく、その取扱いが不明瞭であるとの指摘がありました。
 そこで、改正民法は、申込みの相手方が対話者である場合において、承諾の期間を定めないで行った申込みに関する有力な解釈を明文化し、申込みの相手方が対話者である場合に、承諾の期間を定めないで行った申込みは、対話が継続している間であればいつでも撤回を可能とする旨の規定(改正民法525条2項)と、対話継続中に承諾がされなければ申込みは効力を失う(効力を失わない旨の意思が表示されたときは効力を失わない)旨の規定をそれぞれ新設しました(改正民法525条3項)。
 申込みの相手方が隔地者である場合に、申込者がした承諾期間の定めがない申込みは相当な期間を経過するまで撤回はできないとする規定(民法524条)については、これを改め、撤回権を留保した場合には撤回を可能とする例外的な取扱いをその規定に加えました(改正民法525条1項ただし書)。
 また、現行民法では、承諾の期間を定めてした契約の申込みは、撤回することができないことから(民法521条1項)、申込みの相手方が隔地者・対話者であるにかかわらず、申込者の申込みに対して期間内に承諾の通知を受けなかったときは、その申込みは、その効力を失うという規定(民法521条2項)についても、これを改め、撤回権を留保した場合には撤回を可能とする例外的な取扱いをその規定に加えました(改正民法523条1項ただし書)。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
(承諾の期間の定めのある申込み)
第523条 承諾の期間を定めてした申込みは、撤回することができない。ただし、申込者が撤回をする権利を留保したときは、この限りでない。
2 (略) (承諾の期間の定めのない申込み)
第525条 承諾の期間を定めないでした申込みは、申込者が承諾の通知を受けるのに相当な期間を経過するまでは、撤回することができない。ただし、申込者が撤回をする権利を留保したときは、この限りでない。
2 対話者に対してした前項の申込みは、同項の規定にかかわらず、その対話が継続している間は、いつでも撤回することができる。
3 対話者に対してした第1項の申込みに対して対話が継続している間に申込者が承諾の通知を受けなかったときは、その申込みは、その効力を失う。ただし、申込者が対話の終了後もその申込みが効力を失わない旨を表示したときは、この限りでない 。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

⑶ 隔地者間の契約の成立時期の見直し

 現行民法では、隔地者間の契約の成立に関しては、発信主義(承諾通知を発信した時に契約が成立)を採用しています(民法526条1項)。これは、意思表示は相手方に到達した時に効力を生じるとの到達主義 (民法97条1項)の例外をなすものであり、取引の迅速性を考慮し、承諾者が早めに履行の準備を行うことを可能にする趣旨です。しかし、承諾通知の発信時に契約が成立するとなると、申込者が知らない間に履行遅滞に陥るおそれがあるなど、申込者が不測の損害を被るおそれがあること、当事者が迅速な契約の成立を望むのであれば電子メール等を使えばよく、迅速な通信手段のある今日では例外規定を置く必要性に乏しいと指摘されていました。既にインターネット上の取引においては、発信主義ではなく、到達主義が採用されています(電子消費者契約法)。
 そこで、改正民法は、現行民法526条1項を削除し、隔地者間の場合でも、承諾の意思表示が相手方に到達した時に効力が発生することとしました(民法97条1項)。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
(意思表示の効力発生時期等)
第97条 意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる。  2~3(略)
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

⑷ 申込者の死亡と申込みの効力

 現行民法は、隔地者に対する意思表示は、原則として、表意者が通知を発した後に死亡し、または行為能力を喪失したときであっても、有効であることを原則とする一方で(民法97条2項)、その例外として、申込者が反対の意思を表示した場合、または、その相手方が申込者の死亡もしくは行為能力の喪失の事実を知っていた場合には、効力を有しないと規定しています(民法525条)。この例外の具体的な適用範囲については、申込みの発信後、到達前の申込者の死亡または行為能力の喪失を、相手方が申込みの到達前に知った場合に限られるのかどうか(到達後に知った場合の扱い)および申込者の死亡または行為能力の喪失が申込みの到達後、承諾の発信前に生じ、相手方がそれを知りながら承諾した場合にも適用されるのかどうかをめぐって、解釈が分かれていました。しかしながら、死亡等の事実が生じたのが到達の前であったか否かで大きく効果を異なることとする合理的な理由がないとの指摘がありました。
 そこで、改正民法では、意思表示は、表意者が通知を発した後に死亡し、意思能力を喪失し、又は行為能力の制限を受けたときであっても有効であるとする現行民法97条2項の趣旨を原則とした上で(改正民法97条3項)、民法525条の規定を改め、申込者が申込みの通知を発した後に死亡し、意思能力を喪失した常況にある者となり、または行為能力の制限を受けた場合において、申込者がその事実が生じたとすればその申込みは効力を有しない旨の意思を表示したとき、またはその相手方が承諾の通知を発するまでにその事実が生じたことを知ったときはその申込みは、その効力を有しないことを例外として規定しました(改正民法526条)。これは、通知が到達した後に申込者が死亡等した場合を含め、例外を適用し、申込みの効力を否定(無効)するものです。改正民法の規定によれば、申込みの通知の到達前に死亡等の事実が生じたが、その事実を知ったのは到達後であった場合であっても、申込みの効力は否定(無効)されることになります。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
(意思表示の効力発生時期等)
第97条(略)
2(略)
3 意思表示は、表意者が通知を発した後に死亡し、意思能力を喪失し、又は行為能力の制限を受けたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。
(申込者の死亡等)
第526条 申込者が申込みの通知を発した後に死亡し、意思能力を有しない常況にある者となり、又は行為能力の制限を受けた場合において、申込者がその事実が生じたとすればその申込みは効力を有しない旨の意思を表示していたとき、又はその相手方が承諾の通知を発するまでにその事実が生じたことを知ったときは、その申込みは、その効力を有しない。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




Wセミナー司法書士講座のホームページはこちら