知っ得!身近な法律Q&A
時間外労働について教えてください(前編)
社会保険労務士編③
Q.問題
夫が印刷業に勤務しています。今は1か月100時間を超える残業をしていますが残業代がまったく出ません。また、年次有給休暇も、以前同僚が取得したときに欠勤扱いされてしまったようで、取得できません。夫は、「今は他の仕事がないのでここで頑張るしかない」と言っていますが、体調が心配です・・・。

今回の回答者

能登 伸一(のと しんいち)
特定社会保険労務士。TAC社会保険労務士講座専任講師。大学卒業後は介護福祉士として老人介護の最前線で活躍したものの、激務に腰を痛めて道半ばで挫折。その後、民間企業のサラリーマン時代に社会保険労務士の資格を取得し、後に独立開業。現在は介護の現場経験を生かして、介護業界における労務管理のプロフェッショナルとしてセミナー・執筆活動を積極的に行う。
A.回答
近年、過重労働について、大きな社会問題となっています。
企業の勝手な都合によって、長時間労働や賃金不払いがあたりまえのように行われ、その結果、働く従業員が犠牲になり、またその家族も巻き込んで「不幸」にしてしまう。こうした過重労働や法令違反は、その程度にこそ差はあるものの、私たちの身近でも、まだまだたくさん行われているのが現状です。
今回の相談事例は、そんな「ブラック企業」で働く労働者について、心配したご家族から実際に相談窓口に寄せられたものです。
労働時間や賃金の支払いについては労働基準法で最低限のルールを定めています。雇用を維持しなければならない会社側の言い分もあるでしょう。ですが、結果として法令違反を行い、従業員やその家族を会社の都合で不幸にしてはいけません。
- 【確認ポイント】
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- 長時間労働について法律では何を規制しているのか
- 過重労働をなくすために会社が取り組むべきポイント
法律ではどのように定められているのか
① 「法定労働時間」と「36協定」
労働基準法では「法定労働時間」として「原則1日8時間、週40時間までしか働かせてはならない」と時間数そのものの上限を定めています。この時間を超えて残業させなければならない場合、また法定休日に出勤させなければならない場合、非常災害時などを除き、事前に「36協定」(サブロク協定)を締結し、労働基準監督署に届け出る必要があります。届出しないまま法定労働時間を超えて働かせた場合、その時間数に関わらず、法令違反とされます。
また「36協定」には、延長して働かせることができる時間数(延長時間)を定めて記載します。会社は、定められた延長時間の範囲内で労働者を残業させても構いませんが、延長時間を超えて働かせた場合は、36協定を締結・届出していたとしても法令違反となります。
例えば、皆さんの会社で締結・届出している「36協定」では、1日何時間まで残業していいことになっているのか、この機会に確認してみてください。
- 【36協定未締結・未届出】
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- 法定労働時間を超える労働は法令違反
- 【36協定締結・届出】
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- 協定で定めた範囲内で時間外労働できる。ただし、定めた範囲を超えた時点で法令違反
後編で具体的な基準を確認していきましょう。