【司法書士】
民法(債権法ほか)の改正について⑨


司法書士齋藤・荒井共同事務所
所長 司法書士 齋藤隆行

 梅雨入りしましたが,時折,快晴の日もあり,真夏のような暑さになります。寒暖差が激しく体調の管理が難しい季節です。
 本試験まで,残りわずかとなりました。この時期に至っては,本試験当日に実力を十二分に発揮するための準備が大切です。まずは,早寝早起きを心がけ,体調を整えてください。本試験の前日は,緊張して眠れないという方もいらっしゃることでしょう。こういうときは,無理に眠ろうとする必要はありません。医師の話では,ベッドや布団に横になっているだけで,疲れの大部分は解消するそうです。リラックスできる音楽などをかけながら横になっていると自然と眠りが訪れることもあると思います。
 また,大変難しいことではありますが,当日も,必要以上に緊張しないようにすることが肝要です。人それぞれに方法はありましょうが,筆者としては,イメージトレーニングをおすすめします。誰でも,これまでの人生で,成功体験というものがあると思います。例えば,高校・大学の入学試験や資格試験等に合格した時のことなどです。また,成功体験以外にも,楽しかった想い出,うれしかった想い出など,なんでも構いません。あるいは,自分が司法書士試験に受かった時のことを想像してもよいと思います。緊張しそうになったら,目を閉じて,そのことを思ってください。きっと,穏やかな気持ちになれると思います。
 さて,今回も,民法(債権法ほか)の改正について,具体的な内容について進めて参ります。



<改正点>
1 消滅時効に関する見直し
⑴ 短期消滅時効の特例制度の廃止
⑵ 一般の債権の消滅時効期間の見直し
⑶ 長期の消滅時効期間の導入
⑷ 商行為によって生じた債権(商事債権)に関する短期消滅時効の廃止
⑸ 時効の更新と完成猶予
⑹ 消滅時効の援用権者の明文化
(以上,②参照)
2 法定利率に関する見直し
⑴ 法定利率に関する見直し
⑵ 商事法定利率の廃止
3 保証に関する見直し
⑴ 平成16年民法改正(貸金等債務に関する包括根保証の禁止)の概要
⑵ 包括根保証の禁止の対象の拡大等
⑶ 事業用融資における第三者保証の制限(公証人による意思確認手続の新設)
⑷ 保証契約締結時の情報提供義務
⑸ 債権者による主たる債務者の期限の利益喪失時の情報提供義務
⑹ 債権者による主たる債務の履行状況に関する情報提供義務
4 約款(定型約款)に関する規定の新設
⑴ 「約款」とは?
⑵ 「約款」の位置づけと問題点
⑶ 「定型約款」の定義
⑷ 定型約款が契約の内容となるための要件(組入要件)
⑸ 契約の内容とすることが不適当な内容の契約条項(不当条項)の取扱い
⑹ 定型約款の変更要件
⑺ 定型約款についての民法の適用時期等
5 債権譲渡に関する見直し
⑴ 債権譲渡による資金調達の拡充と債権の譲渡制限特約の効力の見直し
⑵ 譲渡制限特約付債権が譲渡された場合の債務者の保護
⑶ 譲渡制限特約付債権が譲渡された場合の債権の譲受人の保護
⑷ 将来債権の譲渡が可能とする規定の新設
⑸ 将来債権の譲渡された場合の債権の取得時期
⑹ 将来債権に付した譲渡制限の意思表示を債権の譲受人に対抗することの可否
⑺ 債権譲渡の対抗要件
⑻ 債権譲渡における債務者の抗弁
⑼ 債権の譲渡における相殺権の拡大
(以上,③参照)
6 意思能力についての規定の新設
⑴ 意思能力制度とその意義
⑵ 意思能力についての規定の新設
7 意思表示に関する規定の見直し
⑴ 心裡留保による意思表示に関する規定の見直し
⑵ 錯誤による意思表示に関する規定の見直し
⑶ 詐欺による意思表示に関する規定の見直し
8 代理に関する規定の見直し
⑴ 代理行為の瑕疵
⑵ 制限行為能力者の代理行為についての規定の新設
⑶ 代理人と復代理の権利義務
⑷ 代理権の濫用に関する規定の新設
⑸ 利益相反行為に関する規定の新設
⑹ 表見代理に関する規定の見直し
⑺ 無権代理に関する規定の見直し
9 債務不履行に関する規定の見直し
⑴ 履行遅滞に関する規定の見直し
⑵ 履行不能に関する規定の新設
⑶ 受領遅滞に関する規定の見直し
(以上,④参照)
⑷ 債務不履行による損害賠償の免責要件の一般化と帰責事由の明確化
⑸ 債務の履行に代わる損害賠償(塡補賠償)
⑹ 特別の事情によって生じた損害賠償請求権の要件についての見直し
⑺ 原始的不能の場合の損害賠償請求に関する規定の新設
⑻ 代償請求権に関する規定の新設
⑼ 損害賠償額の予定に関する規定の見直し
⑽ 金銭債務の不履行に関する規定の見直し
10 契約解除の要件に関する規定の見直し
⑴ 契約解除における債務者の帰責事由の要否
⑵ 催告解除と無催告解除の要件の明文化
11 売買に関する規定の見直し
⑴ 手付に関する規定の見直し
⑵ 売主の基本的な義務の明文化
⑶ 売主の担保責任に関する規定の全面改廃
⑷ 他人物売買における売主の担保責任
⑸ 売主の瑕疵担保責任に関する規定の見直しと「瑕疵」の定義の明確化
⑹ 買主の代金支払拒絶権
⑺ 買戻しに関する規定の見直し
(以上,⑤参照)
12 債権者代位権に関する規定の見直し
⑴ 債権者代位権に関する規定の整備・改正のあらまし
⑵ 債権者代位権の要件等に関する規定の見直し
⑶ 債権者代位権の代位行使が可能な被代位権利の範囲の明文化
⑷ 債権者から相手方への直接の支払請求等の明文化
⑸ 相手方が債務者に対して有する抗弁の取扱いの明確化
⑹ 債務者の処分権限の制限の見直し
⑺ 債権者代位訴訟の提起時における債務者への訴訟告知制度の創設
⑻ 登記または登録の請求権を保全するための債権者代位権制度の明文化
13 詐害行為取消権に関する規定の見直し
⑴ 詐害行為取消権に関する規定の整備・改正のあらまし
⑵ 詐害行為取消権の要件等に関する見直し
⑶ 詐害行為の類型化
⑷ 転得者に対する詐害行為取消請求をするための要件
⑸ 詐害行為取消権の行使方法等
⑹ 詐害行為取消権が行使された場合における受益者等の権利
⑺ 詐害行為取消権の出訴期間の見直し
(以上,⑥参照)
14 連帯債務に関する規定の見直し
⑴ 連帯債務者の1人について生じた事由の効力の見直し
⑵ 連帯債務者の求償権に関する規定の見直し
⑶ 不可分債務に関する規定の見直し
⑷ 多数当事者間の債権の分類
⑸ 連帯債権に関する規定の明文化
⑹ 連帯債権の絶対的効力
⑺ 連帯債権の相対的効力の原則とこれに反する特約の可否
⑻ 不可分債権
15 保証に関する見直し(③で述べた事項を除く)
⑴ 保証債務の付従性に基づく保証人の負担加重の否定
⑵ 債権者に対する保証人の抗弁と債務の履行の拒絶
⑶ 連帯保証人について生じた事由の効力
⑷ 委託を受けた保証人の求償権の額
⑸ 委託を受けた保証人が弁済期前に弁済等をした場合の求償権
⑹ 委託を受けない保証人の求償権
⑺ 連帯保証人の通知義務に関する規定の見直し
(以上,⑦参照)
16 債務引受に関する見直し
⑴ 債務引受の意義
⑵ 併存的債務引受
⑶ 免責的債務引受
17 相殺禁止に関する見直し
⑴ 相殺製限特約を第三者に対抗するための要件に関する見直し
⑵ 相殺禁止の範囲の見直し
⑶ 相殺の充当に関する見直し
18 弁済に関する見直し(第三者弁済)
⑴ 弁済の意義
⑵ 第三者弁済の見直し
19 契約に関する基本原則の明記
20 契約の成立に関する見直し
⑴ 契約の成立
⑵ 隔地者と対話者における申込みの効力と撤回等
⑶ 隔地者間の契約の成立時期の見直し
⑷ 申込者の死亡と申込みの効力
(以上,前回⑧参照)
21 契約の効力に関する見直し
⑴ 同時履行の抗弁権に関する見直し
⑵ 危険負担に関する見直し
⑶ 第三者のためにする契約に関する見直し
22 消費貸借に関する見直し
⑴ 書面でする消費貸借
⑵ 準消費貸借に関する見直し
⑶ 利息に関する見直し
⑷ 返還時期に関する見直し
23 使用貸借に関する見直し
⑴ 使用貸借の諾成契約化
⑵ 使用貸借の終了事由
⑶ 使用貸借の解除原因
24 賃貸借に関する見直し
⑴ 賃貸借の目的物の返還請求権の明文化
⑵ 短期賃借権の見直し
⑶ 賃貸借の存続期間の見直し
⑷ 賃借物の修繕に関する規定の見直し
⑸ 賃借物の一部滅失等による賃料の減額等
⑹ 賃貸借の終了時における規定の見直し
⑺ 賃貸不動産が譲渡された場合の規定の明確化
25 請負に関する規定の見直し
⑴ 注文者が受ける利益の割合に応じた報酬の請求
⑵ 請負人の担保責任
⑶ 建物等の建築請負における解除権の制限の見直し
⑷ 注文者の権利の期間制限の見直し
26 委任に関する規定の見直し
⑴ 復受任に関する規定の新設
⑵ 報酬に関する規定の見直し
⑶ 委任の解除に伴う損害賠償に関する規定の見直し
27 弁済による代位に関する規定の見直し
⑴ 弁済による代位の要件(任意代位)
⑵ 弁済による代位の効果
⑶ 一部弁済による代位
⑷ 代位者と債権者の優劣関係(以上,今回)



