【司法書士】現役司法書士 中山慶一のブログ~司法書士を楽しむ~
第29回「ほかんガルーの話」



 こんにちは。司法書士の中山慶一です。

 本試験も終わったので、そろそろ「ほかんガルー」の話を書いてみようと思います。

 えっ?カンガルーがどうしたの?

 って、ことにはならないですよね(笑)

 皆さん、ご存知のキャラクター「遺言書ほかんガルー」の話です。

 令和2年7月10日から、自筆証書遺言書を法務局で保管する制度がスタートしています。

 僕自身、遺言書作成の依頼が来た際には、必ず、一つの選択肢として、保管制度の話をしているのですが、いまだにご依頼はゼロ件です(笑)

 遺言書作成のご依頼が来ても、なんだかんだで、結局、公正証書遺言書の作成依頼に落ち着いています。僕自身は、勉強も兼ねて、やってみたくて仕方がないのですが、ご希望がないことにはどうしようもないです(笑)

 実際、この「自筆証書遺言書保管制度」って、どのくらい利用されているのでしょうか?

 法務省のホームページには、「自筆証書遺言書制度の利用状況」が紹介されていますが、7月の保管申請の件数が2608件、8月の保管申請の件数が2362件、9月の保管申請の件数が1978件と、微妙な数字が出ています。

 遺言公正証書作成件数が年間11万件前後ですから、「自筆証書遺言書保管制度」は、思ったより利用されていないような気がします。

 通常の自筆証書遺言書の場合には検認の手続きが必要となりますが、年間の検認件数が1万7000件前後だと思うので、自筆証書遺言書の作成自体は少し増加しているのだとは思います。

 ただ、それにしても、保管の申請の件数が少ない感じがします。

 実際、どちらがいいか?と聞かれると、個人的には、「自筆証書遺言書保管制度」の方がいいと思っています。でも、結局、僕も相談を受けているうちに、公正証書遺言書になっているのが現状です(笑)

 保管の安心感で比べても、公証役場保管と法務局保管の場所の違いだけで、どちらも安心です。また、どちらのケースも検認の手続きが不要。保管期限も、「自筆証書遺言書保管制度」でも死後50年保管(データは150年)なので申し分ないですし、どちらも遺言書が預けられているか、確認するためのシステムがあるので、遺言書の検索も可能です。

 つまり、ほぼ同じレベルの安心感があります。

 もちろん、管轄が公正証書遺言書の場合には限定がないのに対して、「自筆証書遺言書保管制度」の場合には、①遺言者の住所地、②の本籍地、③遺言者の所有する不動産の所在地と限定されていたり、入院や施設に入っているようなケースでは公正証書遺言書の場合には公証人さんが出張してくれるので、使い勝手がいい面もありますが、このようなケースはレアだと思います。

 こうなると、結局はお金(費用)勝負になると思うのは僕だけですかね?(笑)

 司法書士に払う報酬を考えずに、単純に必要な費用だけで考えると、公正証書遺言書の場合には、公証人さんの手数料が5~6万円くらい(遺言の内容によって手数料は異なってきます)、証人2人を依頼するのであれば、別途、1人5000円くらいかかって、結局、最低でも6~7万円くらいかかるような気がします。

 ところが、「自筆証書遺言書保管制度」の場合には、手数料3900円ポッキリ(笑)断然、お得!しかも、事前に公証人さんとの打ち合わせの必要もなく、自分が作成した遺言書を予約して持って行くだけ。それでもって、公証役場での保管と同じ安心感。

 しかも、「自筆証書遺言書保管制度」の場合には、一定の場合に、その他の相続人等へ、遺言書を保管している旨の通知をしてくれる、公正証書遺言書の場合にはないサービスもついています(笑)

 それでも、この利用状況の低さ。遺言公正証書作成件数が、「自筆証書遺言書保管制度」の開始によって、どのように影響を受けているかは、今後判明していくと思いますが、やはり公証役場が利用されているではないでしょうか。

