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著作権について教えてください。(後編)

ビジ法・知財編①

3.権利侵害

前編で、各人の有する権利とその内容が出揃いました。
ここで、Q相談内容のX社が無断で「α」をホームページで使用した行為は、A、B、Y社の権利を侵害することがわかります。具体的には、公衆送信権、送信可能化権を侵害することになります。また、歌詞の内容を変更して使用したことについて、A、Bの人格権(同一性保持権)を侵害することになります。

さらに、X社の取締役Zが購入したCDのコピーを作成することも権利侵害となります。具体的には、録音権、複製権を侵害することになります。もっとも、権利侵害に当たりそうな行為であっても、例外的に権利侵害にならない場合があります。その一つが私的使用のための複製です(著作権法30条1項)。これは、個人的または家庭内のような限られた範囲で使用することを目的に複製する場合には、例外的に著作権が制限されるというものです。よって、Zが自宅や自家用車内で聴く目的で購入したCDをコピーすることは権利侵害とはならないことになります。ただし、デジタル方式での録音の場合、原物と寸分変わらない状態で大量に録音出来てしまうため、相当な額の補償金を支払うことになっています(同法同条2項)。この点、通常、音楽録音用CD-R等の場合、その販売価格に補償金が上乗せされています。

このような著作権等の侵害があった場合には、権利者にいくつかの救済手段が認められます。それは、以下の5つです。

  • ①差止請求(著作権法112条)
  • ②損害賠償請求(民法709条)
  • ③不当利得返還請求(民法703、704条)
  • ④名誉回復措置請求(著作権法115条)
  • ⑤刑事罰(著作権法119条)

①の差止請求とは、侵害行為の停止・予防を請求することです。したがって、A、B、Y社は、X社に対して、ホームページで「α」を使用しないよう請求することができますが、X社は既にサーバーから「α」を削除し、その使用をやめていますので、この請求をされることはないでしょう。

②の損害賠償請求とは、原則として、権利侵害をお金に換算して、その賠償を求めることです。したがって、A、B、Y社に「α」の無断利用による財産的損害があった場合はもちろん、無断利用されたことや無断改変されたことによる精神的な苦痛があれば、それもお金に換算して請求することができます。そして、この請求は、X社が「α」の無断利用をやめた後であっても、過去の侵害行為に対して請求することが可能ですから、既にサーバーから削除し、「α」の使用をやめている状態であっても、請求される可能性があります。ただし、この損害賠償請求の根拠は、民法709条の不法行為責任であるため、被害者であるA、B、Y社の側で、X社の故意・過失を証明できないと認められません。

③不当利得返還請求とは、他人の財産等により法的に認められない利益を得た場合に、これによって損失を受けた者が、利益の返還を求めることです。したがって、「α」を無断で自社のホームページで使用することで、X社が利益を受け、その結果、A、B、Y社に損失を与えたのであれば、この請求を受ける可能性があります。

④損害賠償請求は、原則として、金銭で賠償してもらうことになりますが、著作権等が侵害され、名誉を毀損された場合には、お金で賠償してもらうよりも適切な方法がある場合もあります。例えば、X社に謝罪広告を掲載させることです。したがって、「α」の無断使用や無断改変により、A、B、Y社の名誉が毀損された場合には、X社は新聞やホームページ等に謝罪広告を掲載することを求められる可能性があります。

⑤ここまで検討した請求内容は、すべて民事上の請求です。これに加えて、著作権等の侵害には、刑事罰も規定されていますから、悪質な場合には、懲役刑や罰金刑などの刑事罰が科せられるおそれもあります。この刑事罰は、実際に著作権等を侵害する行為を行った従業員に加えて、その者を使用する会社にも科せられる可能性があります。もっとも、刑事罰の対象となるのは、故意による著作権等の侵害に限られますから、X社やその従業員が、著作権等を侵害することを認識・認容(知っていて、なおかつそれでも構わないと思っていること)していた場合でなければ、刑事罰が科せられることはないです。

このように、他人の著作権等を侵害してしまうと、企業は金銭的な負担を強いられるだけでなく、そのことが報道等で取り上げられたり、謝罪広告の掲載を強制されたり、刑事罰を科せられることにより、計り知れないイメージダウンにつながります。このようなリスクを避けるために、企業の一員であるビジネスパーソンは法令の知識を得ておく必要があるのです。また、法令違反のない適切な行動をとれば、企業の社会的な信用も生まれます。したがって、ビジネスパーソン一人ひとりが法令を知り、それを遵守する行動をとることが重要なのです。これをコンプライアンスと言います。

このコンプライアンスを徹底するためにも、まず身近なところから、ビジネス実務法務検定試験®や知的財産管理技能検定®の勉強を始めてみてはいかがでしょうか。

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