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農地の売買は自由にできるの?(後編)

司法書士編②

このように、今回の事例の場合、実際の手続としては2件の申請をしなければならなくなるわけですが、実際のところ、こうした手続は結構時間もかかり面倒です。そこで、なるべくスムーズに登記ができるようにするため、売買契約の後、売主Aとの間で、先に「仮登記」しておくという方法があります。
この仮登記は、AB間での売買が成立すると、農業委員会の許可が下りていなくても可能な登記です。そして、仮登記をしておけば、所有権移転登記の前にAが亡くなったとしても、Cへの相続登記を挟むことなく、許可が下りればBへの移転登記ができるのでとても便利です。また、仮登記をしたからといって、登記に必要な税金が高くなるわけではない点も魅力です。

許可の前に「買主」が死亡したケース

では事例を変えて考えてみましょう。
亡くなったのが、売主Aではなく買主Bだった場合にはどうなるのでしょうか。買主Bが亡くなった後に農業委員会の許可が到達した時には、買主Bの相続人が畑の所有者になるのでしょうか?

答えは、売主Aのままです。

農業委員会の許可が到達する前に亡くなったのが、売主か買主か?というのは大問題です。
農地の譲渡に許可が要求される理由は、農地を使用するのが誰かをチェックするのが目的です。そのため、売主死亡のケース同様、買主死亡のケースでも、所有権がそのまま買主に移転するとなれば、相続の場合、農地であっても許可が不要になるため、その相続人は、チェックされること無く畑を使用できることになってしまいます。

こうした理由から、買主が死亡した後に許可が到達したケースでは、AB間での契約は無効となり、畑の所有者は売主Aのままになってしまいます。よって、買主Bは亡くなってしまったものの、やはりその相続人がAの農地の所有者になりたいという場合には、改めてAとの間での売買契約をする必要があるのです。

では、Aの相続人C等が農業を廃業してしまった場合、この農地の扱いはどうなるのでしょうか?
もちろん、農地は宅地に変更することも可能です。ただ、当然この場合にも「農地」から「非農地」への変更手続(地目変更)が必要となり、多くの場合、やはり農業委員会の許可が必要となります。

農地法第4条第1項本文
農地を農地以外のものにする者は、都道府県知事(農地又は採草放牧地の農業上の効率的かつ総合的な利用の確保に関する施策の実施状況を考慮して農林水産大臣が指定する市町村(以下「指定市町村)という。)の区域内にあつては、指定市町村の長。以下「都道府県知事等」という。の許可を受けなければならない。(以下省略)

実際のところ、相続した農地の全部を宅地とできる場合もあれば、一部しかできない場合もあります。また、許可が下りない場合もあるので、そのときには、他の方法を考えざるを得ません。
その土地をどう使うかによっても許可が下りるか否かが左右されるので、許可が下りる利用目的をもっている他者に貸すという方法も考えられます。公共施設や病院の建設といった目的をもつ団体に貸す等もその一つです。農地の場合、貸すときにも登記が必要となりますが、売った場合に比べ登録免許税も半分で済むので、貸すという選択肢も有効といえます。

こうした、農地の利用方法を所有者と一緒になって考え登記をするのも、司法書士の大事な仕事の一つになっています。超高齢化社会といわれる現代、特に地方では、後継者問題による今回の事例のような問題を抱えていることも多く、身近な町の法律家として地域貢献ができるのも、司法書士の仕事の魅力です。

それでは、またお会いしましょう。

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