21 契約の効力に関する見直し

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<主な改正点>
・ 債務の履行に代わる損害賠償の債務の履行についても,同時履行の抗弁権があることが明文化されました。
・ 特定物の売買等における危険負担につき債務者主義を採用しました。
・ 第三者のためにする契約は,その成立の時に第三者が現に存しない場合または第三者が特定していない場合であっても,有効である旨の明文の規定を設けました。
・ 第三者の権利が発生した後に,債務者がその第三者に対する債務を履行しない場合には,受益者の承諾なしには,当該第三者のためにする契約を解除することができない旨の規定を新設しました。
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⑴ 同時履行の抗弁権に関する見直し

 現行民法は,双務契約の当事者の一方は,相手方がその債務の履行を提供するまでは,自己の債務の履行を拒むことができる旨を規定しています(民法533条本文,同時履行の抗弁権)。ところで,債務者の責めに帰すべき事由によって,債務者の債務の履行が不能となった場合,その債務は,本来の債務の内容と同一性を維持しつつ,損害賠償債務に転化します。この場合,同時履行の抗弁権は,当然に存続すると説く見解が有力です。しかし,この点については,現行民法に明文の規定がなく,これと異なった見解もあります。
 そこで,改正民法では,「債務の履行」には,債務の履行に代わる損害賠償の債務の履行を含むことを条文上明確にしました(改正民法533条本文)
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(同時履行の抗弁)
第533条 双務契約の当事者の一方は,相手方がその債務の履行(債務の履行に代わる損害賠償の債務の履行を含む。)を提供するまでは,自己の債務の履行を拒むことができる。ただし,相手方の債務が弁済期にないときは,この限りでない。
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⑵ 危険負担に関する見直し

 危険負担とは,双務契約(売買等)の一方の債務が債務者の責めに帰すべき事由によらないで履行不能となった場合に,その債務の債権者の負う反対給付債務がどのような影響を受けるのかを定める制度です。
 現行民法では,危険負担につき,原則として,当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは,債務者は,反対給付を受ける権利を有しない(債権者の負う反対給付債務は消滅する)としています(債務者主義,民法536条1項)。ただし,特定物に関する物権の設定または移転を双務契約の目的とした場合において,その物が債務者の責めに帰することができない事由によって滅失し,または損傷したときは,その滅失または損傷は,債権者の負担に帰する(債権者の負う反対給付債務が存続する)としています(債権者主義,民法534条1項)。この債権者主義を採用していると,例えば,特定物である建物の売買契約の締結直後にその建物が地震によって滅失した場合にも買主は代金を支払う義務を負うこととなりますが,この結論は債権者に過大な危険を負わせるものであって不当ではないかという指摘がなされてきました。実務上も,売買契約書で,危険負担の債権者主義を排除するものがほとんどです。
 そこで,改正民法では,現行民法534条を削除し,特定物の売買等の危険負担についても債務者主義を採用し,当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは,債権者は,反対給付の履行を拒むことができることとしました(改正民法536条)。債務者主義においても,債権者の反対給付債務の消滅という効果から,反対給付債務の履行拒絶権に,その効果を改めています。なお,買主が目的物の引渡しを受けた後に目的物が滅失・損傷したときは,買主は代金の支払い(反対給付の履行)を拒めません(改正民法567条1項)。
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(債務者の危険負担等)
第536条 当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは,債権者は,反対給付の履行を拒むことができる。
2 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは,債権者は,反対給付の履行を拒むことができない。この場合において,債務者は,自己の債務を免れたことによって利益を得たときは,これを債権者に償還しなければならない。
(目的物の滅失等についての危険の移転)
第567条 売主が買主に目的物(売買の目的として特定したものに限る。以下この条において同じ。)を引き渡した場合において,その引渡しがあった時以後にその目的物が当事者双方の責めに帰することができない事由によって滅失し,又は損傷したときは,買主は,その滅失又は損傷を理由として,履行の追完の請求,代金の減額の請求,損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。この場合において,買主は,代金の支払を拒むことができない。
2 (略)
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⑶ 第三者のためにする契約に関する見直し<

① 第三者の現存性
 現行民法では,契約により当事者の一方が第三者に対してある給付をすることを約したときは,その第三者は,債務者に対して直接にその給付を請求する権利を有し(民法537条1項),第三者の権利は,その第三者が債務者に対してこの契約の利益を享受する意思を表示した時に発生するとしています(第三者のためにする契約,民法537条2項)。
 しかし,現行民法は,第三者(以下,受益者という。)の現存性については,明文の規定がありません。判例は,第三者のためにする契約の締結時に受益者が現存している必要はなく,胎児や設立中の法人のように将来出現することが予期された者を受益者として第三者のためにする契約を締結することができるとしています(最判昭37.6.26)。
 そこで,改正民法は,この判例の趣旨を踏まえ,第三者のためにする契約は,その成立の時に第三者が現に存しない場合または第三者が特定していない場合であっても,有効である旨の明文の規定を設けました(改正民法537条2項)。
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(第三者のためにする契約)
第537条 契約により当事者の一方が第三者に対してある給付をすることを約したときは,その第三者は,債務者に対して直接にその給付を請求する権利を有する。
2 前項の契約は,その成立の時に第三者が現に存しない場合又は第三者が特定していない場合であっても,そのためにその効力を妨げられない。
3 第1項の場合において,第三者の権利は,その第三者が債務者に対して同項の契約の利益を享受する意思を表示した時に発生する。
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② 要約者による第三者のためにする契約の解除
現行民法では,第三者(以下,「受益者」という。)のためにする契約において,第三者に対して債務を負担する者(以下,「諾約者」という。)がその債務を履行しない場合に,その契約の相手方であり,諾約者に対し,受益者への債務の履行を請求することができる者(以下「要約者」という。)がその第三者のためにする契約を解除することができるかどうかについては,「第三者の権利が発生した後は,当事者は,これを変更し,又は消滅させることができない」と規定(民法538条)していることとの関係で,議論がありました。学説には,民法538条の趣旨に照らして,要約者は,受益者の承諾なしには,当該第三者のためにする契約を解除することができないとする見解と,同条は当該第三者のためにする契約の当事者(要約者と諾約者)が合意によって受益者の権利を消滅させることを禁じたものに過ぎず,要約者は,受益者の承諾なしに,当該第三者のためにする契約を解除することができるとする見解とが対立していました。
 改正民法では,第三者の権利が発生した後に,債務者がその第三者に対する債務を履行しない場合には,受益者の承諾なしには,当該第三者のためにする契約を解除することができない旨の規定を新設しました(改正民法538条2項)。受益者の諾約者に対する履行請求権を受益者に無断で奪うことは妥当ではないとする前者の見解を踏まえたものです。この場合の解除の手続(催告の要否等)については,契約の解除に関する規定によることになります。
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(第三者の権利の確定)
第538条(略)
2 前条の規定により第三者の権利が発生した後に,債務者がその第三者に対する債務を履行しない場合には,同条第1項の契約の相手方は,その第三者の承諾を得なければ,契約を解除することができない。
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22 消費貸借に関する見直し

