【司法書士】現役司法書士 中山慶一のブログ~司法書士を楽しむ~
第1回「不思議な委任状」



 こんにちは。司法書士の中山慶一です。司法書士の仕事について、受験生の皆さんに少しでもイメージを持っていただこうと思い、司法書士の仕事の中で、いろいろと経験したことを秘密保持の義務(司法書士法第24条)に違反しないようアレンジしながら、受験生時代にはイメージできなかったこと等、思うまま書かせて頂こうと思います。司法書士の仕事ってホントに楽しいですよ!受験勉強の息抜きに読んで頂けたらと思います。講師らしく、ちょこちょこ、受験勉強に役立つかもしれない知識が入っているかも!?…です(笑)

 さて、皆さんが合格した後、事務所にご依頼に来られるのは、どのようなお客さんでしょうか?考えただけでもワクワクしますね!よく言われることですが、最初の依頼者のあるあるは、やっぱり抵当権抹消ではないでしょうか。

 住宅ローンの返済が終わり、皆さんの事務所に、「抵当権抹消の登記をして欲しい。」とご依頼に来られるわけです。

 抵当権抹消の登記は、基本的で、かつ、簡単な登記になりますが、「されど抵当権抹消の登記」です。話のネタに困らないほど、様々なドラマが生まれることでしょう。今日は、皆さんの事務所に過去から依頼者がやってくるかもしれない、という不思議な話をご紹介してみましょう。なお、この話はフィクションです。僕が受任した過去のご依頼とは関係ありません。また、記事を読みながらご自身で申請書を作成してみると、勉強になるかもしれません。紙とボールペンのご準備は大丈夫でしょうか?(笑)

 まず、抵当権抹消の登記の問い合わせがあった場合の必要な書類を確認しておきましょう。お客さんに皆さんの事務所までご持参いただく書類は、銀行から渡された①解除証書等の登記原因証明情報、②銀行の登記識別情報又は登記済証、③銀行からの委任状の3点だけです。あとは、事務所に来てもらってから、お客さんから司法書士である皆さんへの委任状にハンコを押してもらうため、認印が必要となります。お問い合わせがあった場合、住所の変更がないか、必ず確認しておきましょう。このあたりは、記述の試験問題と同じです。名変の検討は超重要です!多くのケースは、住宅ローンは前の住所で契約して、抵当権が設定された後、引越をして、住民票も動かしています。なので、住所の変更の登記が必要となるのが一般的だと思っておいた方がいいです。問い合わせの電話の段階で、「住所に変更はありませんか?」と一応質問するのですが、登記記録上の住所と現在の住所のことなど気にしたことがないお客さんは、ほぼ100%、「住所の変更はない」って返答されます。そりゃ~、20年も30年も同じ住所で住宅ローンを返済してきたわけですから、ずぅ~っと住所の変更はしていないと思うのが普通の感覚です。

 今はインターネットの登記情報提供サービスで登記記録が確認できますので、パソコンやスマホで、お客さんの言葉を鵜呑みにせず、登記記録上の住所を確認する必要があります。ちなみに、記述の試験問題は、「事実関係は全て真実に合致している」という注意事項が入るので、お客さんの言葉は鵜呑みにしましょう(笑)

 そして、よくあるのが古い書類を持って来られるお客さんです。20年、30年前にタンスにしまっていた抵当権抹消の書類が、今ごろになって出てきて、「忘れないうちに抵当権を抹消しておこう!」と、持って来られるわけです。金融機関の再編の動きは激しいので、書類を見た瞬間、「えっ、どこの銀行?合併した?商号変更?まさか、今もある銀行?」ってパニック状態になることが多い事案です(笑)

 例えば、お客さんが、皆さんの事務所に、平成12年の日付が書かれている東海銀行の解除証書、登記済証及び代表者からの委任状を持って来られたとしましょう。まず、「東海銀行って、今もある?」って焦りますよね(笑)そんなときは涼しい顔して、コッソリ登記情報提供サービスで調べてみましょう。なになに、東海銀行は、平成14年にユーエフジェイ銀行に合併し解散した後、そのユーエフジェイ銀行も平成18年に三菱東京UFJ銀行に合併し解散、そして、三菱東京UFJ銀行は平成30年に三菱UFJ銀行に商号変更しています。

 ここで、目の前のお客さんに「今は、三菱UFJ銀行ですね。」と言えればカッコイイです(笑)

では、お待たせ致しました。紙とボールペンのご準備はできましたか?申請書を作成してみましょう。

 ……… 作成中 ………

 答え合わせです(笑)

  申請人は誰でしょう?解除証書や委任状は、東海銀行のものですが、現在は、三菱UFJ銀行です。もちろん、20年前の書類であっても、すべて使えます。ただ、今は、東海銀行は消滅しているわけですから、登記義務者は、現在の三菱UFJ銀行で申請することになります。ここもよく、受験生の方の質問があるのですが、申請書には、申請する時点での、現在の住所、氏名、商号を書くことになります。ちなみに、三菱UFJ銀行の代表者の氏名について、誰を書いたらいいのか分からないときは、法務局に相談して下さい。きっと、「誰でもいい」と言われます(笑)なお、記述の試験では、「代表機関の資格及び氏名の記載を要しない。」とされることが多いですが、平成23年度本試験の記述のように「記載する」と指示が書かれることもあるので、見落とさないようにしましょう。

 三菱UFJ銀行の代表者の氏名を代表者の中から適当に選んで、東海銀行の解除証書(登記原因証明情報)と委任状を添付します。銀行からの委任状には、「司法書士 〇〇〇〇(皆さんの名前)に、下記登記申請に関する一切の権限を委任する。」と書かれるわけですが、依頼の日付は平成12年です。

 平成12年といえば、受験生の皆さんは、まだ司法書士ではないですよね(笑)

 でも、委任状は、平成12年の当時の東海銀行の代表者が皆さんに依頼していることになります。平成12年の代表者が、平成12年の日付で過去から皆さんに依頼するという、不思議な委任状で申請することになります。

 合格してすぐ、時代を超えてご依頼が来るかもしれません。楽しみですね。



<ブログ筆者の紹介>

中山 慶一なかやま よしかず (司法書士・Wセミナー専任講師)
プロフィール
フルタイムで働き、本試験直前まで仕事を続けながら合格。「基本を正確に、そして大切に」が合格への近道である、という自身の合格した経験をもとに、圧倒的な指導力で受講生を合格へと導く。「親身に、身近に、そして丁寧に」をモットーに講義を実施。
Wセミナーでは、今年から新たにスタートする「基礎総合コース」の他、中上級者対象の「上級総合本科生」、「上級本科生」等を担当している。


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