 確かに、司法書士のような専門職に相談せずに、遺言者が一人で書いた遺言書を保管するだけならば、法務局は遺言書の有効性を保証してくれるわけではなく、外形的な確認(全文、日付及氏名の自書、押印の有無等)しかしてくれないので、ふたをあけてみれば、自筆証書遺言書自体が使えない内容、あるいは内容が不明瞭になっている可能性もあります。そうなると、遺言書を保管したのはいいけど、結局、相続人の間でモメる原因になる可能性があります。

 つまり、「遺言書の有効性」という視点からみると、公証役場で遺言書を作成する方が安心で、「自筆証書遺言書保管制度」のデメリットなんでしょうが、司法書士のような専門職が遺言書の作成のアドバイスに関与しているのであれば、遺留分の話も含めて、後々、争いを生じさせるような遺言書にならないように配慮するはずですから、後は、保管の手数料が安い法務局での保管でいいような気もするのですが…(笑)

 ただ、実際、自筆証書遺言書となると、司法書士のような専門職に相談すること自体が少ないと思います。つまり、自筆証書遺言書制度の利用状況の少なさは、遺言書の作成は、やはり司法書士のような専門職に依頼して、紛争性のない遺言書として公証役場で保管することが期待されていることのあらわれかもしれません。

 僕が実務の現場で相談を受けていて、「自筆証書遺言書保管制度」のデメリットを感じるのは、公正証書遺言書の場合には本人確認として印鑑証明書を提出することが多いと思いますが、「自筆証書遺言書保管制度」の場合には、本人出頭主義の要請から、なりすまし防止のため、顔写真付きの身分証明書の提示が必要となります。運転免許証等がない場合には、別途、マイナンバーカード等を取得する必要が出てくるのが、メンドクサイ感じがするくらいです。

 先日、講義の中で、この「自筆証書遺言書保管制度」の概要を少し説明したのですが、受講生さんは、遺言者本人が遺言書の閲覧をするのに手数料がかかる部分に食いついていました(笑)

 なるほど、自分が書いた遺言を見るのに、モニターによる閲覧なら1400円、遺言書の原本の閲覧は1700円は高いのかもしれません。

 保管の申請の手続きが終了すると、保管証が発行されますが、保管証には、遺言者の氏名、出生の年月日、遺言書保管所の名称及び保管番号が記載されているだけで、遺言書の内容は記載されません。

 自分が書いた遺言書の内容を忘れないように、写し等をとっておいて、自宅や信頼できる人に預けておくことが必要かもしれません。

 ちなみに、保管証は再発行できないらしいので、注意が必要です。

 個人的に、大丈夫かな~と心配しているのが、「保管の申請の撤回」の部分。遺言者が預けた遺言書を返してもらう手続きですが、中には、法務局から返してもらったら遺言書自体が撤回されたと思って安心する方が出てくるような気がします。

 おそらく法務局も、保管している遺言書を返還する場合には、遺言の効力に影響がないことを説明するとは思いますが、どこまで伝わるやら…ですね。


 不動産登記を本人申請された一般の方が、法務局の窓口で、登記識別情報通知の目隠しをはがさないで下さいね~と説明を受けて受け取った傍から、すぐにベリベリとめくっている方がいますから…(笑)意外と説明って伝わらないかもしれません。

 まだスタートして3か月ほどの制度なので、皆さん様子見の部分があると思います。僕も、遺言書の作成のご依頼を受けたときには、なんとか、自筆証書遺言書保管制度の利用に持って行けるようトークを磨いて…あっ、違いました…依頼者さんに、それぞれのメリット、デメリットをしっかり説明して、納得のいく遺言書を作成できるようお手伝いしたいと思います。


 

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<ブログ筆者の紹介>

中山 慶一なかやま よしかず (司法書士・Wセミナー専任講師)
プロフィール
フルタイムで働き、本試験直前まで仕事を続けながら合格。「基本を正確に、そして大切に」が合格への近道である、という自身の合格した経験をもとに、圧倒的な指導力で受講生を合格へと導く。「親身に、身近に、そして丁寧に」をモットーに講義を実施。
Wセミナーでは、初学者対象の「基礎総合コース」、中上級者対象の「上級総合本科生」、「上級本科生」等を担当している。