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<主な改正点>
・ 諾成的な消費貸借は書面でしなければならないこととした上で,消費貸借の合意に書面がある場合には目的物の引渡しを要しないで契約が成立する旨の規定を新設しました(諾成的消費貸借)。
・ 借主は,金銭の交付を受ける前は,返還時期の定めがあっても,いつでも契約を解除できるとする一方で,契約が解除された場合において貸主に損害が発生するときは,貸主は賠償請求できる旨の規定も新設しました。
・ 借主は,金銭の交付を受ける前は,返還時期の定めがあっても,いつでも契約を解除できるとする一方で,契約が解除された場合において貸主に損害が発生するときは,貸主は賠償請求できる旨の規定も新設しました。
・ 金銭その他の物を給付する義務を負う者がある場合において,当事者がその物を消費貸借の目的とすることを約したときは,消費貸借は,これによって成立したものとみなすこととしました(準消費貸借)。
・ 貸主は,特約がなければ,借主に対して利息を請求することができず,この特約があるときは,貸主は,借主が金銭その他の物を受け取った日以後の利息を請求することができる旨の規定を新設しました。
・ 消費貸借である金銭その他の物の返還時期の定めがある場合であっても,いつでも返還できる旨の規定に改めました。また,期限前弁済と損害賠償との関係については,当事者が返還の時期を定めた場合においては,貸主は,借主がその時期の前に返還をしたことによって損害を受けたときは,借主に対し,その賠償を請求することができる旨の規定を新設しました。
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⑴ 書面でする消費貸借

 現行民法では,消費貸借は,当事者の一方が種類,品質および数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって,その効力を生じるものとされています(要物契約,民法587条)。これに対しては,貸主が融資の約束をしたにもかかわらず実際に金銭を受け取るまで融資を受けられるかどうかが分からないのでは,借主はその融資を前提とする計画等を立てることすらできないといった問題が指摘されていました。また,実務上は,諾成的な消費貸借が広く用いられており,判例も,無名契約としての諾成的消費貸借を認めています(最判昭48.3.16)。もっとも,要物契約と諾成契約とが併存するとすれば,当事者の合意のみがある場合に,それが要物契約の前提としての合意にとどまるのか,直ちに契約を成立させる諾成契約としての合意なのかが判然としないという問題点が指摘されていました。
 そこで,改正民法は,これらの指摘や判例を踏まえ,書面によらない消費貸借は,従来の規定のままにし(改正後民法587条),諾成的な消費貸借は書面でしなければならないこととした上で,消費貸借の合意に書面がある場合には目的物の引渡しを要しないで契約が成立する旨の規定を新設しました(改正民法587条の2第1項)。これにより,書面によることを要件として,合意のみで消費貸借の成立が認められることになります。また,借主は,金銭の交付を受ける前は,返還時期の定めがあっても,いつでも契約を解除できるとする一方で,契約が解除された場合において貸主に損害が発生するときは,貸主は賠償請求できる旨の規定も新設しました(改正民法587条の2第2項)。なお,この貸主の損害賠償請求は,相当の調達コストがかかる高額融資の場合を想定しており,消費者ローンなど少額多数の融資では,借主の契約解除による損害がないものとし,損害賠償請求が認められない運用が想定されています。また,書面による消費貸借を諾成契約としたことに伴い,消費貸借の予約に関する規定(民法589条)は廃止されました。消費貸借の予約は,書面による消費貸借での代替が可能だからです。
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(書面でする消費貸借等)
第587条の2 前条の規定にかかわらず,書面でする消費貸借は,当事者の一方が金銭その他の物を引き渡すことを約し,相手方がその受け取った物と種類,品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約することによって,その効力を生ずる。
2 書面でする消費貸借の借主は,貸主から金銭その他の物を受け取るまで,契約の解除をすることができる。この場合において,貸主は,その契約の解除によって損害を受けたときは,借主に対し,その賠償を請求することができる。
3 書面でする消費貸借は,借主が貸主から金銭その他の物を受け取る前に当事者の一方が破産手続開始の決定を受けたときは,その効力を失う。
4 消費貸借がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは,その消費貸借は,書面によってされたものとみなして,前三項の規定を適用する。
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⑵ 準消費貸借に関する見直し

 現行民法では,消費貸借によらないで金銭その他の物を給付する義務を負う者がある場合において,当事者がその物を消費貸借の目的とすることを約したときは,消費貸借は,これによって成立したものとみなすこととされています(民法588条)。ところで,判例は,消費貸借によらない物の返還債務を消費貸借の目的とする準消費貸借を認めていました(大判大2.1.24)。
 そこで,改正民法は,現行民法588条の「消費貸借によらないで」という文言を削除し,金銭その他の物を給付する義務を負う者がある場合において,当事者がその物を消費貸借の目的とすることを約したときは,消費貸借は,これによって成立したものとみなすとすることによって,判例の理論を明文化しました(改正民法588条)。なお,準消費貸借は,諾成的な消費貸借とは異なり,契約に基づく目的物の引渡しを予定していないため,目的物の引渡しに代えて書面を要求していません。
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(準消費貸借)
第588条 金銭その他の物を給付する義務を負う者がある場合において,当事者がその物を消費貸借の目的とすることを約したときは,消費貸借は,これによって成立したものとみなす。
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⑶ 利息に関する見直し

 現行民法においては,利息の発生に関する規定を置いておらず,無利息消費貸借が原則とされており(民法587条参照),利息は消費貸借の合意とは区別される利息の合意がある場合に限り発生することは解釈上異論のないところです。もっとも,現実に用いられる消費貸借のほとんどが利息付消費貸借であることからすれば,このような現状は相当でないとの指摘がされています。また,判例では,利息は元本の受領日から生じるとされています(最判33.6.6)。
 そこで,改正民法は,これらの趣旨を踏まえ,貸主は,特約がなければ,借主に対して利息を請求することができず(改正民法589条1項),この特約があるときは,貸主は,借主が金銭その他の物を受け取った日以後の利息を請求することができる旨の規定を新設しました(同条2項)。なお,諾成契約である金銭消費貸借契約であっても,要物契約である金銭消費貸借契約と同様,貸主は,借主が金銭その他の物の引き渡しを受けた日以後の利息を請求することとなります。
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(利息)
第589条 貸主は,特約がなければ,借主に対して利息を請求することができない。
2 前項の特約があるときは,貸主は,借主が金銭その他の物を受け取った日以後の利息を請求することができる。
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⑷ 返還時期に関する見直し

現行民法は,期限の利益は放棄することができることを原則として規定し(民法136条2項本文),例外として,期限の利益の放棄によって相手方の利益を害することはできないと規定しています(同項ただし書)。しかし,これは期限の利益の放棄によって相手方に生じた損害を賠償する義務を負うことを規定したものであり,相手方に損害が生ずる場合であっても,期限の利益の放棄自体が否定されることはないと解されています。したがって,消費貸借の貸主は,借主による期限前弁済(期限の利益の放棄)に対して,貸主に生じる損害を賠償するまではこれを受けないという態度に出ることはできず,期限前弁済自体は受けた上で,それによって生じた損害を主張立証して賠償請求をすることになると解されています。これに対しては,借主が貸主に生ずる損害を賠償した場合に限り,借主は期限前弁済をすることができるとする考え方もあります。
そこで,改正民法は,消費貸借の目的物について返還時期の定めのない場合の現行民法の規定(民法591条)を維持しつつ,これに「返還の時期の定めの有無にかかわらず」を加え,返還時期の定めがある場合であっても,いつでも返還できる旨の規定に改めました(改正民法591条2項)。また,期限前弁済と損害賠償との関係については,当事者が返還の時期を定めた場合においては,貸主は,借主がその時期の前に返還をしたことによって損害を受けたときは,借主に対し,その賠償を請求することができる旨の規定を新設しました(改正民法591条3項)。この場合の損害賠償については,書面でする消費貸借の規定とほぼ同様の運用になるものと想定されています(改正民法587条の2第2項参照)。
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(返還の時期)
第591条 当事者が返還の時期を定めなかったときは,貸主は,相当の期間を定めて返還の催告をすることができる。
2 借主は,返還の時期の定めの有無にかかわらず,いつでも返還をすることができる。
3 当事者が返還の時期を定めた場合において,貸主は,借主がその時期の前に返還をしたことによって損害を受けたときは,借主に対し,その賠償を請求することができる。
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23 使用貸借に関する見直し

