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相続は遺言書通りにしなければ
ならないの?(後編)

司法書士編①

前編で「Aの奥さんのB」と「Aのお兄さんのC」はどちらもAの相続人であることがわかりました。それでは次にAの残した「遺言書」の効力について考えて行きます。 

2.遺言書によってCはまったくもらえないのか?

遺言書のパワーは絶大です。遺言書があれば、そのとおりに財産が相続されます。当たり前のことですが、自分の財産は自由に処分することができるので、遺言書によって自分の財産を相続する人を決めることも自由にできます。
問題の事案では、Aは「財産は全て妻であるBに相続させる」という遺言を残しているので、CはAの財産をもらえないことになります。

ただし、1点注意することがあります!
民法では“遺留分”というものが定められています。
例えば、旦那さんが死亡し、奥さん以外の人に財産を全てあげるという遺言を残した場合、今まで旦那さんの稼いだお金で生活していた奥さんは生活が出来なくなってしまいます。これではあまりにも可哀想です。
そこで、民法は、一定の相続人については、相続財産の一定の割合の確保を保障し、遺言によってもこれを奪うことができないという制度を作りました。これが“遺留分”の制度です。
ムズカシイ話に聞こえたかもしれませんが、簡単にいうと、「全ての財産を誰々にあげる」という遺言書があっても、他の相続人はまったくもらえないわけではなく、少しは分けてもらえるということです。
そうだとすれば、問題の事案のCも相続人である以上、Aの財産を少しは分けてもらえるはずですが・・・、

【民法第1028条】
兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、・・・定める割合に相当する額を受ける。
→ 逆をいうと、「兄弟」には遺留分がない(兄弟は少しも財産を分けてもらえない)ということ。

なんと、民法にはこのような条文があり、今説明した“遺留分”の制度は兄弟姉妹には当てはまらないのです。
したがって、問題の事案のCは、Aのお兄さんなので、遺留分として分けてもらえる財産もなく、結局、CはAの財産を“まったく”もらえないことになります。

【結論】
Aの相続人は、「Aの奥さんのB」と、「Aのお兄さんのC」であるが、遺言書により、CはAの財産をまったくもらえない。Bの勝ち!

3.最後に

最後に、司法書士という仕事に関連して、本問の続きのお話を書かせていただきます。
司法書士のメインの仕事は「登記」です。不動産登記というのは、土地や建物の履歴書みたいなものですから、その不動産がどんな動きをしてきたのかが一目でわかるようになっていなければなりません。どんな場合にどんな登記をすればいいのか。そこが司法書士の腕の見せ所です。
Aの遺言書の後半には、「妻のために自分名義の不動産を買主である友人Dに売却して、その売却代金を妻Bが入居する施設の費用に充てる。」ということが書かれています。これは、ムズカシイ言葉でいうと、「清算型遺贈」といいます。高齢化社会に伴い、施設に入居するためにはまとまったお金が必要になります。これを捻出するためにこのような遺言書を書く人が増えています。そして、この時、お金に代える財産が不動産だった場合は登記をする必要が出てきます。

では、この遺言書を持って、Bさんが司法書士のところに「この遺言書の通りに登記を申請して下さい!」と依頼に来た場合、司法書士としてどのような登記をしなければならないのでしょうか。
この場合、「Aさんの名義の不動産」ですから、この不動産の登記簿には「所有者 A」と記載されています。そして、買主はDさんですから、「AさんからDさんに売買によって所有権が移転した」ので、所有者をDさんとする所有権移転の登記をすればよいはずです。うん、これで解決!…とはなりません。
遺言の内容をよく考えると、この不動産の所有権は、死亡したAから買主であるDに、直接移転したわけではありません。この場合、一旦、相続人である妻B名義にした後で、買主Dに移転登記することになります。これが正解です。
一般の人には遺言の内容からは、この一旦相続人に所有権を移すというのがピンと来ないかもしれませんが、登記を見た人に、どのように権利が動いたかを知らせることが登記の役割だから、このような登記が必要となるのです。

最後にムズカシイ話をしてしまいましたが、少しでも司法書士という仕事に興味を持っていただけたらと思い、付け加えさせていただきました。
それでは、またお会いしましょう!

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