知っ得!身近な法律Q&A

成年後見制度について
教えてください。(前編)

司法書士編③

Q.問題

今回は、成年後見をテーマに以下のようなケースで考えてみましょう。

私(A)には認知症の父親と兄がいます。最近父の認知症を良いことに兄が勝手に父の預金を引き出して遊興費として浪費しています。そこで、①「兄が浪費したお金を取り戻し」、②「今後兄による浪費を防ぎたい」と考えています。私は仕事をしており、できる限り手続等にかかる手間は省略したいのですが、何か方法はないでしょうか?

今回の回答者

木村 一典(きむら かずのり)

平成11年度司法書士試験合格。大学講師の経験を基に、Wセミナーで講師就任後から何人もの合格者を輩出し続けている、人気・実力とも兼ね備えた講師。初学者から上級者まで、受講生の立場に合わせたわかりやすい講義は人気が高く、徹底した過去問分析のもと、最新傾向まで視野にいれた講義を実施。

A.回答

1.兄が使い込んだお金を取り戻す方法

① 意思無能力を理由とする無効の主張

勝手に使い込んでいたお金について問いただされても、おそらくお兄さんは、Aさんに、お父様から貰ったといった説明をしてくるでしょうね。では、その辺りから崩す方法を考えていきましょう。
お父様の認知症がかなり重いということであれば、お父様が、自らお兄さんにお金をあげたとしても、事の是非善悪の判断がつかずに、お金をお兄さんに贈与したといえるでしょう。
とすれば、お父様による贈与は意思無能力により無効であり、お兄さんの使い込んだお金は不当利得となって、お父様に返還しなければならないお金となるわけです。ということは、あなたは、この不当利得について、そのお金がお父様のものであることを知っていた悪意のお兄さんに対し、それまで使い込んでいた全額の返還を請求できるということになります。

民法 第704条
悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付して返還しなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。

② 不法行為による損害賠償請求

①以外の方法では、お父様のお金を勝手に使い込んでいたお兄さんの不法行為を根拠に、損害賠償請求するという方法が考えられます。

民法 第709条
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

ただ、不法行為に基づく損害賠償請求の場合、お兄さんの故意・過失をこちら側で立証する必要があるので、今から証拠となりそうなものを集めておかなければなりませんね。

2.今後の財産管理と手続きについて

① 成年後見

まず、お父様の認知症の程度がかなり重いのであれば、家庭裁判所に成年後見の審判を請求してはいかがでしょうか。お父様が成年被後見人となれば、財産の管理は成年後見人が代わりに行うことになります。たとえお父様が自ら財産を処分されたのだとしても、成年後見人は、それを取り消すことができます。

民法 第9条
成年被後見人の法律行為は、取り消すことができる。ただし、日用品の購入その他日常生活に関する行為については、この限りでない。

まず手続きとしては、家庭裁判所に成年後見開始の審判を請求することから始まります。この請求は、Aさんでも行うことができます。

民法 第7条
精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、後見開始の審判をすることができる。

審判までには、家庭裁判所での面接等があり、少し手間と時間を要しますが、これは仕方ありませんね。そして審判が行われると、家庭裁判所の方から登記の申請が嘱託されます。ひとくちに登記といっても、その中身にはいろんなものがあるんですね。

② 保佐開始の審判

次に、お父様の具合が少しでも回復されていれば、成年後見ではなく保佐開始の審判を請求するという方法もあります。

民法 第11条
精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、後見人、後見監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、保佐開始の審判をすることができる。ただし、第七条に規定する原因がある者については、この限りでない。

では保佐開始の審判を受けるとどうなるのでしょうか。後編で見ていきましょう

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