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<主な改正点>
・ 使用貸借を諾成契約であるとし,当事者の合意があれば,目的物の交付がなくても,その効力を生じるものとして,その規定を改めました。
・ 書面による使用貸借を除き,貸主は,借主が借用物を受け取るまで,契約の解除をすることができる旨の規定を新設しました。
・ 使用貸借の終了事由のうち,それが生じれば当然に使用貸借が終了するもの(期間満了,使用・収益の終了,借主の死亡)につき規定を整理しました。
・ 使用貸借の解除原因である「借主はいつでも契約の解除をすることこができる」旨を明文化しました。
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⑴ 使用貸借の諾成契約化

 現行民法では,使用貸借は,当事者の一方が無償で使用および収益をした後に返還をすることを約して相手方からある物を受け取ることによって,その効力を生じる旨を規定しています(要物契約,民法593条)。使用貸借が要物契約とされている理由は,無償契約としての恩恵的な性格を有するためであるとか,沿革によるものであるなどと説明されています。しかし,無償契約といっても,親族等の情義的な関係によるものだけではなく,他の取引関係等を背景とする経済合理性のあるものなど様々なものがありますので,目的物引渡し前の使用貸借の合意に法的拘束力を与える必要性がないとはいえません。日的物を無償で貸すことについて貸主と借主が合意したにもかかわらず,貸主は,契約はまだ成立していないとして,借主からの日的物の引渡請求を拒絶することができるとすれば,確実に目的物を無償で借りたい借主にとって不利益を生ずることになるからです。また,実際に,当事者の合意のみで,貸主に目的物を無償で貸すことを義務付ける契約(諾成的使用貸借)をすることができると一般に解されていました。

 そこで,改正民法は,使用貸借を諾成契約であるとし,当事者の合意があれば,目的物の交付がなくても,その効力を生じるものとして,その規定を改めました(民法593条)。また,改正民法によれば,書面による使用貸借を除き,貸主は,借主が借用物を受け取るまで,契約の解除をすることができる旨の規定を新設しました(民法593条の2)。これは,使用貸借を諾成契約として規定した上で,その無償性を考慮して合意の拘束力を緩和するという方法を採るべきであるとの指摘に沿うものです。
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(使用貸借)
第593条 使用貸借は,当事者の一方がある物を引き渡すことを約し,相手方がその受け取った物について無償で使用及び収益をして契約が終了したときに返還をすることを約することによって,その効力を生ずる。
(借用物受取り前の貸主による使用貸借の解除)
第593条の2 貸主は,借主が借用物を受け取るまで,契約の解除をすることができる。  ただし,書面による使用貸借については,この限りでない。
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⑵ 使用貸借の終了事由

 現行民法では,借用物の返還の時期として,借主は,契約に定めた時期に,借用物の返還をしなければならない旨等を定めています(民法597条1項)。他方で,使用貸借は,借主の死亡によって,その効力を失う旨を定めています(民法599条)。しかしながら,使用貸借関係の消滅の原因となる事由は,すべて使用貸借の終了事由として定める方が明確です(借用物の返還については,改正民法593条で規定済みです)。
 そこで,改正民法は,使用貸借の終了事由のうち,それが生じれば当然に使用貸借が終了するもの(期間満了,使用・収益の終了,借主の死亡)につき規定を整理しました(改正民法597条)。
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(期間満了等による使用貸借の終了)
第597条 当事者が使用貸借の期間を定めたときは,使用貸借は,その期間が満了することによって終了する。
 2 当事者が使用貸借の期間を定めなかった場合において,使用及び収益の目的を定めたときは,使用貸借は,借主がその目的に従い使用及び収益を終えることによって終了する。
 3 使用貸借は,借主の死亡によって終了する。
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⑶ 使用貸借の解除原因

 使用貸借の解除原因については,明文の規定はないものの広く一般に認められていた解除原因である「借主はいつでも契約の解除をすることこができる」旨を明文化しました(改正民法598条)。
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(使用貸借の解除)
第598条 貸主は,前条第2項に規定する場合において,同項の目的に従い借主が使用及び収益をするのに足りる期間を経過したときは,契約の解除をすることができる。
 2 当事者が使用貸借の期間並びに使用及び収益の目的を定めなかったときは,貸主は,いつでも契約の解除をすることができる。
 3 借主は,いつでも契約の解除をすることができる。
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24 賃貸借に関する見直し

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<主な改正点>
・ 賃借人が契約終了のときに賃借物を返還することを約することが賃貸借の有効要件であることを明文化しました。
・ 処分の権限を有しない者が賃貸借をする場合には,短期賃貸借は,それぞれ法定の期間を超えることができないものとすると共に,契約でこれより長い期間を定めたときであっても,その期間は,当該各号に定める期間とする旨の規定を定めました。
・ 賃貸借の存続期間の上限を50年に伸長することとしました。
・ 賃借物の修繕が必要である場合において,①賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知し,または賃貸人がその旨を知ったにもかかわらず,賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき,または,②急迫の事情があるときは,賃借人は,その修繕をすることができる旨の規定を新設しました。
・ 賃借物の一部が滅失その他の事由により使用および収益をすることができなくなった場合において,それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは,賃料は,その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて減額される旨を定めました。
・ 賃借物の一部が滅失その他の事由により使用および収益をすることができなくなった場合において,残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないときは,賃借人は,契約の解除をすることができる旨を定めました。
・ 敷金の定義(賃料債務等を担保する目的で賃借人が賃貸人に交付する金銭で,名目を問わない)を明記するとともに,敷金の返還時期(賃貸借が終了して賃貸物の返還を受けたとき等)や返還の範囲(賃料等の未払債務を控除した残額)等に関する規定を新設しました。
・ 賃借物に損傷が生じた場合には,原則として賃借人は原状回復の義務を負いますが,通常損耗(賃借物の通常の使用収益によって生じた損耗)や経年変化についてはその義務を負わないという規定を新設しました。
・ 賃貸借の対抗要件を備えた賃貸不動産が譲渡されたときは,原則として,賃貸人たる地位は譲渡人から譲受人に移転する旨の規定を新設しました。
・ 不動産の譲渡人および譲受人が,賃貸人たる地位を譲渡人に留保する旨の合意に加えて,その不動産を譲受人が譲渡人に賃貸する旨の合意を要件とし,その賃貸借契約が終了したときは改めて賃貸人たる地位が旧所有者から新所有者又はその承継人に当然に移転するという規定を新設しました。
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⑴ 賃貸借の目的物の返還請求権の明文化

 いわゆる貸借型の契約のうち消費貸借および使用貸借の冒頭規定(民法587条,593条)には借主の目的物返還債務が明記されていますが,賃貸借の冒頭規定にはこれが明記されていません。しかしながら,賃借人が賃貸借終了のときに賃借物を返還することは,貨料支払債務と並ぶ賃貸借契約の本質的要素であり,これを規定に盛り込むべきであるとの指摘がされてきました。また,実務もこれを当然のこととして運用されてきました。

 そこで,改正民法は,この指摘を踏まえ,賃借人が契約終了のときに賃借物を返還することを約することが賃貸借の有効要件であることを明文化しました(改正民法601条)。
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(賃貸借)
第601条 賃貸借は,当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し,相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって,その効力を生ずる
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⑵ 短期賃借権の見直し

