【司法書士】現役司法書士 中山慶一のブログ~司法書士を楽しむ~
第16回「不動産登記の申請で法人等の印鑑証明書の添付が不要になります…が、何も変わりません?」
こんにちは。司法書士の中山慶一です。
令和2年3月30日に、「不動産登記規則等の一部を改正する省令」が施行されました。このタイミングで、規則の改正、公布の日から施行って…(汗)司法書士受験生泣かせですよね。駆け込みで、試験範囲に入ってしまいました(苦笑)
ざっくり押さえておくべき点を確認すると、
まず、不動産登記の申請において、会社法人等番号を提供したときは、印鑑証明書の添付が不要となりました。
また、会社法人等番号を提供しない場合には、作成後「1か月以内」の登記事項証明書を添付する扱いになっていますが、これが作成後「3か月以内」に変更されました。というより、感覚的には、3か月に戻った、って感じですが…(笑)
実務的にも、業者が所有する不動産を個人のお客さんが買う場面が多いです。土地を不動産業者から買っても、そこには建築条件がついているケースも多く、要するに、「当社の土地を買うなら、建物は当社で建てることが前提だよ。」って場面です。
では、今から皆さんに、買主側からご依頼を受けたとして、決済(取引)の現場を体感してもらいましょう。売主さん側の抵当権の抹消や、買主さん側の抵当権の設定はなく、シンプルな現金決済で、土地の所有権の移転だけの現場です(ここでは建物の所有権の保存の登記も無視しておきましょう。笑)。
売主さんは業者ですから、業者が懇意にしている司法書士がやってきます。皆さんは、買主側の司法書士ですから、売主側の司法書士から売主側で準備した書類を受け取ることになります。
何を受け取りましょうか?(笑)
司法書士としては、サッと書類確認ができないとブサイクです。皆さん、忙しい中、集まっているので、「何の書類が必要だろう?」なんて、トロトロしていたら、冷ややかな視線を浴びてしまいます(汗)
おそらく、売主側の司法書士が渡してくるものは、①登記識別情報、②登記原因証明情報、③売主の業者から売主側の司法書士への委任状、④売主の業者の印鑑証明書、⑤固定資産評価証明書、⑥未失効証明、あたりでしょう。
あれ?知らない書類がありますか?
⑤の固定資産評価証明書は、模試や答練あたりだと、「不動産の買主の住所証明情報として提供できますか?」って出てくる場合がありますね。住所証明情報としては使えないので覚えておいて下さい。
⑥の未失効証明は、「登記識別情報は、売主さんに、ちゃんと通知されていますし、失効もしていませんよ。」と証明してくれるものです。
登記識別情報のパスワードが失効しているかは目で見ても分からないので、怖いですよね。そこで法務局に照会すると、「パスワードは生きていますよ。」と教えてくれるわけです。
あとは、よくご存じですよね。これだけの書類を売主側の司法書士から受け取って、皆さんは買主側の司法書士ですから、買主さんから委任状と、住所証明情報を受け取ると、お金のやり取りのGoサインを出すことになります。買主さんが住宅ローンを組んでいるときには、銀行にローンの実行の指示を出す、司法書士しては、1番目立つ瞬間です(笑)
あくまで主役は買主さんと売主さんですが、この瞬間だけは、取引現場の全員の視線を集める瞬間となります。
さぁ、練習です。声に出して言ってみましょう。皆さんは、売主側の司法書士から受け取った書類を確認した後、買主さんからも書類を受け取りました。では、いいですか?せーのっ!
