知っ得!身近な法律Q&A
カフェTACの事件簿(後編)
弁理士編②
A.回答の続き
5.商標法上の「使用」って何?
これも、商25条により、甲さんは指定商品等について登録商標を「使用」できるってあって、「使用」もそもそもボンヤリした言葉でイメージつきにくいですよね。
商標法では
- 『使用』とは、商品又は役務との関係で商標としての機能を発揮させる行為
としています。
また、
- 『商標としての機能』とは、自他商品等識別機能、出所表示機能等
を言います。
「自他商品等識別機能」というのは、自分の商品等と他人の商品等を区別する機能です。
「出所表示機能」とは、例えば、これは「カフェTAC」の商品であること、つまり、その商品がどこの人が作って販売したかを表示する機能です。
具体的には商標法2条3項各号に規定されているものです。
商標法2条3項各号には、商品についての使用は例えば、
- お菓子やお菓子の包装に「TAC」などのマークをつける(商2条3項1号)
- 「TAC」などのマークをつけたお菓子を販売する(同2号)
などと規定しています。
役務についての使用は、イメージしにくいですね。だって、要はサービスなので、形のないものでしょ?そんなものに標章を付すって、どうするわけ?そんなのできるの?って、思ってしまいますよね。
だから、商2条3項3号から7号には、役務についての使用は例えば、
- レストランで食事を提供するという役務であれば、そのレストランで使うお皿に標章を付すこと(商2条3項3号)。
- さらに、レストランで使うお皿に標章を付して、レストランで食事を提供すること(同4号)。
などと規定しています。
さらに、広告的な使用というのもありますよ。
これは、商品の使用、役務の使用、双方にあります。
例えば、
資格試験の試験会場で、「TAC」という標章を付して「ウエットティッシュ」を配布することなど(商2条3項8号)。です。 これは、「国家資格取得講座における教授その他の各種資格取得講座における教授」という役務との関係で、「ウエットティッシュ」という広告媒体に「TAC」という標章を付して頒布しています。
しかしながら、「ウエットティッシュ」という商品との関係で、他社の商品と識別するための「自他商品等識別機能」や「TAC」のウエットティッシュであることをいう「出所表示機能」を発揮させる行為ではありません。
つまり、「使用」という定義で「商品又は役務との関係で」というところが実は地味にポイントで、商品「ウエットティッシュ」でなく、「国家資格取得講座における教授その他の各種資格取得講座における教授」という役務との関係で、同業他社と識別し、「TAC株式会社」という出所を表示する機能を発揮させる行為なので、役務の広告的使用なんですよ。
6.では、どんなことをしたら商標権侵害?
はい。以下のように定義されています。
- 商標権侵害とは、正当な理由又は権原なき第三者が指定商品等について、登録商標又はこれに類似する商標を使用すること(商25条、37条1号)
「正当な理由又は権原」とは、例えば、商標権者からライセンス契約をされていて堂々と使用する権利があることなどです。
よって、「正当な理由又は権原」がある人なら、指定商品等について登録商標を使用していても商標権侵害者にはなりません。
7.乙さんが「TAC」というマークをクッキーの包装に付して無料で配布することは、何についての使用なの?
そうです。商標権侵害をいうのはこの点がポイントとなります。ここで、また「使用」の定義が登場します。
乙さんの使用はまさに、「飲食物の提供」という「役務」についての広告的使用(商2条3項8号)なんです。
つまり、乙さんは「クッキー」という商品を他のお店ものと識別するため、または、「カフェTACのクッキーです」として、「自他商品等識別機能」や「出所表示機能」を発揮するために「TAC」という標章を使用したわけではありません。
「使用」の定義の「商品又は役務との関係で」というところで、カフェTACの「飲食物の提供」という役務との関係で、他のカフェと識別し、「カフェTACでの飲食物の提供です」と表示して、「自他商品等識別機能」や「出所表示機能」を発揮させるために「TAC」という標章を使用したのです。
8.乙さんは結局、いきなり営業停止で、損害賠償金の支払い?だったけど、大丈夫かな?
そうですよね。心配になりますよね。開店早々営業停止とか、まだ商売もそこそこなのに損害賠償金の支払いとか…
甲さんは、指定商品「クッキー」について、商標「TAC」という商標権を有しています。
指定商品「クッキー」について、商標「TAC」を使用していたら、乙さんは甲さんとライセンス契約等があるわけでもない赤の他人ですので、甲さんの商標権侵害者となってしまいます。
そうすると、甲さんは商標権侵害として(商25条)、乙さんに差止め請求(商36条)もでき、損害賠償請求(民709条)もできます。
でも、乙さんはカフェTACの「飲食物の提供」という役務について商標「TAC」を使用しているので、「クッキー」と「飲食物の提供」とでは「商品又は役務」が異なります。その商品「クッキー」との関係で商標としての機能を発揮させる行為なんてしていませんよ。
さらにいうと、乙さんが無償で配布するクッキーなどは「いわゆるノベルティ商品」といわれるもので、商標法上の商品ではありません。
商標法上の商品っていうのは、その商品について対価が支払われるものでしたよね。
乙さんがクッキーを配布して、お客さんは「クッキー」についてお金を支払うわけではありませんよね。
配ってもらったクッキーがおいしかったから、「カフェTAC」に行ってみようと思い、カフェで食事をして、その「飲食物の提供」というサービスに対してお金を払っています。
- 『クッキー』それ自体が独立の商取引の目的たる商品ではなく、役務たる『飲食物の提供』の単なる広告媒体にすぎない(大阪地裁昭和62年8月26日判決『BOSS事件』)
よって、結論としては、乙さんは甲さんの商標権侵害をしていないので、
営業停止も損害賠償金の支払いも免れますよ。