 現行民法では,処分につき行為能力の制限を受けた者又は処分の権限を有しない者が賃貸借をする場合の目的物とその期間を定めています(短期賃借権,民法602条)。そして,「処分につき行為能力の制限を受けた者」とは,未成年者,成年被後見人,被保佐人および被補助人を指すものとされています。しかしながら,これらの者が短期賃貸借をすることができるかどうかは民法5条,9条,13条,17条等によって規定されており,同法602条の存在はかえって短期賃貸借であれば未成年者や成年被後見人であっても単独で有効にすることができる等の誤解を生むおそれがあります。
 また,現行民法では,処分の権限を有しない者について,同条各号に定める期間の賃貸借のみをすることができると定めていましたが,その期間を超える約定をした場合の取扱いについては,明文の規定はありませんした。もっとも,処分の権限を有しない者がする賃貸借を短期に限定した趣旨は,長期に及ぶ賃貸借により当事者に対する拘束が大きくなることを防ぐことにあります。その趣旨から,法定の期間を超える部分のみを無効とすれば足りるといえます。
 そこで,改正民法では,「処分につき行為能力の制限を受けた者」の文言を削除するとともに,処分の権限を有しない者が賃貸借をする場合には,民法602条各号に掲げる賃貸借は,それぞれ当該各号に定める期間を超えることができないものとすると共に,契約でこれより長い期間を定めたときであっても,その期間は,当該各号に定める期間とする旨の規定を定めました(改正民法602条)。
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(短期賃貸借)
第602条 処分の権限を有しない者が賃貸借をする場合には,次の各号に掲げる賃貸借は,それぞれ当該各号に定める期間を超えることができない。契約でこれより長い期間を定めたときであっても,その期間は,当該各号に定める期間とする。
① 樹木の栽植又は伐採を目的とする山林の賃貸借 10年
② 前号に掲げる賃貸借以外の土地の賃貸借 5年
③ 建物の賃貸借 3年
④ 動産の賃貸借 6箇月
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⑶ 賃貸借の存続期間の見直し

 現行民法では,賃貸借の存続期間は,20年を超えることができない,契約でこれより長い期間を定めたときであっても,その期間は20年とする旨の規定があります(民法604条1項)。ただし,借地等については,借地借家法で建物所有目的の土地賃貸借の期間を上限ないものとし,原則として30年以上と定めています(借地借家法3条)。しかしながら,現代社会においては,20年を超える賃貸借のニーズはあります(例 ゴルフ場の敷地である山林の賃貸借など)。
 そこで,改正民法では,賃貸借の存続期間の上限を50年に伸長することとしました(改正民法604条1項)。
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(賃貸借の存続期間)
第604条 賃貸借の存続期間は,50年を超えることができない。契約でこれより長い期間を定めたときであっても,その期間は,50年とする。
 2 賃貸借の存続期間は,更新することができる。ただし,その期間は,更新の時から50年を超えることができない。
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⑷ 賃借物の修繕に関する規定の見直し

 現行民法では,賃貸人は,賃貸物の使用および収益に必要な修繕をする義務を負うのが原則であり(民法606条1項),賃借物が修繕を要るときは,賃貸人が既にこれを知っているときを除き,賃借人は,遅滞なくその旨を賃貸人に通知しなければならないとしています(民法615条本文)。しかし,賃借物に修繕が必要な状態となった場合に,賃借人はどのような要件の下で修繕を行うことができるのかについては,明文の規定がありませんでした。そのため,賃借物に修繕が必要な状態となった場合には,賃借人は,遅滞なくその旨を賃貸人に通知するしか手段はありません。そして,この通知を受けた賃貸人が速やかに修繕をしない場合,賃貸人は賃借物を賃借の目的のために適切に利用することができない状態が継続することとなり,賃借人の保護に欠けるとの指摘がありました。
 そこで,改正民法は,賃借物の修繕が必要である場合において,①賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知し,または賃貸人がその旨を知ったにもかかわらず,賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき,または,②急迫の事情があるときは,賃借人は,その修繕をすることができる旨の規定を新設しました(改正民法607条の2)。賃借物はあくまで賃貸人の所有物であり,目的物の修繕は目的物に物理的変更を加えることが多いため,通常はその所有権を有する賃貸人が行うとするのが合理的であり,かつ,適切です。修繕の必要が生じた旨を賃貸人に通知し,または賃貸人がその旨を知ったにもかかわらず,賃貸人が必要な修繕をしない場合,または,急迫な事情がある場合には,賃借人自身による修繕を例外的に許容すること,すなわち,賃借人が修繕を実施しても債務不履行や不法行為には該当しないとしたものです。なお,この規定に従い賃借人が修繕を行った場合において,その修繕につき賃貸人が義務を負っていたときは(改正民法606条1項),賃借人は,賃貸人に対して,必要費の償還を請求することができることとされていますが,(民法608条1項),賃借人の責めに帰すべき事由によって修繕が必要な状態になった場合には,賃貸人は修繕義務を負わないこととされています(改正民法606条1項ただし書)。
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(賃貸人による修繕等)
第606条 賃貸人は,賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし,賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは,この限りでない。
2 (略)
(賃借人による修繕)
第607条の2 賃借物の修繕が必要である場合において,次に掲げるときは,賃借人は,その修繕をすることができる。
① 賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知し,又は賃貸人がその旨を知ったにもかかわらず,賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき。
② 急迫の事情があるとき。
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⑸ 賃借物の一部滅失等による賃料の減額等

 現行民法は,賃借物の一部が賃借人の過失によらないで滅失したときは,賃借人は,その滅失した部分の割合に応じて,賃料の減額を請求することができ,また,この場合において,残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないときは,賃借人は,契約の解除をすることができる旨を規定しています(民法611条1項・2項)。しかしながら,賃料は賃借物が賃借人の使用収益可能な状態に置かれたことの対価として日々発生するものですから,賃借物の一部滅失の場合に限らず,その使用収益が不可能になったときは,賃料もその一部の割合に応じて当然に発生せず,また,賃借人からの請求を待たないで当然に減額されると考えるべきであるとの指摘があります。
 また,賃借物の一部の使用収益をすることができなくなったことによって賃借人が賃借をした目的を達することができない以上,それが一部滅失によるものかどうか,賃借人の過失によるものかどうかを問わず,賃借人による解除を認めるのが相当であるとの指摘があります。
 そこで,改正民法は,民法611条1項の規定を改め,賃借物の一部が滅失その他の事由により使用および収益をすることができなくなった場合において,それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは,賃料は,その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて減額される旨を定め(改正民法611条1項),また,民法611条2項の規定を改め,賃借物の一部が滅失その他の事由により使用および収益をすることができなくなった場合において,残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないときは,賃借人は,契約の解除をすることができる旨を定めました(改正民法611条2項)。なお,賃借人の過失により,賃借物の一部の使用収益をすることができなくなった場合には,賃借人は解除をすることはできますが,賃貸人にその損害賠償責任を負うことになります。
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(賃借物の一部滅失等による賃料の減額等)
第611条 賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において,それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは,賃料は,その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて,減額される。
2 賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において,残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないときは,賃借人は,契約の解除をすることができる。
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⑹ 賃貸借の終了時における規定の見直し

① 敷金
 現行民法では,賃貸借の終了時における敷金の返還についての規定がありません。そのため,敷金の返還を巡る紛争は少なくなく,判例の積み重ねによって紛争を解決してきました。しかし,市民生活に多くみられる紛争の解決指針となる規律が民法にないことは問題であり,敷金に関する規定を明記すべきではないかとの指摘がありました。
 そこで,改正民法では,敷金の定義(賃料債務等を担保する目的で賃借人が賃貸人に交付する金銭で,名目を問わない)を明記するとともに,敷金の返還時期(賃貸借が終了して賃貸物の返還を受けたとき等)や返還の範囲(賃料等の未払債務を控除した残額)等に関する規定を新設しました(改正民法622条の2)。
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第622条の2 賃貸人は,敷金(いかなる名目によるかを問わず,賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で,賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう。以下この条において同じ。)を受け取っている場合において,次に掲げるときは,賃借人に対し,その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない。
① 賃貸借が終了し,かつ,賃貸物の返還を受けたとき。
② 賃借人が適法に賃借権を譲り渡したとき。
2 賃貸人は,賃借人が賃貸借に基づいて生じた金銭の給付を目的とする債務を履行しないときは,敷金をその債務の弁済に充てることができる。この場合において,賃借人は,賃貸人に対し,敷金をその債務の弁済に充てることを請求することができない。
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② 原状回復
 現行民法では,賃貸借の終了時における賃借物の原状回復の範囲等についての規定がありません。そのため,敷金の返還と同様,原状回復の範囲を巡る紛争は少なくなく,判例の積み重ねによって紛争を解決してきました。しかし,市民生活に多くみられる紛争の解決指針となる規律が民法にないことは問題であり,原状回復の範囲に関する規定を明記すべきではないかとの指摘がありました。
 そこで,改正民法では,賃借物に損傷が生じた場合には,原則として賃借人は原状回復の義務を負いますが,通常損耗(賃借物の通常の使用収益によって生じた損耗)や経年変化についてはその義務を負わないという規定を新設しました(改正民法621条)。
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(賃借人の原状回復義務)
第621条 賃借人は,賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において,賃貸借が終了したときは,その損傷を原状に復する義務を負う。ただし,その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは,この限りでない。
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⑺ 賃貸不動産が譲渡された場合の規定の明確化