「書類はそろっているので、実行(お金のやり取り)をして下さい。」
なかなか、ドキドキしますよね(笑)
あれ?また、話がズレてきています。印鑑証明書の話をするつもりでした。
まず、今回の規則改正前の話をします。
今回のケースでは、登記義務者となる売主たる業者の印鑑証明書を添付したわけですが、法務局によっては、法人の本店所在地と、今回申請する不動産の法務局の管轄が同じ場合には、法人の印鑑証明書の添付が省略できました。
法務局ごとで、取り扱いが異なるので、省略できるか知っておく必要があったわけですが、例えば、大阪では、北大阪支局、堺支局、東大阪支局は添付省略が可能で、大阪本局で省略ができないのはもちろん、天王寺、北、守口、枚方、池田の各出張所や、岸和田支局、富田林支局でも省略ができませんでした。
では、印鑑証明書が省略できる場合に売主側の司法書士から受け取る書類は何でしょうか?考えてみましょう。
………(考え中)………
先ほどの①~⑥のうち、変わるのは、④売主の業者の印鑑証明書です。
「そりゃそうだ!印鑑証明書が省略できるんだから、イラナイでしょ!」
と思った方は、ちょっと違います。
④は、「売主の業者の印鑑証明書のコピー」って感じです。
「コピー?何言ってんだ?原本でしょ?そもそも原本還付もできないし。」
と思った方は、またまた、ちょっと違います。
今回の場合には、印鑑証明書が省略できるわけですから、原本は不要です。しかし、原本がないと、③売主の業者から売主側の司法書士への委任状に押印している印鑑が法人の実印かどうかが、確認できません。
もし、売主側の司法書士がグルで、法人の実印がニセモノだったらどうします?買主さんは、お金を払ったのに、土地の所有権が取得できない大トラブルが発生しちゃいます。
つまり、③の委任状に押されている印影が実印であることの確認ができないと、困るわけです。そこで、結局、印鑑証明書での確認が必要となるわけですが、印鑑証明書もタダで発行されるわけではないので、確認のためだけに取得してもらうのももったいないです。そこで、実印で間違いないことを確認するために、「売主の業者の印鑑証明書のコピー」で確認しているわけです。
正直、かなり危なっかしいことをしていると思います。売主側の司法書士への信頼があって、はじめて成り立つようなレベルです。
よって、僕は、売主側の司法書士がいる場合には、必ず、決済の前日までに、書士会等のホームページで担当する司法書士の存在は確認しています。
ここからは、もっと危なっかしいことを書きます。
実際は、「売主の業者の印鑑証明書のコピー」もない場合が多いです。
理由はカンタン。売主側の司法書士が、「業者が懇意にしている司法書士」だからです。要するに、業者と司法書士が、仲がいいので、いつも代理している立場から、実印であることを分かっているケースが多いです。実際、取引の前日までに業者さんの営業所までハンコをもらいに行って、事前に準備することが多いです。
司法書士:
「社長!実印もらいたいんですけど…」
社長: 「おう!そこに置いてるから押しといて。」
極端なイメージだけで書けば、こんなイメージです。
売主側の司法書士の司法書士としては、やるべき本人確認はできていると思います。なので、当日の決済現場には、印鑑証明書のコピーが現場に持参されないケースも出てきます。でも、こちらは買主側の司法書士ですから、押されている印影が本当に実印か、不安になります。
この場合も、売主側の司法書士への信頼がすべてです。
現場では、このようなやり取りになるかもしれません。
皆さん:
「委任状の実印の照合をしたいので、印鑑証明書のコピーとかありますか?」
売主側の司法書士:
「すみません。持ってないです。でも、大丈夫です。実印であることは事前に確認済みなので。」
皆さん: 「(不安な声で…)分かりました。」
やはり、かなり危なっかしいですね。司法書士同士の信頼関係によるところが大きいです。法人が売主になる場合には、法人の印鑑証明書のコピーは持って行った方が、買主側の司法書士も安心できると思います。
では、ここで、本日の本題です。令和2年3月30日に施行された不動産登記規則の改正によって、どのように現場は変わるでしょうか?
個人には、何も変わりません(笑)
「えっ!?もう、印鑑証明書の添付は不要だろ!今度こそ、印鑑証明書はイラナイだろ!」
いやいや。結局、不要だろうと、省略だろうと、委任状に押された印鑑が実印かどうかの確認は必要となるわけで、法人の印鑑証明書のコピーは見ないと怖くてやってられません(笑)
添付不要と聞くと、楽になったような言葉に聞こえちゃいますが、かえって気を遣うことになりそうで、気が重くなります(汗)
不動産登記規則は改正されても、結局、何も変わってない…いや、もっと、メンドクサイ感じになった気もします。
実務上、申請書に書く場合には、
「印鑑証明書(会社法人等番号 0000-00-000000)」
って、「書く量、増えてるやないかいっ!」ってツッコミどころですね。
試験対策上は、今年の本試験でも影響を受けます。添付情報一覧から記号で選ぶ問題になっている場合には、住所証明情報として、権利者の会社法人等番号を選ぶのと同じように、印鑑証明書として、義務者となっている法人の会社法人等番号を選ぶことになると思われます。本試験の現場で焦らないように、事前に準備をしておきましょう。
☜第15回「賃貸借契約における保証契約~不安がぶっ飛ぶくらい勉強してみた。」はこちら
第17回「株式会社と合同会社のどちらをつくればいいですか?~過去問会社法H19-28を手元にご準備ください(笑)」はこちら☞
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フルタイムで働き、本試験直前まで仕事を続けながら合格。「基本を正確に、そして大切に」が合格への近道である、という自身の合格した経験をもとに、圧倒的な指導力で受講生を合格へと導く。「親身に、身近に、そして丁寧に」をモットーに講義を実施。
Wセミナーでは、今年から新たにスタートした「基礎総合コース」の他、中上級者対象の「上級総合本科生」、「上級本科生」等を担当している。
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