知っ得!身近な法律Q&A
マタニティ・ハラスメントについて
教えてください(前編)
社会保険労務士編②
Q.問題
夫と共働きで、一般企業で働く私。今の仕事にも慣れてきて、最近ようやくみんなのお役に立てるようになってきたと思っていたら、なんと待望の妊娠が発覚!ずっと子どもが欲しかったから、とっても嬉しくて。
早速、部長に報告して今後のことを相談したら、「そんな、この忙しい時に困るよ…。なんでもっと別の時期にしてくれなかったの?代わりの人を急いで採用するから、君は…ね。わかるよね。」って。とっても悲しい気持ちになりました。私は会社にとって迷惑なのでしょうか。

今回の回答者

能登 伸一(のと しんいち)
特定社会保険労務士。TAC社会保険労務士講座専任講師。大学卒業後は介護福祉士として老人介護の最前線で活躍したものの、激務に腰を痛めて道半ばで挫折。その後、民間企業のサラリーマン時代に社会保険労務士の資格を取得し、後に独立開業。現在は介護の現場経験を生かして、介護業界における労務管理のプロフェッショナルとしてセミナー・執筆活動を積極的に行う。
A.回答
さすがに今でこそ、こんな対応をする上司は減りましたが、ほんのひと昔前までは、当たり前のように行われていた内容です。いまでも、「社内で結婚したら女性が退職しなければならない」、「女性が部署を異動しなければならない」などを平気でルールにしている前近代的な会社が存在しています。
今回のケースの部長の発言は、明らかに「ハラスメント」です。そもそも妊娠・出産する女性に対して、法律ではどのように規定されているのか、また会社はこうしたハラスメントを発生させないために、どんな取り組みをしなければならないのか、一緒に確認していきましょう。
- 【確認ポイント】
-
- そもそも妊娠・出産・育児に関する休業等の制度は法律でどうなっているのか
- 会社が防止しなければならない「マタニティ・ハラスメント」とは何か
■ 妊娠・出産・育児に関する休業等の制度は法律ではどうなっているか
妊娠・出産・育児に関する休業等の制度は数も多く、忘れてしまいがち。よく知らずに会社が誤った対応をすることで、思わぬトラブルに発展するケースが後を絶ちません。雇用主として知っておきたい各種制度を、時期別に確認していきましょう。
妊娠
① 保健指導又は健康診査を受けるための時間の確保など
会社は、女性労働者が妊産婦のための保健指導又は健康診査を受診するために必要な時間を確保することができるようにしなければなりません。また、女性労働者が、健康診査等を受け、医師等から指導を受けた場合は、その女性労働者が受けた指導を守ることができるようにするために、会社は勤務時間の変更、勤務の軽減等必要な措置を講じなければなりません。医師等の指導事項を会社に正確に伝えることができるよう「母性健康管理指導事項連絡カード」(厚生労働省HPからダウンロード)を活用するとスムーズです。
② 時間外労働、休日労働、深夜業などの制限と業務内容の変更
妊娠中の女性は、時間外労働、休日労働、深夜業の免除を会社に請求することができます。変形労働時間制がとられる場合にも、1日及び1週間の法定労働時間を超えて労働しないことを請求できます。また、妊娠中は現在の仕事よりも軽い業務へ転換するよう請求ができます。ただし、会社は他の軽い業務を新たに作ってまで提供する義務はありません。
出産・産後期
産前・産後休業の取得
- 〔産前休業〕
- 出産予定日の6週間前(双子以上の場合は14週間前)から、請求すれば取得できます。なお、必ずしも産前休業を取得する必要はなく、そのまま就業することもできます。
- 〔産後休業〕
- 出産の翌日から8週間は、働くことができません(就業禁止)。ただし、産後6週間を経過した後に本人が請求し、医師が認めたときは就業することができます。
育児期
① 育児休業の取得と延長
1歳に満たない子を養育する労働者は、男女を問わず、希望する期間だけ、子どもを養育するための休業をすることができます。また、子どもが1歳以降、保育所に入れずに待機児童になるなどの一定要件に該当する場合は、子どもが1歳6か月になるまでの間、育児休業を延長することができます。
② パパ・ママ育休プラス(1歳2か月までの育児休業)
父母ともに育児休業を取得する場合は休業ができる期間が延長され、子どもが1歳2か月になるまでの間に父母それぞれが1年間まで育児休業を取得できます(ただし、母の場合は出生日、産後休業期間と育児休業期間をあわせて1年間)。
復職期
① 短時間勤務制度
会社は、一定の条件を満たす3歳未満の子を養育する男女労働者について、短時間勤務制度(1日原則として6時間)を設けなければなりません。短縮された分の賃金は無給でもよく、具体的な取り扱いは「就業規則」や「育児・介護休業等規定」に定めます。
② 残業(所定外労働)の制限
会社は、一定の条件を満たす3歳未満の子を養育する男女労働者から請求があった場合は、残業(所定外労働)をさせてはなりません。
③ 子の看護休暇
小学校入学前の子を養育する労働者は、会社に申し出ることにより、有給休暇とは別に1年につき子どもが1人なら5日まで、子どもが2人以上なら10日まで、病気やけがをした子どもの看護、予防接種及び健康診断のための休暇を取得することができます(有給か無給かは会社の定めによります)。
④ 時間外労働・深夜業の制限
小学校入学前の子を養育する一定の労働者から請求があった場合は、1か月24時間、1年150時間を超える時間外労働をさせてはなりません。また同様に請求があった場合は、深夜(午後10時から午前5時まで)の時間帯に労働させてはなりません。
では次にマタニティ・ハラスメントについて、具体的に見てみましょう。