知っ得!身近な法律Q&A
時間外労働について教えてください(後編)
社会保険労務士編③
A.回答の続き
② 時間外労働の限度に関する基準(限度基準)
「36協定」で定める延長時間は、必要最小限度のものであることが求められ、協定を締結する会社側も労働者側も十分に検討したうえでルールを決めることが重要です。また、延長時間が余りにも長い時間とならないように、厚生労働大臣が定めた「時間外労働の限度に関する基準」の範囲となるようにしなければなりません。
なお、臨時的に限度基準を超えて延長しなければならないような事情が想定される場合は、36協定に「特別条項」を定めることにより、その範囲内で限度基準を超えて延長することができますが、あくまで「臨時的な場合」に限られるため、一時的又は突発的な事情が発生した場合など、限定的でなければなりません。
- 〔時間外労働の限度に関する基準〕
期間 延長時間の限度 1週間 15時間(14時間) 2週間 27時間(25時間) 4週間 43時間(40時間) 1か月 45時間(42時間) 2か月 81時間(75時間) 3か月 120時間(110時間) 1年間 360時間(320時間)
※( )は、対象期間が3か月を超える1年単位の変形労働時間制を適用している場合
③ 過重労働と業務災害との関係性
長時間労働による心身の疲労と、それによる睡眠不足は「疲労の蓄積」を生じさせます。それが積み重なると、脳梗塞や心筋梗塞を発症させるなど、生命に危険を及ぼす脳・心臓疾患の直接の原因となります。つまり、無理な労働を重ねてさせることにより、労働者の命を奪うことにつながるのです。
厚生労働省では、業務災害の認定判断において、長時間労働と脳・心臓疾患の関係性について、次のように基準を定めています。
④ 会社には安全配慮義務がある
労働契約法では、使用者に対して「労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮」をする義務を定めています。従業員の健康、ひいては生命に影響を及ぼすような過重労働は、こうした安全配慮義務にも違反することになり、民法等の規定に基づき相手方の損害を賠償しなければならない責任が生じます。
過重労働をなくすために会社が取り組むべきポイント
大きな事故が起こってからでは取り返しがつきません。そのためにも、会社も労働者も意識変革をしていく必要があります。具体的には次のような取り組みが推奨されています。
- 時間外労働・休日労働の削減に努める
- 年次有給休暇の取得促進を図る
- 現在の労働時間等の設定を見直して改善する
- 実態把握
- 労使間の話し合いの機会を設ける
- 業務内容や業務体制を見直す
- 労働時間の改善に向けた計画を作成する
など
また過労死等防止対策推進法では、毎年11月を「過労死等防止啓発月間」と定め、一人ひとりが過労死に対する理解を深め、「過労死ゼロ」の社会を実現するための啓発活動などが行われています。
(最後に)
雇う側も働く側も、同じ人間です。雇う側に、従業員や家族を「人」として尊重し、幸せな生活を送ってもらいたいという思いが欠けてしまうと、まず先に会社の都合が優先されてしまうことになりかねません。
最低限度、守らなければならない法律。その法律を「知りながら違反しているケース」も、「知らなかったから違反してしまったケース」も、結果として違反という事実は同じです。
(編集部からお知らせ)
2016年9月より毎月掲載してまいりました「知っ得!身近な法律Q&A」は、今号を持ちまして最終回となりました。
これまでご愛読いただきましたみなさまに深く感謝し、心よりお礼申し上げます。
またいつかみなさまと新しい企画でお会いできることを楽しみにしています。