① 賃貸人たる地位の移転
 現代社会においては,賃貸不動産の譲渡が頻繁に行われておりますが,現行民法では,賃貸中の不動産が譲渡された場合に賃貸人の地位が譲渡人から譲受人に移転するか,また,移転するとした場合,これを賃借人に対抗するための要件は何かという点について,明文の規定がありません。同様に,賃借人としても,例えば,家主Aが賃貸中の建物を第三者Cに売買したという事例で,賃借人Bはどちらに対して賃料を支払えばよいか,現行民法には規定がありません。この事例において,判例は,Cが対抗要件(所有権移転登記)を備えていれば(最判昭49.3.19),契約上の地位の移転に関する民法の一般的な規律(改正民法539条の2)とは異なり,賃貸人たる地位は賃貸不動産の譲受人Cに当然に移転し,賃貸不動産の譲渡人A・譲受人C間での移転の合意も不要であり,契約の相手方である賃借人Bの承諾も必要がないと判示していました(大判大10.5.30)。
 そこで,改正民法では,判例の趣旨を踏まえ,賃貸借の対抗要件を備えた賃貸不動産が譲渡されたときは,原則として,賃貸人たる地位は譲渡人から譲受人に移転する旨の規定を新設しました(改正民法605条の2第1項・3項)。対抗要件を要するとした趣旨は,賃借人の保護のためです。
② 賃貸不動産の譲渡の際の賃貸人たる地位の留保
 ①で述べましたように,賃貸借の対抗要件を備えた賃貸不動産が譲渡されたときは,原則として,賃貸人たる地位は譲渡人から譲受人に移転しますが(改正民法605条の2第1項・3項),例えば,賃貸不動産の売買の場面において,買主が不動産の賃貸経営に不慣れな場合など,賃貸人たる地位を旧所有者に留保しておきたいとする要請もあります。このような賃貸人たる地位の留保の要件について,判例は, 自己の所有建物を他に賃貸して引き渡した者が右建物の所有権を第三者に移転した場合に,新旧所有者間において賃貸人の地位を旧所有者に留保する旨を合意したとしても,これをもって直ちに賃貸人の地位の新所有者への移転を妨げるべき特段の事情があるものということはできないとしています(最判平11.3.25)。
 そこで,改正民法では,判例の趣旨を踏まえ,不動産の譲渡人及び譲受人が,賃貸人たる地位を譲渡人に留保する旨の合意に加えて,その不動産を譲受人が譲渡人に賃貸する旨の合意を要件とし,その賃貸借契約が終了したときは改めて賃貸人たる地位が旧所有者から新所有者又はその承継人に当然に移転するという規定を新設しました(民法605条の2第2項)。
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(不動産の賃貸人たる地位の移転)
第605条の2 前条,借地借家法(平成三年法律第九十号)第10条又は第31条その他の法令の規定による賃貸借の対抗要件を備えた場合において,その不動産が譲渡されたときは,その不動産の賃貸人たる地位は,その譲受人に移転する。
2 前項の規定にかかわらず,不動産の譲渡人及び譲受人が,賃貸人たる地位を譲渡人に留保する旨及びその不動産を譲受人が譲渡人に賃貸する旨の合意をしたときは,賃貸人たる地位は,譲受人に移転しない。この場合において,譲渡人と譲受人又はその承継人との間の賃貸借が終了したときは,譲渡人に留保されていた賃貸人たる地位は,譲受人又はその承継人に移転する。
3 第1項又は前項後段の規定による賃貸人たる地位の移転は,賃貸物である不動産について所有権の移転の登記をしなければ,賃借人に対抗することができない。
4 第1項又は第2項後段の規定により賃貸人たる地位が譲受人又はその承継人に移転したときは,第608条の規定による費用の償還に係る債務及び第622条の2第1項の規定による同項に規定する敷金の返還に係る債務は,譲受人又はその承継人が承継する。
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25 請負に関する規定の見直し

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<主な改正点>
・ 仕事を完成することができなくなった場合,または,請負が仕事の完成前に解除された場合において,中途の結果のうち可分な部分によって注文者が利益を受けるときは,請負人は,その利益の割合に応じて報酬の請求をすることが可能である旨の規定を新設しました。
・ 売買の規定を準用して,目的物が契約の内容に適合しない場合に,請負人が担保責任を負うこととし,その担保責任として,注文者は,①修補等の履行の追完 ②損害賠償請求 ③契約の解除 ④代金減額請求をすることができることになりました。
・ 仕事の目的物が契約の内容に適合しない場合の契約の解除については,債務不履行による契約の解除の一般的な規定に従うものとしました。
・ 注文者は,仕事の目的物の種類または品質に関して契約の内容に適合しない契約に適合しないことを知ってから1年以内にその旨を請負人に通知しないときは,注文者は,その不適合を理由として,履行の追完の請求,報酬の減額の請求,損害賠償の請求及び契約の解除をすることができないと規定を改めました。
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⑴ 注文者が受ける利益の割合に応じた報酬の請求

 現行民法では,請負は,当事者の一方がある仕事を完成することを約し,相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって,その効力を生ずると規定されていますが(民法632条),中途で契約が解除されるなどした場合については,特に規定が設けていません。中途の結果について報酬が請求され,紛争に発展する事例は,実際にも少なくないことから,明確な規定が必要との指摘がありました。また,判例は,請負契約が中途で解除された事案においても,注文者が利益を得られる場合には,中途の結果についても,利益の割合に応じた報酬の請求は可能と判断しています(最判昭56.2.17)。
 そこで,改正民法では,仕事を完成することができなくなった場合,または,請負が仕事の完成前に解除された場合において,中途の結果のうち可分な部分によって注文者が利益を受けるときは,請負人は,その利益の割合に応じて報酬の請求をすることが可能である旨の規定を新設しました(改正民法634条)。なお,仕事を完成することができなかったことについて注文者に帰責事由がある場合には,報酬の全額を請求することが可能とされています(改正民法536条2項)。
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(注文者が受ける利益の割合に応じた報酬)
第634条 次に掲げる場合において,請負人が既にした仕事の結果のうち可分な部分の給付によって注文者が利益を受けるときは,その部分を仕事の完成とみなす。この場合において,請負人は,注文者が受ける利益の割合に応じて報酬を請求することができる。
① 注文者の責めに帰することができない事由によって仕事を完成することができなくなったとき。
② 請負が仕事の完成前に解除されたとき。
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⑵ 請負人の担保責任

 現行民法では,建築請負における建物など仕事の目的物に「瑕疵」があった場合に請負人は担保責任を負い,その担保責任としては,注文者は,①修補の請求,②損害賠償請求,③契約の解除をすることができると規定しています(民法634条・635条)。改正民法では,「瑕疵」という用語については,「契約の内容に適合していないこと」を意味するものと解釈されていることを踏まえ,請負の担保責任に関する規定を見直すべきであり,また,改正民法においては,売買における売主の担保責任について,代金減額請求をすることができることを明記するなど整理されており,売買と請負とで担保責任の在り方が大きく異なるのは合理性が乏しいことになります。
 そこで,改正民法では,売買の規定を準用して,目的物が契約の内容に適合しない場合に,請負人が担保責任を負うこととし,その担保責任として,注文者は,①修補等の履行の追完 ②損害賠償請求 ③契約の解除 ④代金減額請求をすることができることになりました(民法559条,562条)。なお,担保責任に関する売買の規定を準用することになったことに伴い,請負人の担保責任に関する民法634条の規定は削除されました。

