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農地の売買は自由にできるの?(前編)

司法書士編②

Q.問題

今回は、農地の売買などを取り上げたいと思います。
不動産(土地)の売買でも、「宅地の売買」と「農地の売買」では大きな違いがあります。そこで、以下のようなケースで考えてみましょう。

ケース

地方に住むAは畑を所有していたのですが、高齢のため自ら耕すことができなくなりました。そこで後継者のいないAは、その畑をBに売却することにしました。この場合、買主Bは、売主Aと契約するだけでその畑を自分のものにすることができるのでしょうか? 。

今回の回答者

木村 一典(きむら かずのり)

平成11年度司法書士試験合格。大学講師の経験を基に、Wセミナーで講師就任後から何人もの合格者を輩出し続けている、人気・実力とも兼ね備えた講師。初学者から上級者まで、受講生の立場に合わせたわかりやすい講義は人気が高く、徹底した過去問分析のもと、最新傾向まで視野にいれた講義を実施。

A.回答

農地は宅地と異なる規制があります。それが登記にも関係するため、司法書士の仕事にも大きく影響してくるわけです。  まず、農地が宅地と異なるのは、当事者間の契約だけでは所有権を移転させることができないという点です。

農地は、契約だけでは所有権が移転しない

契約だけで、何らのチェックも無く所有者が変わるとなると、譲り受けた者が、勝手に農地を農地として使用しなくなるかもしれません。そうなっては、日本中から農地が無くなる可能性があり、大変なことになってしまいます。
そこで、農地の譲渡には、農業委員会等の許可が必要とされているのです。

農地法第3条第1項本文
農地又は採草放牧地について所有権を移転し、又は地上権、永小作権、質権、使用貸借による権利、賃借権若しくはその他の使用及び収益を目的とする権利を設定し、若しくは移転する場合には、政令で定めるところにより、当事者が農業委員会の許可を受けなければならない。(以下省略)

農地について許可が必要となるのは、所有者が変わる場合に限られるのでしょうか?
いいえ、農地について許可が必要となるのは、譲渡だけではありません。貸す場合も同様に必要です。
貸すことにより、農地を借りた者が、その農地を宅地として利用することが考えられるため、それを未然に防ぐ必要があるからです。

許可の前に「売主」が死亡したケース

それでは、先程のAがBに畑を売ったケースに話を戻します。
ABが売買契約をし、農業委員会に対して許可の申請をしたが、許可が到達する前にAが死亡してしまった。Aの相続人は、妻Cだけであった。
このケースのように、売主が死亡した後に、畑の譲渡についての許可が到達したという場合、畑の所有者は誰になるのでしょうか?

もちろん、買主Bです。

農業委員会の許可が到達した時点で、既に売主Aは死亡していますが、契約は有効です。所有権の移転時期は、農業委員会の許可が到達した時になるものの、許可は畑の所有権が移転するための条件にすぎません。許可が到達した時点で既に売主Aが亡くなっていても、所有権が買主Bに移転することには影響しないのです。

ここで、「登記はどうなるのか」についてもお話しておきましょう。

登記は、ひとまず、相続人Cへの相続登記をすることになります。
売主Aが亡くなった時点では、まだ農業委員会の許可が到達していなかったため、畑の所有権は相続されることになります。だからといって、買主Bに畑を渡さなくてよいわけではありません。Aの相続人Cは、Aから売主としての地位も相続しているので、農業委員会の許可が到達した時に、畑の所有権も買主Bに移転しているからなのです。

〔実際の登記申請事例〕
実際の登記申請においては、まず相続登記を相続人Cが一人で申請することになります。このときは、戸籍等で自分がAの相続人であることを証明しなければなりません。こうした相続登記においては、農業委員会の許可は不要です。相続では、全ての権利や義務が相続人に引き継がれるため、農地だけ除くというわけにはいかないからです。
次に、相続人C名義から買主B名義に、所有権を移転するための登記を申請します。これは、BとCの双方が協力しなければなりません。もちろん、農業委員会からの許可書も付けて申請することになります。

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