知っ得!身近な法律Q&A

著作権について教えてください。(前編)

ビジ法・知財編①

Q.問題

弊社(X社)では、Aが唄っている「α」という楽曲を弊社のホームページのBGMとして使用しています。その際、弊社の宣伝も兼ねて、歌詞の一部をXに変更して使用しています。「α」は、モーツァルトが作曲した曲にBが歌詞を付けたもので、それをAが歌唱したものをY社がCD化して販売しているものです。この度、弊社内で「α」を弊社のホームページに使用することは、著作権侵害になるという話になり、使用から3か月経ったところで、サーバーから「α」のデータを削除し使用を中止しました。また、弊社の取締役の一人であるZは、個人的に「α」を気に入っており、自身で購入した「α」のCDを、自宅のパソコンに取り込み、コピーした上で、自宅や自家用車内で聴いています。

この場合、誰から、どのようなことを請求される可能性があるでしょうか。

今回の回答者

田畑 博史(たばた ひろし)

2003年よりWセミナー、TAC専任講師として、司法試験、公認会計士試験、不動産鑑定士試験、弁理士試験等の講義を担当。
ビジ法2級、知財検定2級をほぼ満点で合格した経験を活かして、現在、ビジ法試験講座、知財検定講座の講義も担当している。

A.回答

この問題を考えるにあたっては、以下のことを検討する必要があります。
1.「α」について、誰がどのような権利を有しているのか。
2.その権利の内容はどのようなものなのか。
3.権利を侵害した場合に、どのような救済が図られるか。

1.「α」について発生する権利関係

楽曲である「α」について発生する権利として、まず思いつくのは著作権です。著作権は著作物について発生する権利で、楽曲は、音楽の著作物として、著作権法10条1項2号により著作物とされますから、著作権の対象となります。そして、この著作権は、何ら手続きを要することなく、著作物の創作と同時に発生し(無方式主義、著作権法17条2項)、「α」の作詞をしたB、作曲をしたモーツァルトには、著作者として、それぞれ著作権が発生しています。このように、一つの楽曲であっても、歌詞と曲は分離利用が可能ですから、作詞した者と作曲をした者とには別々に著作権が発生します。このような著作物を結合著作物といいます。もっとも、著作権は、一旦発生すると永久に存続するものではなく、著作者が死亡した翌年の1月1日から50年経過したところで消滅します(著作権法51、57条)。したがって、作曲したモーツァルトの著作権は消滅しています。

次に、「α」を歌唱しているのはAです。このAは、著作者ではありませんが、著作権法上、実演家として著作隣接権という権利が認められています。
さらに、「α」をCD化して販売しているY社にも、レコード製作者として著作隣接権が認められます。
このような実演家やレコード製作者は、著作物を創作した者ではありませんが、どんなに良い作品であっても、世の中に登場し、それが伝えられて行かなければ衰退します。そこで、著作権法は、著作物を世に出し伝えることに一役買った者にも一定の権利を認めることにしているのです(著作権法89条)。

  • (1)作詞家Bの著作権
  • (2)実演家Aの著作隣接権
  • (3)レコード製作者Y社の著作隣接権

2.権利内容

では、次に、これらの権利内容を考えましょう。

まず、著作権には、著作者の財産的側面を保護する著作財産権と精神的側面を保護する著作者人格権があります。

著作財産権とは、複製権を中心としていくつかの権利(例えば、演奏権、公衆送信権、譲渡権など)が束となって、その内容を形成しています。ここでいう複製権(著作権法21条)とは、いわばコピーすることだと思ってください。公衆送信権(著作権法23条)とは、テレビ、ラジオ、インターネット等で送信することです。この公衆送信権には、インターネットのサーバーにアップロードする送信可能化も含まれます。したがって、音楽の著作物の場合、無断で録音すると複製権を侵害しますし、無断で演奏したり録音されたものを再生すれば、演奏権を侵害します。また、無断で自社のホームページのサーバーにアップロードすれば、仮にまだ誰もそのホームページを閲覧していなかったとしても、公衆送信権を侵害します。

著作者人格権は、①公表権(著作権法18条)、②氏名表示権(同法19条)、③同一性保持権(同法20条)がその内容となります。したがって、①著作物を公表するかどうか、公表するとすれば、それはいつ、どんな方法で行うかを著作者が決めることができます。また、②作品に著作者名を表示するかしないか、表示するとすればどのような表示にするかも決めることができます。さらに、③著作物に望まない変更が加えられないことも権利として認められています。そして、この著作者人格権の特徴は、著作者の死亡により消滅し、相続の対象にはならないことにあります。このような権利を一身専属権といって、簡単に言うと、その人限りの権利ということです。したがって、他人に譲渡することもできません。

次に、実演家に認められる著作隣接権にも、財産的側面である著作隣接権があります。この内容には、録音権(著作権法91条)がありますので、無断で録音することや録音したレコード等をコピーすると、この権利を侵害します。これに加えて、実演家には実演家人格権があります。ただし、この実演家が有する人格権には、著作者人格権にあった①の権利内容はありません。したがって、②氏名表示権と③同一性保持権のみということになります(同法90条の2、3)。

他方で著作隣接権が発生しているレコード制作者Y社の権利内容は、同じ著作隣接権であっても、実演家に認められる人格権はなく、あくまで財産的な側面のみになります。したがって、著作財産権の内容と同様に複製権(著作権法96条)や送信可能化権(同法96条の2)がその内容となります。

  • (1)Bの有する権利:複製権、公衆送信権、同一性保持権
  • (2)Aの有する権利:録音権、送信可能化権、同一性保持権
  • (3)Y社の有する権利:複製権、送信可能化権

後編では、どのような権利侵害が考えられるか検討していきましょう。

後編を読む