⑶ 建物等の建築請負における解除権の制限の見直し

 現行民法では,土地工作物(建物等)の建築請負では,深刻な瑕疵があっても注文者は契約解除をすることができない旨が規定されています(民法635条ただし書)。これは,社会経済上の損失の大きさを考慮したものといわれています。しかし,現代においては,深刻な瑕疵があっても解除できないのは,注文者にとってあまりに不合理ではないかとの指摘がありました。また,判例も,建替費用相当額の損害賠償,すなわち,請負人が解除時に負担するのと同程度の損害賠償は認めており(最判平14.9.24),解除の制限に関する本規定は実質的に意味を失っているといわれていました。

 そこで,改正民法では,建物等の建築請負における注文者の解除権を制限する規定(民法635条)を削除し,仕事の目的物が契約の内容に適合しない場合の契約の解除については,債務不履行による契約の解除の一般的な規定に従うものとしました(改正民法559条において準用する564条)。

⑷ 注文者の権利の期間制限の見直し

 現行民法では,請負人の担保責任の追及には,注文者は,原則として目的物の引渡し等から1年以内の権利行使が必要とされ(民法637条),例外として,①建物等の建築請負では引渡しから5年以内,②その建物等が石造,金属造等の場合は引渡しから10年以内の権利行使が必要とされています(民法638条)。しかし,注文者が瑕疵に気付かずに期間が経過してしまうおそれがあり,また,制限期間内に権利行使までするのは注文者の負担が重いとの指摘がありました。
 そこで,改正民法では,注文者は,仕事の目的物の種類または品質に関して契約の内容に適合しない契約に適合しないことを知ってから1年以内にその旨を請負人に通知しないときは,注文者は,その不適合を理由として,履行の追完の請求,報酬の減額の請求,損害賠償の請求及び契約の解除をすることができないと規定を改めました(改正民法637条1項)。注文者の負担を軽減するためです。また,建物等についての例外的取扱い(民法638条)は廃止しました。
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(請負人の担保責任の制限)
第636条 請負人が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない仕事の目的物を注文者に引き渡したとき(その引渡しを要しない場合にあっては,仕事が終了した時に仕事の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しないとき)は,注文者は,注文者の供した材料の性質又は注文者の与えた指図によって生じた不適合を理由として,履行の追完の請求,報酬の減額の請求,損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。ただし,請負人がその材料又は指図が不適当であることを知りながら告げなかったときは,この限りでない。
(目的物の種類又は品質に関する担保責任の期間の制限)
第637条 前条本文に規定する場合において,注文者がその不適合を知った時から1年以内にその旨を請負人に通知しないときは,注文者は,その不適合を理由として,履行の追完の請求,報酬の減額の請求,損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。
2 前項の規定は,仕事の目的物を注文者に引き渡した時(その引渡しを要しない場合にあっては,仕事が終了した時)において,請負人が同項の不適合を知り,又は重大な過失によって知らなかったときは,適用しない。
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26 委任に関する規定の見直し

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<主な改正点>
・ 受任者は,委任者の許諾を得たとき,またはやむを得ない事由があるときでなければ,復受任者を選任することができない旨の規定を新設しました。
・ 代理権を付与する委任において,受任者が代理権を有する復受任者を選任したときは,復受任者は,委任者に対して,その権限の範囲内において,受任者と同一の権利を有し, 義務を負う旨の規定を新設しました。
・ 受任者は,委任者の責めに帰することができない事由によって委任事務の履行をすることができなくなったとき,または,委任が履行の中途で終了したときは,既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができる旨の規定に改めました。
・ 委任が受任者の利益をも目的とする場合であっても原則として委任を解除することができるが,委任者が解除をしたときは,受任者の損害を賠償しなければならない旨の規定に改めました。
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⑴ 復受任に関する規定の新設

① 復受任者の選任
 現行民法では,復受任に関する規定はありません。そのため,復受任者の選任については,代理の規定(民法104条)が類推適用され,委任者の許諾を得たとき,またはやむを得ない事由があるときには,受任者は復受任者を選任することができると解されてきました。
 そこで,改正民法では,この一般的な解釈に従い,受任者は,委任者の許諾を得たとき,またはやむを得ない事由があるときでなければ,復受任者を選任することができない旨の規定を新設しました(改正民法644条の2)。
② 復受任者の権限および義務
現行民法では,復代理人は,本人および第三者に対して,代理人と同一の権利を有し,義務を負う旨の規定があります(民法107条2項)。この規定について,判例は,復代理人の代理行為も代理人の代理行為と同一の効果を生じるところから,契約関係のない本人復代理人間にも直接の権利義務の関係を生じさせるものであると判示していました(最判昭51.4.9)。
 そこで,改正民法は,判例の趣旨を踏まえ,代理権を付与する委任において,受任者が代理権を有する復受任者を選任したときは,復受任者は,委任者に対して,その権限の範囲内において,受任者と同一の権利を有し,義務を負う旨の規定を新設しました(改正民法644条の2第2項)。
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(復受任者の選任等)
第644条の2 受任者は,委任者の許諾を得たとき,又はやむを得ない事由があるときでなければ,復受任者を選任することができない。
2 代理権を付与する委任において,受任者が代理権を有する復受任者を選任したときは,復受任者は,委任者に対して,その権限の範囲内において,受任者と同一の権利を有し,義務を負う。
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⑵ 報酬に関する規定の見直し

 現行民法では,委任が受任者の責めに帰することができない事由によって履行の中途で終了したときは,受任者は,既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができる旨の規定がありました(民法648条3項)。受任者の責めに帰する事由によって履行の中途で終了したときは,既にした履行の割合に応じて報酬を請求することはできませんでした。しかし,予定された委任事務の一部とはいえ,委任が終了するまでは受任者は現に委任事務を処理したのであるから,委任が終了した原因が受任者の帰責事由によるものであるかどうかにかかわらず,原則的な規律としては,受任者は既履行部分の割合に応じた報酬を請求することができるとすることが合理的であるとの指摘がありました。
 そこで,改正民法では,これらの指摘を踏まえ,受任者は,委任者の責めに帰することができない事由によって委任事務の履行をすることができなくなったとき,または,委任が履行の中途で終了したときは,既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができる旨の規定に改めました(改正民法648条3項)。これにより,受任者の責めに帰する事由によって履行の中途で終了したときは,既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができることとなりました。
なお,成果に対して報酬を支払うことが合意された場合については,新たな規定を新設しました(改正民法648条の2)。
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(受任者の報酬)
第648条 (略)
2 (略) 3 受任者は,次に掲げる場合には,既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができる。
① 委任者の責めに帰することができない事由によって委任事務の履行をすることができなくなったとき。
② 委任が履行の中途で終了したとき。
(成果等に対する報酬)
第648条の2 委任事務の履行により得られる成果に対して報酬を支払うことを約した場合において,その成果が引渡しを要するときは,報酬は,その成果の引渡しと同時に,支払わなければならない。
2 第634条の規定は,委任事務の履行により得られる成果に対して報酬を支払うことを約した場合について準用する。
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⑶ 委任の解除に伴う損害賠償に関する規定の見直し

 現行民法では,当事者の一方が相手方に不利な時期に委任の解除をしたときは,その当事者の一方 は,相手方の損害を賠償しなければならない旨のみを定めていました(民法651条2項)。判例は,委任契約が受任者の利益をも目的とする場合には,委任者は原則として民法651条に基づいて委任を解除することができないものの(大判大9.4.24),委任者が解除権を放棄したものとは解されない事情がある場合には委任を解除することができ,この場合,受任者は委任者に損害賠償を請求することができるとし(最判昭56.1.19),結論的には,委任の解除を広く認めています。

 そこで,改正民法は,判例の趣旨を踏まえ,委任が受任者の利益をも目的とする場合であっても原則として委任を解除することができるが,委任者が解除をしたときは,受任者の損害を賠償しなければならない旨の規定に改めました(改正民法651条2項2号)。
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(委任の解除)
第651条(略)
2 前項の規定により委任の解除をした者は,次に掲げる場合には,相手方の損害を賠償しなければならない。ただし,やむを得ない事由があったときは,この限りでない。
① 相手方に不利な時期に委任を解除したとき。
② 委任者が受任者の利益(専ら報酬を得ることによるものを除く。)をも目的とする
委任を解除したとき。
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27 弁済による代位に関する規定の見直し

