知っ得!身近な法律Q&A
マタニティ・ハラスメントについて
教えてください(後編)
社会保険労務士編②
A.回答の続き
■ マタニティ・ハラスメントと防止措置
平成29年1月1日から、会社は男女雇用機会均等法及び育児・介護休業法により、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントについて、防止措置を講じることが義務付けられました。
- 〔ハラスメントの具体的な内容〕
- 職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントには「制度等の利用への嫌がらせ型」と「状態への嫌がらせ型」があります。
制度等利用への嫌がらせ型
- 解雇その他不利益な取扱いを示唆するもの
- 産前休業の取得を上司に相談したところ、「休みをとるなら辞めてもらう」と言われた。
- 時間外労働の免除について上司に相談したところ、「次の査定の際は昇進しないと思え」と言われた。
- 制度等の利用の請求等又は制度等の利用を阻害するもの
- 育児休業の取得について上司に相談したところ、「男のくせに育児休業をとるなんてあり得ない」と言われ、取得をあきらめざるを得ない状況になっている。
- 介護休業について請求する旨を周囲に伝えたところ、同僚から「自分なら請求しない。あなたもそうすべき」と言われた。「でも自分は請求したい」と再度伝えたが、再度同様の発言をされ、取得をあきらめざるを得ない状況に追い込まれた。
- 制度等を利用したことにより嫌がらせ等をするもの
- 上司・同僚が「所定外労働の制限をしている人に大した仕事はさせられない」と繰り返し又は継続的に言い、専ら雑務のみさせられる状況となっており、就業する上で看過できない程度の支障が生じている。
- 上司・同僚が「自分だけ短時間勤務をしているなんて周りを考えていない。迷惑だ。」と繰り返し又は継続的に言い、就業をする上で看過できない程度の支障が生じる状況となっている。
- 〔ハラスメントには該当しない業務上の必要性に基づく言動の具体例〕
-
- 業務体制を見直すため、上司が育児休業をいつからいつまで取得するのか確認すること。
- 状況を考えて、上司が「次の妊婦検診はこの日は避けてほしいが調整できるか」と確認すること。
- 同僚が自分の休暇との調整をする目的で休業の期間を尋ね、変更を相談すること。
※制度等の利用を希望する労働者に対する変更の依頼や相談は、強要しない場合に限られます。
状態(妊娠・出産など)への嫌がらせ型
- 解雇その他不利益な取扱いを示唆するもの
- 上司に妊娠を報告したところ「他の人を雇うので早めに辞めてもらうしかない」と言われた。
- 妊娠等したことにより嫌がらせ等をするもの
- 上司・同僚が「妊婦はいつ休むかわからないから仕事は任せられない」と繰り返し又は継続的に言い、仕事をさせない状況となっており、就業をする上で看過できない程度の支障が生じる状況となっている。
- 上司・同僚が「妊娠するなら忙しい時期を避けるべきだった」と繰り返し又は継続的に言い、就業をする上で看過できない程度の支障が生じる状況となっている。
- 〔ハラスメントには該当しない業務上の必要性に基づく言動の具体例〕
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- 上司が、長時間労働をしている妊婦に対して、「妊婦には長時間労働負担が大きいだろうから、業務分担の見直しを行い、あなたの残業量を減らそうと思うがどうか」と配慮する。
- 上司・同僚が「妊婦には負担が大きいだろうから、もう少し楽な業務にかわってはどうか」と配慮する。
- 上司・同僚が「つわりで体調が悪そうだが、少し休んだ方が良いのではないか」と配慮する。
事業主は、こうしたハラスメントが社内でおきないよう、防止対策に関する措置を講ずる義務があります。具体的な取り組みとしては次のとおりです。
- 〔事業主の防止措置〕
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- ① ハラスメントの内容、方針等の明確化と周知・啓発
- ② 行為者への厳正な対処方針、内容の規定と周知・啓発
- ③ 相談窓口の設置と適切な対応
- ④ 被害者に対する適正な配慮の措置
- ⑤ 再発防止策の実施 など
いかがでしたでしょうか。「知らなかった…」ではすまされない社内でのハラスメント。これからは、心ないほんの一言で大きなペナルティが科せられることになります。
会社として、妊娠・出産・育児に関する様々な制度を社員が正しく理解し、みんなでサポートできるような環境と雰囲気づくりのために、社内研修などを積極的に取り組んでいきたいところです。