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並行輸入品売買でのトラブル(前編)

弁理士編①

Q.問題

私(乙)は海外で良品を安く購入し日本で販売している輸入業者です。
先日、フランスで画期的な美白効果がある美容液(「P美容液」)を見つけたので、その特許権を日本にもフランスにも持っている甲さんから直接安く購入し、日本でネット販売していました。売上げは好調でネットのヒット商品売上げランキング1位になりました。

一方、私のせいで甲さんのP美容液の売り上げが激減したらしく、なんと500万円の損害賠償請求されてしまいました。

私は甲さんから直接「P美容液」を購入し販売しただけなのに、損害賠償額500万円を払う羽目になるのでしょうか?

今回の回答者

齋藤 晶子(さいとう あきこ)

大学院修士課程終了後、製菓会社の研究所で商品開発に従事。
その後、知財に興味を持ち、特許事務所に転職。2012年弁理士試験合格。
2013年弁理士登録。同年よりTAC弁理士講座専任講師として教壇に立つ。

A.回答

皆様、こんにちは。TAC弁理士講座担当の齋藤晶子です。どうぞよろしくお願いします。
今回の乙さんのお悩みは「真正商品の並行輸入」についての案件です。
この事案では、以下の2つのことが問題になります。

【事案の分析】
  • 「P美容液」は甲から直接譲渡された「真正商品」であるのに乙の行為は甲の特許権侵害となるのか?
  • 真正商品の譲渡が海外でやり取りされているが、これは日本国内でのやり取りと同様に考えてもいいのか?

では、詳細をみていきましょう。

1.「並行輸入」って通常の「輸入」と何が違うの?

通常の「輸入」は正規の代理店を通しています。一方、乙さんは正規の代理店ではないので、乙さんのP美容液の購入はたとえ甲さんから購入した真正商品であったとしても「並行輸入」となります。

2.真正商品ってそもそも何?

「真正商品」とは、「ブランドを有するメーカーの意思で市場に流通させている商品」です。
本件では特許権者甲の意思で市場に流通され、直接乙が甲から購入している「P美容液」は、「海賊商品」ではなく、「真正商品」ですね。

3.甲さんみたいに「特許権者」になるとどんな権利を持つことができるの?

特許法68条では以下のように規定しています。

  • 「業として特許発明の実施をする権利を専有する。」

つまり、甲さんだけが「特許発明」にかかる特許製品「P美容液」を、「実施」つまり、乙さんなどに譲渡したりできる。ということになっています。「専有する」なので、甲さん以外の人が「P美容液」を生産したり、譲渡、つまり売ったりすることは許されません。

だから、甲さん以外の人が「P美容液」を売ったりすることは禁止です。そして、これを「特許権侵害」といいます。
そうすると、乙さんは特許権者でもないのに、「P美容液」をネット販売、つまり「実施」してしまったので、この点だけを見てしまうと乙さんの行為は「特許権侵害」となってしまいますね。

4.損害賠償請求は、どんなことやったら請求されてしまうの?

民法709条では以下のように規定しています。

  • 「損害賠償請求権とは、故意、過失に基づく侵害により生じた損害の賠償を侵害者に対し請求し得る権利」

だから、乙さんが特許権侵害をしてしまうと、乙さんの行為が「故意、過失に基づく」ものであれば甲さんの減少した売上げについて損害賠償しなくてはいけなくなってしまいます。

ここまで考えると、乙さんはやっぱり、500万円を甲さんに払うことになる可能性が高い気がしますよね?

え?いえいえ。ちょっと待ってください。
そもそも、これって、特許権者の甲さんから、購入したわけですよね。盗んだわけでもないですよ。乙さんがちょっと気の毒な気がしません?
実は、このような並行輸入の案件での損害賠償金の支払いに関しては、甲さんから乙さんに「P美容液」を譲渡するときの取引の仕方がポイントとなります。

5.甲さんと乙さんとのやり取りがもし日本国内 であった場合はどうなっていたの?

そうです。ここ。すごく大事です。
日本国内であっても、原則、特許権者でもない乙さんが特許製品「P美容液」をネット販売したら、甲さんの特許権侵害です。
しかしながら、判例(最高裁平成9年7月1日判決「BBS事件」)で以下の解釈をとっています。

  • 「特許権者又は実施権者がわが国の国内において特許製品を譲渡した場合には、当該特許製品については特許権はその目的を達成したものとして消尽し、もはや特許権の効力は、当該特許製品を使用し、譲渡し又は貸し渡す行為等(2条3項)には及ばないものと解する。」

理由は、

  • 「① 特許製品について譲渡等を行う都度特許権者の許諾を要するということになれば、市場における商品の自由な流通が阻害される。
  • ② 特許権者が流通過程において二重に利得を得ることを認める必要性は存在しないからである。」

つまり、
特許権者から乙へ特許製品の特許製品「P美容液」を譲渡されると、甲の特許権は消尽してしまい、その後乙が「P美容液」等を譲渡しても、甲の特許権の効力が及ばないので乙の行為は特許権侵害となりません。

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