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<主な改正点>
・ 弁済による代位の要件から債権者の承諾を削除しました。
・ 保証人の1人が他の保証人に対して債権者に代位する場合には,自己の権利に基づいて当該他の保証人に対して求償をすることができる範囲内に限り,することができる旨の規定を新設しました。
・ 債権の一部について代位弁済があったときは,代位者は,債権者の同意を得て,その弁済をした価額に応じて,債権者とともにその権利を行使することができる旨の規定を新設しました。この場合であっても,債権者は,単独でその権利を行使することができることとされました。
・ 債権者が行使する権利は,その債権の担保の目的となっている財産の売却代金その他の当該権利の行使によって得られる金銭について,代位者が行使する権利に優先する旨の規定を新設しました。
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⑴ 弁済による代位の要件(任意代位)

 現行民法では,債務者のために弁済をした者は,その弁済と同時に債権者の承諾を得なければ,債権者に代位することができない旨を規定しています(民法499条)。しかしながら,弁済を受領したにもかかわらず,代位のみを拒絶するということを認めるのは不当であるとの批判がなされていました。
 そこで,改正民法は,弁済による代位の要件から債権者の承諾を削除しました(改正民法499条)。
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(弁済による代位の要件)
第499条 債務者のために弁済をした者は,債権者に代位する。

第500条 第467条の規定は,前条の場合(弁済をするについて正当な利益を有する者が債権者に代位する場合を除く。)について準用する。
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⑵ 弁済による代位の効果

① 保証人間の代位
 現行民法では,複数の保証人の1人が弁済をした場合における保証人間の弁済による代位についての法律関係については規定がありません。

 そのため,複数の保証人のうちの一人が弁済をした場合には,その保証人は,債務者に対して有する求償権の範囲内で,他の保証人に対して債権者の有していた権利を行使することができると解する余地がありました(民法501条柱書前段)。しかし,弁済による代位は求償権の確保のための制度であることからすれば,保証人間における求償権の範囲を超えて保証人間で代位を認めるのは適切ではなく,一般的にも,他の保証人に対して求償可能な範囲内に限られると解されていました。そして,このような保証人相互間の関係に関するルールは,関係者間の先鋭な利害対立を調整するものとして重要であることから,できる限り条文上明確にすることが望ましいという指摘がありました。また,複数の保証人間の求償権については,取得する求償権の範囲については,原則として保証人の人数に応じて平等の割合で求償権を取得するとされており(民法465条),求償権の確保のための代位制度についても統一的に考えるべきです。
 そこで,改正民法では,保証人の1人が他の保証人に対して債権者に代位する場合には,自己の権利に基づいて当該他の保証人に対して求償をすることができる範囲内に限り,することができる旨の規定を新設しました(改正民法501条2項括弧書)。
② 法定代位者相互間の代位
 保証人は,第三取得者(債務者から担保の目的となっている財産を譲り受けた者をいう。以下同じ。)に代位し(改正民法501条1項),物上保証人は第三取得者に代位しますが(改正民法501条1項),第三取得者は,保証人および物上保証人に対して代位しません(改正民法501条3項1号)。
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(弁済による代位の効果)
第501条 前2条の規定により債権者に代位した者は,債権の効力及び担保としてその債権者が有していた一切の権利を行使することができる。
2 前項の規定による権利の行使は,債権者に代位した者が自己の権利に基づいて債務者に対して求償をすることができる範囲内(保証人の1人が他の保証人に対して債権者に代位する場合には,自己の権利に基づいて当該他の保証人に対して求償をすることができる範囲内)に限り,することができる。
3 第1項の場合には,前項の規定によるほか,次に掲げるところによる。
 ① 第三取得者(債務者から担保の目的となっている財産を譲り受けた者をいう。以下この項において同じ。)は,保証人及び物上保証人に対して債権者に代位しない。
 ② 第三取得者の1人は,各財産の価格に応じて,他の第三取得者に対して債権者に代位する。

 ③ 前号の規定は,物上保証人の1人が他の物上保証人に対して債権者に代位する場合について準用する。

 ④ 保証人と物上保証人との間においては,その数に応じて,債権者に代位する。ただし,物上保証人が数人あるときは,保証人の負担部分を除いた残額について,各財産の価格に応じて,債権者に代位する。
 ⑤ 第三取得者から担保の目的となっている財産を譲り受けた者は,第三取得者とみなして第1号及び第2号の規定を適用し,物上保証人から担保の目的となっている財産を譲り受けた者は,物上保証人とみなして第1号,第3号及び前号の規定を適用する。
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⑶ 一部弁済による代位

 現行民法は,債権の一部について代位弁済があったときは,代位者は,その弁済をした価額に応じて,債権者とともにその権利を行使する旨を定めています(民法502条1項)。しかし,権利行使の要件・効果のそれぞれについて,その規律内容をこの条文から読み取ることができないと指摘されています。一部弁済による代位があったときの権利行使の要件について,判例には,代位者が単独で抵当権を実行することができるとしたものがあります(大決昭6.4.7)。しかし,この判例の結論に対して,学説からは,代位者が単独で抵当権を実行できるとすると,本来の権利者である債権者が換価時期を選択する利益を奪われることになり,求償権の保護という代位制度の目的を逸脱して債権者に不利益を与えることになる等の強い批判がありました。
 そこで,改正民法は,このような批判を踏まえて,判例を改め,債権の一部について代位弁済があったときは,代位者は,債権者の同意を得て,その弁済をした価額に応じて,債権者とともにその権利を行使することができる旨の規定を新設しました(改正民法502条1項)。また,この場合であっても,債権者は,単独でその権利を行使することができる旨も定めています(改正民法502条2項)。これは,代位者による単独での抵当権の実行を認めないこととした上で,これを抵当権以外の権利行使にも一般化して明文化したものです。
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(一部弁済による代位)
第502条 債権の一部について代位弁済があったときは,代位者は,債権者の同意を得て,その弁済をした価額に応じて,債権者とともにその権利を行使することができる。
2 前項の場合であっても,債権者は,単独でその権利を行使することができる。
3・4(後述)
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⑷ 代位者と債権者の優劣関係

 一部弁済による代位があった場合における抵当権の実行による配当について,民法起草者は,債権者と代位者が平等に配当を受領することができると考えていたとされるが,近時の判例(最判60.5.23,最判昭62.4.23)は,弁済による代位は求償権を確保するための制度であり,そのために債権者が不利益を被ることを予定するものではなく,抵当権が実行された場合における配当について債権者の利益を害する理由がないとして,債権者が優先すると判断しました。しかし,条文(民法502条1項)の文言からは,この判例法理の結論を導くことが困難であると指摘されています。
 そこで,改正民法は,判例の趣旨を踏まえ,債権者が行使する権利は,その債権の担保の目的となっている財産の売却代金その他の当該権利の行使によって得られる金銭について,代位者が行使する権利に優先する旨の規定を新設しました(改正民法502条3項)。抵当権以外の権利行使にも一般化して明文化した点では,⑵と同様です。
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(一部弁済による代位)
第502条 1・2(前述)
3 前2項の場合に債権者が行使する権利は,その債権の担保の目的となっている財産の売却代金その他の当該権利の行使によって得られる金銭について,代位者が行使する権利に優先する。
4 第1項の場合において,債務の不履行による契約の解除は,債権者のみがすることができる。この場合においては,代位者に対し,その弁済をした価額及びその利息を償還しなければならない。
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(ご挨拶)
今回をもって,民法(債権法ほか)の改正についてのテーマを終了します。回数等の制約で,詰込み・駆け足となってしまい,誠に申し訳ありませんでした。心よりお詫び申し上げます。なお,小職の司法書士ブログ連載も3年を経過し,後続の先生にバトンタッチすることになりましたことをここにご報告し,長きにわたり駄文にお付き合いいただいた読者の皆様に深く御礼申し上げ,連載終了のご挨拶とさせていただきます。読者の皆様におかれましては,1日も早く合格されることを祈念しております。司法書士会の研修等でお会いできることを心待ちにしております。




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